第244話
ワァー! ワァー! ワァー! ワァー!
舞台上では準々決勝第2試合の決着がついたようだ。
本予選1組の本日の最終戦である。
さすがに準々決勝だけあってそれまでの試合とは盛り上がり方がかなり違った。
「終わったようね」
「そのようですね」
貴族か商人の奥方(と勝手に妄想する)らしき茶髪のご婦人はおもむろに立ち上がり、
「私は次は別会場の5組を観戦するけど、あなたは?」
「このまま4組の観戦です」
「そう…………
明日は頑張ってね。応援してるから」
自然な感じで俺の手を握ってくる。
「ご期待に添える戦い方ができるかはわかりませんが……」
なんせ俺の戦い方は超絶地味だ。
ギルドの昇格試験のように実況と解説付きならまた違ったのだろうけど。
もちろん対策はするつもりだけど、盛り上がってくれるかどうかは観客次第だ。
「あら。中々自信があるようね」
グゥーーーーっと俺に顔を近付けてくる。
ご婦人の胸元から覗けるたわわなお山がぁぁぁぁ!?
「そ、それほどでもありませんが……」
俺の目的……相応の相手と対戦しなければならないことを考えれば、せめて本予選最終日の第1シードと戦わなければいけない。
明日で負けてたら話にならないのだ。
すべてこちらの都合ではあるが……
ご婦人にじぃーーーーと見つめられる。
「明日の試合観戦が待ち遠しくなってきたわ!」
それだけ魔術士は期待されてないってことなのだろう。
戦闘ランクで一桁評価されるぐらいだ。
1回戦負けが濃厚なのにも関わらず、自信を覗かせる素振りを見せればさらに興味を抱かれても仕方ないか。
颯爽と立ち去っていくご婦人と慌てて付き従う従者の男性。
結局誰なんだろう?
アルタナ王都の郊外に練習場を作り、そこで明日に備えて魔法練習をすることにする。
本予選4組の試合観戦は途中で切り上げることにした。
延々と近接戦闘ばかりを見るのに飽きてしまったからだ。
ただ、途中で見るのを止めてしまったとはいえ、まったく収穫がなかったわけではない。
スタンドからの観戦なので試合を上から見る形となり、戦う際の間合いの取り方やフェイントの掛け方・獣化移動の軌跡などがよくわかり大変参考になった。
見てて楽しめるような戦い方、か……
ルルカに宣言したことだが、結局は試合でメインで使う風槌や魔盾が見えないことに尽きるのではないだろうか?
攻撃を風系統ではなく水系と土系で行えば、少なくとも何が起きたかわからないなんてことはないだろう。
もちろん試合で使えるように非殺傷性を高めるよう調整しないといけないが。
水玉と水棍、土槍と土刺しを調整していく。
水槍は非殺傷化させると水棍と同じになるので却下とした。
水玉と水棍は元々殺傷能力が無いのでほとんど調整は必要なかった。
土刺しは地中から杭を打ち出すイメージで相手にダメージを与える魔法とし、土槍は刺す部分をなくすと棍と一緒なので、土棍という棍を飛ばす新しい魔法とした。
ただ、この土刺しと土棍は舞台上を変形させたり散らかしたりするのだけどいいのだろうか?
魔盾に関してはどうにも解決策はなかった。
大きな布を持つようにして形をわかるようにすることを思い付いたけど、布を持つ姿が手品師を連想されてしまいダメだった。それに布を持つ手の側にしか魔盾を置けないという欠陥がある。
そもそもが魔盾を見える人と見えない人の違いがよくわからない。
ランテスやゲルテス団長には見えていたし、昇格試験で対戦した3等級のロイドも見えていた。
他は…………
こうして改めて思い出してみると対人戦ではあまり魔盾を使ってないな。後は奴隷商でロザリナと戦った時ぐらいか。
ある程度の強さを持つ者には見えるのだろう。
こういう情報は魔術士の知り合いでもいれば割と簡単に手に入るのだけど…………
!? そうだよ!!
俺には同じ魔術士の知り合いがほとんどいなかった!
魔術士で真っ先に顔を思い出せるのはタークさんパーティーのスクエラさんだが、思ったほどには会う機会はなく、本人の性格が不思議系なことも相まって積極的に情報交換できる感じではない。
次はネルさんか。俺に飛行魔法を教えてくれた5等級冒険者だが知り合いというには接点がなさすぎる。
一応ロザリナの知り合いらしいので仲介を頼むことは可能だけど……
やましいことは何もないのだから気にする必要はないのだが、ルルカの反応が気掛かりだ。ロザリナも1度敵と認定するとしつこそうだしな……
他には2ヵ月前に指導した軍の魔術士達がいる。
本来なら師弟関係として『師匠! 師匠!』と積極的に慕われて当然と思うのだが、待てど暮らせど一向にその気配はない。
もっとも弟子の持つ情報をアテにする師匠もどうなんだという話ではあるけど。
あとは…………南砦で司令部に待機している際に伝令役の飛行魔術士と雑談したぐらいだ。
グリードさんパーティーのモイヤーさんは回復魔法を使えるが、厳密な意味での魔術士というわけではないしな。
その後観客視点での見え方という演出面を考慮した練習をして宿へと戻った。
宿に戻ったのはまだ夕方前だったが3人共揃っていた。
「ロザリナ、ギルドはどうだった?」
「3等級の獣人が依頼を受けてくれました」
「ケガとかは大丈夫だったか?」
「はい。私が大会出場者ということもあり特に気を遣って頂けました」
「それは良かった。
これは組み合わせが載ってる冊子だ」
「拝見させて頂きます」
「ロザリナは16組で一番最後の組だぞ。
ルルカ、この国の王都はどうだった?」
ロザリナの隣で冊子を見ようとしているルルカに聞いてみる。
ディアは冊子には興味ないようだ。
「色々なお店を見て回れて楽しかったですよ」
ルルカが部屋の隅に置かれている大量の品々へと視線を向ける。
「またたくさん買ったな。荷物持つの大変じゃなかったか?」
「ディアも荷物持ちしてくれましたし、一旦荷物を置きに来ましたから大丈夫です」
「ディアもご苦労だったな。大変だったか?」
「こんなにたくさん買い物したのは初めてだったから楽しかったぞ!」
「楽しめたのなら良かった」
ディアも買い物好きと。
「ツトムさんはどちらに……」
あちらではもはやルルカがメインで冊子を見ている。
「俺は14組だぞ」
今日王都観光に行くぐらいだから大会そのものに興味があるわけではないみたいだが……
近しい人が出場するから気になるって感じか。
観客席にいた茶髪のご婦人が語っていた予備予選が盛り上がる事情と似てるな。
「戦闘ランクがたったの8……」
「ツトム様……」
やはりそこに引っ掛かるか!
「この国では魔術士が不当に低く評価されているのが原因みたいだぞ」
「それにしても……」
「ねぇ……」
コ、コイツら…………
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