第255話
地図(強化型)スキルは2次元表示だ。
実際は地下や上空にいるということも考えられる。
なぜならさすがに魔物が街中を
「コイツら何体もいるのか? それとも角の数に応じて1体のみなのか……」
普通に考えれば飛行種による偵察なんだろうけど、空を見上げても飛行種の姿は確認できない。
地下だと……王都攻略の為に坑道を掘り進んでいるとかか? 要塞攻略戦みたいな? う~ん……
「これまでは単体でしか出現していないが、複数が同時に現れるようなことになると厄介になるな。
ってオィ! 聞いてるのか?」
ここで推理してても何も始まらん。現場に行くべきだろうな。
「ランテス、王都内に魔物がいる」
「はあ?」
「場所的には近くだ。行くぞ!」
黒オーガの死体を再び収納し、囲いを消して歩き出す。
「オ、オイ!? ちょっと待て!」
ランテスに肩を掴まれた。
さすがに素直にはついてこないか。
「こんなとこに魔物がいる訳がないだろう。
どうした? 頭でも打ったか?」
失礼な奴だな!
しかしスキルのことを言う訳にもいかないし…………
よし!
「わからないのか? この邪悪なる気配が」
「気配だとぉ……」
「勘が鈍ってるんじゃないか?
強者と実戦で戦わなくなってどれぐらいだ?」
あくまでもわからないのはランテスのせいだってことにする。
酷い濡れ衣だ。
「知っているか?
キング並みの強さの凄まじい技量を持ったオークジェネラルもいるんだぞ」
(ベルガーナ王国の)王都にいてたら別だろうが、ずっとアルタナにいたのならこの情報はまだ知るまい。
「だとしてもそんな気配を感じ取れるなんて聞いたことがないが……」
「まずは移動しよう。話はそれからだ」
現場に到着する。
地図(強化型)を見ると20メートルほど先に標的がいるはずだ。
場所は王都内にいくつかある南北の大通りの一つで、人通りが結構激しい。
スキル上に表示される赤い点と同じ動きの人物を発見。
身長は2メートル近くの大柄、背を向けているので顔はわからない。
そして当然ながら魔物ではない。
どういうことだ?
「奴だ。あの大柄の……」
「まさか背が高いってだけで疑ってるんじゃないだろうな。
いいか。獣人の中には背が高くなる種も複数いてだな……」
「いや、背が高いから魔物と言ってるのではない」
注意深くスキル上の表示と標的を観察するが間違いない。
地下から侵入しているという線は消えたが……
もし、スキルの赤い表示が魔物だけではなく敵対勢力全般を表示しているのなら……
魔物や魔族に加担する人間や獣人という可能性もある訳だ。
いずれにせよ、仕掛けてみればわかる。
「何をするつもりだ?!」
「奴を捕縛する」
「なっ!? バカなことはやめろ!」
「やってみなければわからん!」
「牢獄にぶち込まれるぞ!」
牢獄?
捕まえようとしただけで?
「街中で抜刀しただけでも厳しく処罰されるのを忘れたのか?
もちろん攻撃魔法だって同じだぞ」
そんな厳しいの?
「俺、街中で2回ほど戦闘してるけどお咎めなしだったぞ」
「それは魔物との戦闘だからだろ。
人相手にそんなことしたら処罰されるに決まってるだろ」
例え人であっても魔物の関係者なんだって!
と言ったところで信じてはくれんか。
「どうしても捕えるというのならせめて街の外でやれ。
今はこのまま後をつけるべきだ」
ランテスの言うことにも一理あるか……つか、あちらが正論だな。
「わかった。そうしよう」
標的はゆっくりと北へ向けて歩いている。
細心の注意を払って観察しているが、スキルで敵と表示されている以外に特に怪しい点は見受けられない。
むしろ男2人でコソコソ尾行している俺達のほうが怪しいまである。
魔物に協力…………ここはもう魔族と決めてしまおう。その魔族に協力するとしたら何についてだ? やはり情報を渡しているのだろうか?
あるいはバルーカ城内への転移攻撃は転移先にも仕掛けが必要でそれを工作した協力者がいる、としたら?
このアルタナの王都でも同じような攻撃に晒される危険性があるのかも?
ん?
ゆっくりと歩いていた標的が立ち止まった。
大通りの左手にある建物へと入っていく。
その建物は宿屋でランクは普通ぐらいだろうか。
王都の外で捉えるというこちらの計画はこれで頓挫したわけだ。
「さて、どうする?」
「どうもできんぞ。
街の外に出なかった時点で計画は失敗だ」
だとしてもみすみす取り逃がすなんてできない。
もしかしたら魔族の足掛かりになるやもしれないのだ。
「衛兵に事情を話して……」
「無理だな。
その事情というのも貴様が感じる曖昧な気配とやらだけでは動きようがないだろ」
くそぉ、ランテスのくせに正論言いやがってぇ……
「その曖昧な根拠で動いてくれそうな知り合いの衛兵とかはいないか?」
「衛兵の知り合いはいるが、そいつが王都のどこにいるかまでは知らんぞ」
「むむむむ。こうなったら仕方ない、奥の手を使おう」
「何か方法があるのか?」
「あるにはあるのだが……」
できれば切りたくなかった手札だ。
「もったいぶらずにさっさと話せ」
「王家の方にお願いするのだ」
「は?」
「アルタナ王家の第三王女であらせられるレイシス・ル・アルタナ姫にお願いするんだ」
「はああああ?」
「言っておくが、荒唐無稽な話でも大言壮語をしているわけでもないからな」
「レイシス姫ってこの前の魔物の襲撃の際にレグの街を守り抜いた英雄じゃないか。
そんなお方にお願いできるような目算があるのか?」
「俺はベルガーナ王国でバルーカに来られたイリス姫にお仕えすることになってな。
イリス姫と懇意なレイシス姫とは面識がある。
先の南砦奪還ではレイシス姫は観戦武官としてバルーカに来ていたし、作戦終了後はアルタナまでお送りして差し上げた間柄だ。
必ず助力を得られるとまでは言えないが、お願いするだけなら確実にできると思う」
「イリス姫って確か王位争いに敗れて王都を追われた……」
「ああ。
王城に行けば俺の言ってることも本当だとわかるはずだ」
「俺は行かないぞ。ここで何か動きがないか見張っておこう」
こいつ、俺の話を信じてないな。
まぁ一介の冒険者が王族と繋がりがあるだなんて信じられなくても当然か。
「わかった。
俺は王城に行くからここは頼む」
その場を飛び立ち王城へと向かった。
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