第257話

 騎乗するレイシス姫を近衛が5騎で囲むように守りながら、アルタナ王都の街中を速歩はやあしで駆けている。

 5人が羽織っている青いマントは近衛の証だろうか? なんとなく周囲に見せびらかすように風になびかせている。

 俺はレイシス姫一行を飛行魔法で先導し、時々滞空して騎馬を待ちながら目的地へと飛ぶ。



「ランテス! お連れして来たぞ!」


「マジかよっ!?」


 レイシス姫の姿を見るとランテスは慌てて膝をついた。


「ツムリーソ、この者は?」


「名はランテス。

 自分と同じく明日の本選出場者であり、大会第1シードの2等級冒険者です」


「ランテスと申します。以後お見知りおきを」


「ランテスとやら、大儀である」


「そこの宿屋に標的が滞在しております」


 大通りを挟んで向こう側の建物を指差す。


「では参りましょうか」


「い、いけません!

 姫様に万が一のことがあっては国王陛下になんと申し上げればよいか……」

「ご自重ください!」


「離しなさい!」


 近衛の隊長さんらしき人とその部下が必死にレイシス姫を止めようとしている。


「奴らかなりできるぞ」


「近衛隊か? そりゃあ王族をお守りする人達だし……

 ひょっとしてオマエより腕が上なのか?」


 ちなみに近衛隊は部下に1人女性がいるだけで、後の4人は全員男性だ。

 この近衛の女性は護衛対象がレイシス姫だから配属されているらしく、俺達が(強さ談義の)対象としてるのは男性のほうだ。


「あの隊長とはやってみなければわからん。

 部下は1対1でなら確実に勝てるだろうが複数相手だと厳しいかもしれん」


「そんなに強いのか……」


 さすがは武闘を重んじてきたお国柄って感じか。

 この人達こそ大会に出るべきなんじゃないかなぁ。

 規則とかで出れないのだろうけど。


 近衛の人達はそれほどの腕を発揮する機会がないことをどう思っているのだろうか?

 自分達が剣を振るってる時は王族が危険な状況にあるわけで、近衛として有り得べからざることだろうし。

 前線に赴いて戦うこともない。

 案外俺が持ち込んだこの案件は、ひょっとしたら実戦があるかもと歓迎されてたりしないだろうか?

 1人1人の顔を見てみるがそのような様子は感じられない。


「私はこれでも軍人なのですよ?」


「しかしながら姫様!」


 ここは俺がなんとかすべきなんだろうな。

 意を決してレイシス姫に話し掛ける。


「恐れながら申し上げます」


「ツムリーソ、なんですか?!」


「事態がどのように推移するか予想だにできません。

 レイシス様におかれましてはこの場にて指揮を執って頂きたく……」


「…………わかりました。

 ツムリーソがそのように申すのならばそうしましょう」


「ありがとうございます」


「(ツムリーソ?)」


「(あだ名みたいなもんだ。気にするな)」




 結局近衛隊の部下2人が俺とランテスに同行して問題の宿屋へと突入する。

 屋外にはレイシス姫と隊長含めた残りの近衛隊3人が待機することとなった。


 近衛が宿屋の主人に標的の部屋を聞いている。

 宿屋の主人も特に抵抗することなく素直に教えている。

 2階の奥の部屋みたいだ。


 標的とのやり取りの一切は俺に一任されている。

 俺以外は確信を得てない中で任されるのは当然だと思うけど、もし外れていたらお前が全責任を負えってことなのかもしれない。


 それと俺とランテスは屋外に待機している近衛隊から青いマントを借用している。

 いくらなんでも普段着のまま尋問したり捕えるのは説得力がないからだ。



 コンコン


 2階へと上がり、教えられた部屋のドアをノックした。


 カチャ


「なにか?」


「通報を受けまして。何やら不審人物を見られたとか?」


 思いっきりウソだが、取っ掛かりが何もないのだから仕方ない。


「知りませんね。人違いじゃないですか?」


 改めて間近で接するとデカいな。見上げないと顔を見て話せない。

 そして……

 先入観があるからなのか、どことなく違和感が……


「何か心当たりはありませんか?」


「いいえ、何も。もういいですか?」


「こちらも公務として来ている以上『人違いでした』では困るのですよ」


「えっと…………」


 こんなこと言われても相手だって困るだろう。


「中でお話しだけでも聞かせてもらえませんか? 大して時間は取らせませんので」


 凄く嫌そうな顔をされる。当然だけど。


「それとも、何か不都合なことでも?」


「い、いいえ、どうぞ」


 4人で部屋に入る。

 中はよくある宿屋の一室だ。


 もういっそ攻撃してしまおうか……

 両足を斬り落としてしまえば素直に吐くだろう。

 スキルで黒なのは確定してるのだし。

 ただ、このやり方はスマートではないよなぁ。

 俺のほうから頼んだ手前、あまりレイシス姫をビックリさせる訳にもいかんか。

 とりあえずは正攻法で、


「すぐ終わりますので。まずはお名前は?」


「リールモンドです」


「どちらの出身ですか?」


「南の森の中の村の出身です」


「その村の名前は?」


「名は特にありません」


 名前のない村なんてあるの? と3人を見ると頷いているのでどうやらあるらしい。

 そういえば南にあるルミナス大要塞からレグの街へ向かう森の中に小さい村がいくつか点在していたっけ。


「王都に来られた目的は?」


「武闘大会を観戦するためです」


 違和感なく答えてくるなぁ。

 事前に調べたのだろうか?


「ご協力ありがとうございました」


「これだけでいいのですか?」


「ええ。報告書を作成しないといけませんので」


「ご苦労様でした」


 一旦帰る素振りをして振り向き、


「あっと、最後に1ついいですか?」


「何でしょう?」


「どうやって人に化けてるのですか?」


 刑事モノのお約束をかましてみたところ一瞬にして部屋の空気が変化した!


「ナゼワカッタ?」


 それまでの声とは打って変わり、重低音のカタコト声が部屋の中で響いた。

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