第182話

「くっ……」


 戦闘を再開したものの状況は良くない。

 理由は単純で間合いで勝負にならないのだ。

 風槍・零式は文字通りの零距離射程で近接格闘相手にしか届かない。

 思えば黒オーガは徒手空拳だったし、オークキングも斧を投擲した後で止めを刺したのだった。


 徐々に魔盾でジェネラルの攻撃を防ぐ時間が長くなっていく。

 通常の魔物相手なら間合いで負けててもここまで苦戦しないはずだ。

 このジェネラルの戦闘技能の高さが大剣による間合いの有利さを最大限活かしている。

 一言で言うなら相性の悪い相手と言う事だ。


 この状況を打破する方法を二つ考える。

 一つはもう一度九頭風閃を放って今度はすぐに突っ込む。

 先ほどのようにジェネラルの体勢を崩せれば容易に肉薄出来て零式で止めを刺せるはず……

 ただ、懸念材料としては九頭風閃を放つのが二度目だということだ。対応されたら負けるというか、間違いなく斬り殺されるだろう。

 もう一つは昇格試験で使った風槌ファ〇ネルだ。初見だから対応されることもないはずだ。

 こちらは風槌なので殺傷能力が低いのが問題か…………いや、模擬戦ではないのだから相手を生かす必要はない。風槌ではなく風刃でファ〇ネル攻撃を試してみるべきか……風槌よりかは殺傷能力はあるだろう。


 どちらを選択すべきか………………よしっ!

 風刃ファ〇ネルで決着をつけよう!

 仮に仕留め損なったとしてもそれなりのダメージは与えられるはず。


 ジェネラルの攻撃の合間に牽制で土刺しや風槍(回転)を使いながらタイミングを伺う。

 単発の風槍(回転)はほぼ回避されるが、狙いは土刺しで大剣を振らすのと残骸物で回避し辛い状況を作ることにある。


 ここだ!!


 土刺しの後に即風刃ファ〇ネルで…………


 !?!?!?!?

 ヤバっ! 発動が遅れた!!

 くそぉ、ぶっつけ本番なんてやらずにきちんと練習しておけば……


 ジェネラルは風刃ファ〇ネルの効果範囲から素早く移動回避して、大剣を振り上げながらこちらに突進してくる。


 未だ風刃ファ〇ネルは発動中で敵のいない空間を斬り刻んでいて、発動終了よりもジェネラルによる攻撃の方が一瞬早い!

 つまり魔盾で防御することができない!!


 振り下ろされる大剣にもうどうしようもないので左手の籠手の部分で剣閃を受け流そうとするが…………


 衝撃もなく……


 音もなく……


 痛みすら感じることもなく……


 ジェネラルの大剣が力感なくスッと振り下ろされた。


 俺の左前腕部が重力に負けて落下していく……


 肘の関節部を斬り飛ばされるとかではなく、前腕の半ばから骨ごとバッサリ斬り落とされた。


 それまで一貫して無表情だったジェネラルが初めて獰猛な笑みを浮かべる。


 しかし……


 互いが接近しすぐ手が届く位置関係こそ俺がずっと望んでいた間合いだ。


 俺に止めを刺そうとジェネラルが大剣を突き出すよりも早く、俺の残された右手に発動させた風槍・零式をジェネラルの胴体にブチ当てた!!


 動きかけた大剣がピタリと止まり、ジェネラルが前のめりに倒れる。



 か、勝った…………

 肉を切らせて骨を断つという諺があるが、今のは骨を斬らせて……なんだろ??

 紆余曲折はあったものの結果的には最初の目論見通り零式で勝つことができた訳だ。


「ツトム!!」


 内城の入り口から白銀の煌びやかな鎧姿の姫様が駆け寄って来た。


「あぁ……そなたの腕が……」


 腕のことを意識させられ痛みが徐々に……


「お召し物が汚れてしまいます。お離れ下さい」


「そのようなことはどうでも良い! あぁ……ち、治癒師を……」


 自分でも興奮状態が治まっていくのがわかる……つまり脳内に分泌されていたアドレナリンも引いていくので段々と痛みも激痛に変化していき……


「し、失礼しますね」


「あっ…………」


 正直姫様に構う余裕がない。

 頭では回復魔法で切断された腕を繋げることができるのはわかっているのだが、実際に身体から切り離された自分の肉体の一部を見てしまうと精神的ショックが殊の外大きい。


 思ったほどには出血はないものの、心臓の鼓動に合わせて切断箇所から血が噴き出ているので、止血の為に前腕部を半ば失った左手を上に挙げながら斬り落とされた手を拾う。


 パニくるな! 気をしっかり保て! と心で念じながら傷口同士を繋げて回復魔法を掛ける。

 左手の各指が動くのを確認しながら念の為にもう一度回復魔法を使う。



 ふぅぅ~~~~。

 左腕の処置を終えて文字通り一息つき、周囲を見渡す。

 オークリーダーは3体が討ち取られ残りは2体だ。

 どうやら途中から金髪ねーちゃん(プラス騎士1名)が加勢に入ったことで均衡がこちらに傾いたようだ。

 今は2体のオークリーダーそれぞれを10人ぐらいで囲んでおり、討ち取るのも時間の問題だろう。


 なら俺がやることは…………まずは姫様か。

 姫様には護衛の騎士が2名付き従っているので大丈夫だとは思うが、念の為に下がって頂いたほうがいいだろう。

 回復魔法で繋げた俺の左腕を不思議そうにサスサスしているお姿は可愛らしくもあるけど……


「姫様、自分はもう平気ですのでお下がりください」


「…………ハッ!?

 そ、そうですね、そなたの働き見事でした」


「ありがたきお言葉……」


 姫様が護衛騎士と共に内城に入っていく。


 さて、次はどうしようか……

 とりあえず自分が討ち取ったオークジェネラルを収納にしまいながらどうするか考える。

 オークリーダーとの戦いに参戦するのは止めた方がいいだろうな。手柄を横取りするのかと文句言われてもつまらないし。

 地図(強化型)スキルを確認するが表示範囲に他の敵はいないので、倒れている兵士の治療をすることにした。

 回復魔法を掛けていくが、一人だけ首元を深く戦斧で斬られており既に事切れていた。




「グオォォォォ…………」


「や、やったぁ!」「勝ったぞ!!」「オーー!!」


 オークリーダーの最後の一体が討ち取られ兵士達から歓声が上がる。

 最後は戦列には加わらずに後方から指揮をしていた金髪ねーちゃんがこちらにやって来た。


「ツトム、よく戻って来てくれました。礼を言います」


「お礼でしたらロイター様に。子爵がいち早く敵の狙いを看破して自分にバルーカに向かうよう指示を……」


「そうでしたか。ロイター子爵には明日にでも書状を出すとして、砦の攻略はどうなりましたか?」


「順調です。自分があちらを発つ直前にゲルテス男爵以下の部隊が砦内部に突入しました」

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