第159話

 グラハムは顔以外はほぼ防御を捨てて攻撃して来た。

 こういった模擬戦用の戦い方なのだろうが、自身の体格と防御力を最大限活かすやり方だ。

 そして顔への攻撃も身長差のある俺では互いが密着でもしない限り剣は届かないのでほとんど考慮しなくていいのだ。


『初戦のツトム対ロイドと似たような展開なのですが、今度はグラハムが終始ツトムを押しています。

 ラックさん、この違いはどうしてなのでしょう?』


『その違いはズバリ! ツトムの魔法攻撃が有効か否かです。

 初戦の対ロイド戦は最初の魔法攻撃が効いてましたので近接戦でダメージを与えられないことにロイド自身が焦ってしまったのです。また魔法攻撃に移られたら負けるという恐怖が焦りを生みそのことが剣の技量で勝っていても後退してしまうことに繋がりました』


 俺の攻撃はグラハムが防御をしないおかげで良く当たるのだが、鎧の上からではダメージがないし鎧で覆われていない継ぎ目などを狙っても剣腕が弱い為かダメージを与えられない。


『しかしながら今回はその魔法攻撃がグラハムの厚い防壁の前に全て阻まれています。

 いくらツトムが近接戦闘で互角に戦えると言ってもあくまでも回復魔法でダメージを癒しているだけですので、グラハム側としてはこのまま落ち着いてツトムの体力を削って行けば勝てるという目論見なのでしょう』



 一体いつからなのだろう?

 俺の心にずっと棘のように突き刺さっていたある想いがあった。それは……


 俺には剣の才能がないのではないか?


 これを認めるのは日本から剣と魔法のファンタジー世界にやって来た俺には耐え難い苦痛だ。

 特に剣は戦いが銃火器に移行した後も刀を手放さなかった民族の端くれとして並々ならぬ想いがあるからだ。

 まだこちらの世界に来て2ヶ月も経ってないとかロクに練習もしてないとか色々理由を挙げて言い訳をすることはできる。

 だけど……


 あれは剣術スキルが1つ上がって王都でランテスと手合わせした時だったか。

 スキルが上がったのに何も強くなってないのだ。

 最初はランテスの腕が凄すぎてスキルレベル1もレベル2も大して変わらないのだろうと思った。

 ただそれはあくまでもランテス側から見た話であって、俺自身は少なくとも剣を(それまでよりかは)上手く扱えるようになってないとおかしいのだ。

 昨日の特訓でロザリナが連れて来たトルシュにも歯が立たなかったことで確信した。


 スキルレベルを上げても強くはならない、と。


 魔法もスキルレベルを上げただけでは強力な魔法は使えない。自分で開発して修得しないといけないのだ。

 きっと武術や体術系のスキルも同じなのだろう。自らを鍛えて修練を重ねないと強くはならない。

 スキルレベルとは努力すればここまでの魔法なり技なりが習得できますよという目安的なモノなのではないだろうか?

 だが、俺がいくら修練を重ねたところでランテスや先ほど戦ったロイドのように剣圧で風槌を相殺できるようになるとは思えない。

 つまり例え同じスキルレベルであっても生まれ持った才能によって強さや技術に差が出来るということを残酷なまでに俺に突き付けて来るのだ。



 一旦距離を取り俺は木刀を投げ捨てた。 

 収納にしまってもよかったのだが、観客がいるのだから見てわかり易いほうがいいだろう。


「どうした? 降参か?」


「いや」


 俺は拳を握り身構える。


「ぬ!? どういうつもりだ?」


「どうもこうもない。これからは己の拳で戦うということだ」


「ふざけるなっ!

 そんな小さな体で私と肉弾戦をするつもりか?!」


「ふざけてなどいない。

 が、どう思おうとあなたの自由だっ」


 一気にグラハムの懐に飛び込み拳を叩き込む。

 俺が木刀を捨てたのは格闘戦に持ち込んで関節技でも狙った方が勝機があるのではないかと考えたからだ。

 そして……


「ぐぅ!?」


 グラハムの巨体を僅かだが押し込む。

 今まで使っていた拳法剣において、拳打と蹴りはあくまでも剣の牽制として使っていた。

 それを拳のみに全力を集中して叩き付けるのだ。

 鎧の上から殴る以上当然拳の骨は砕ける。

 その砕けた拳を回復魔法で治療して再び殴る!


「しょ、正気か? そんな戦い方……」


「さあ……なっ!」


 殴り続けたことでグラハムの鎧に凹みができ始めたが、やや冷静さを取り戻したグラハムも反撃して来た。

 木刀を振り下ろして来る手を取り関節を極めようとするが……

 ダメだ! 奴の腕が太すぎて失敗した!!


 グラハムはここぞとばかりに剣と盾を使って猛攻を仕掛けて来た。

 俺は遂に最後のカードを切ることにする。

 準備していた新技……というかアレンジ技だ。


 防御しながら隙を伺い……


「いけっ! 風槌!!」


 風槌によるハーフレンジ弾幕攻撃だ。


 ドドッドドドドッドドドドドッドドドドドッドドドドドド!!


「うおぉぉぉぉぉぉ?!」


 グラハムは必死に盾を掲げて身を守ろうとしているが、全身を守れる訳ではなく横から後ろから上からの攻撃に晒されてダメージを受けていく。 



 以前失敗の烙印を押された風槌の弾幕攻撃を何とか使えるようにできないかと試行錯誤して完成したのがハーフレンジ弾幕攻撃だ。

 思い付き自体は某サイコミ〇兵器からなので極めて簡単だったのだが、実践の段階において難題が待ち受けていた。

 それは奥から手前に向けての攻撃ができないのである。

 風槌アッパーにしろ横からの攻撃にしても微妙に前方にも撃ち出しているのだ。


 当初目標の周囲をグルグル回りながら撃つ練習をしたのだが、それだとすごくカッコ悪い……コホン、相手も動く以上難しいという判断から手前に向けて放つ風槌の習得を目指すことにした。

 難航したものの鏡による反射をイメージすることを思い付いて無事に習得することができた。



 魔法の発動を止めて、ハーフレンジ弾幕攻撃中に手放したグラハムの木刀をゆっくりとした動作で拾う。

 グラハムは片膝を着いているものの気絶してはいない。

 数百に及ぶ風槌を叩き込むのだ。

 気絶するまで攻撃を続けると結果的にはそれ以上の悲劇を生んでしまう。


 おそらく意図的に魔法を止めたことがわかったのだろう。

 俺の動きを見ていたグラハムは一瞬フッと笑みを浮かべて目を閉じた。

 その首筋に木刀を添えて回復魔法を施す。


「勝者ツトム!!」


「うおぉぉぉぉ!!」「マジかよぉぉぉぉ」「グラハムがぁぁぁぁ」「なんだよあの魔法は!?」「5等級なんかに嘘だろ……」「儲かったぁぁぁぁ!!」

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