第84話

「ツトム、そなたこの首飾りでは私には釣り合わぬと申すのですね?」


「はい。姫様のお美しさの前ではいかほどの価値もありますまい」


「証明できますか?」


「もちろんでございます。マイナさん首飾りを自分に」


 マイナさんから首飾りを受け取り見えるように手に持ち土魔法を発動する。


「お、お待ちなさい!!」


 首飾りの半分ほどを土で覆ったところで魔法の発動を止めた。

 一瞬このまま土で覆って破壊したと見せかけて収納にしまってネコババしてやろうかと思ったのだが、もしこの場に魔術士がいるなら即バレだろうからやらなくて良かった。


「そなたが本心で申してると認めます。(まさか少しの躊躇もなく魔法を発動させるなんて)」


「信じて頂き感謝致します」


 首飾りを浄化魔法で綺麗にしてマイナさんに再び渡した。


「そなたの忠誠、このイリス・ルガーナしかと受け取りました」


「ありがたき幸せに存じ奉りまする」


 膝を付き頭を下げる。

 これで終わったかな。


「…………」


「…………」


 な、なんなんだ。この間は。

 もう用事は済んだのだし下がらせて欲しい。


「コホン。ツトム殿、姫様への願い事を申し上げるといい」


 ん? どういうことだ?


「私如きの献上品を受け取って頂いたことで願いは果たされております」


 マイナさんが俺の近くまで来て、


「いいから姫様に願いを言いなさい」


「そんなこと言われても……、御礼をしに来たのに願いを重ねては筋が通りませんよ」


 小声でのやり取りなのだが、姫様には丸聞こえだと思う……


「商会への仲介程度でこんな大げさな献上品をするツトム殿が悪いのですよ」


「ええ!? だって首飾りはそのノーグル商会経由で薦められたんですよ?」


「そのようなことはこちらの知ったことではありません。このままツトム殿を帰しては姫様の沽券に関わるのです。何でもいいから願いを言うのです」


「本当に何でもいいのですか?」


 姫様とイチャイチャとか。

 でも結婚されているだろうな。

 マイナさんとのイチャイチャはどうだろうか?

 さっきまで姫様の美しさを散々讃えておいてそれはないか。


「もちろん王族への敬意を忘れなければ何でも構いませんよ」


 あーあ、これダメなヤツだ。

 今日は無礼講だからといって本当に無礼講したらダメなパターンだ。


「ツトム、遠慮せずに申すのですよ」


「恐れながら。許されるのであれば姫様の肖像画を所望致したく……」


「私の肖像画ですか」


「はい。姫様の美しさを毎日目にすることが叶うならこれに勝る悦びはございません」


 写真があればなぁ。


「正面からので良いのですか?」


「あのっ……、いえ……」


 自重しよう、うん。


「先ほど遠慮せずに申すように言いましたよ」


 自重……


「正面のに加えまして斜め後ろから見ましたお姿を頂きたいです」


「衣装はどうしますか?」


「薄手の露出の高いモノで」


「装飾品は…」


「付けないでください。ありのままの姫様を堪能致したく……」


「南砦の奪還後でしたら時間も作れましょう。楽しみにしていなさい」


「ありがたき幸せにございます!!」


 言ってみるもんだな!




 面会前とは違いホクホク顔で受付に戻り、贈り物の手続きをする。

 相手は伯爵(領主)・ゲルテス男爵・金髪ねーちゃん(ビグラム子爵)だ。

 贈り物は王都で購入したお酒(2種)である。




「やぁツトム君」


「お久しぶりです、ロイター様」


 受付で贈り物の手続きをした後すぐに案内された。


「魔法使用の件は良く知らせてくれたね」


「模擬戦の対戦相手がいきなり使用してきたのでびっくりしまして」


 ソファに座るよう促された。

 対面に座るロイター子爵の背後に従卒とは別の女性が立つ。

 20代後半で厳しい表情をしている。

 そんなきつめな表情もアリと言えばアリだな。

 お山は普通よりやや大きめか。


「指導した魔術士も特定して事情を聞いたのだけど、本人が言うにはきちんと注意したそうだよ」


「自分が見た感じでも冒険者側が暴走した面が大きいと思われます。ですが今後のことを考えると……」


「既に新魔法を指導する際は厳しく注意するように布告を出してある。

 とは言え、魔法使用に関する一般的なルールはないからいずれ事故や事件が起こることは覚悟した方がいいよ」


「はい。承知しております」


「そろそろ一般的な枠組みの中でのルール作りをすべき時代になったのかな。もっともそれは中央の仕事だけどね。

 ところで、今日のツトム君の用件はなんだい?」


「まずはこちらを。王都に行っておりましたのでそのお土産です」


 当然ロイター子爵にも王都で購入したお酒(2種)を贈る。


「これはわざわざありがとう。家での晩酌が楽しみだ」


「それは何よりです。本日はいくつかのお願いとお聞きしたいことがあってやって参りました」


「ふむ。そういうことなら先にこちらの用件を済ませよう。

 今日か明日にでも君の家に伝令を送るつもりだったのだが、3日後に南砦奪還に関する軍議が開かれるので君も出席するように」


「自分が……でありますか」


「君には私の下で色々と動いてもらうかもしれないから作戦の全体像を知ってもらわないとね。それに関係者への顔見せという意味もある」


「わかりました。それで具体的な時間などは……」


「それは次の用件も絡んで来ることなんだ。

 今後は後ろのナナイ君が君の担当となる。

 彼女は若いが優秀な補佐官でね、細かいやり取りや質問・指示受けなどは彼女と行って欲しい」


「ナナイと申します。今後ツトムさんの補佐をさせて頂くことになります。よろしくお願い申し上げます」


「こ、こちらこそよろしくお願いします」


「私も行軍中はもちろんのこと作戦前は準備が、作戦後は後始末やら何やらで忙しくなるからね。

 ああ、丁度いい。予行演習も兼ねて今日のツトム君の用件は君が対応しなさい」


 そう言うとロイター子爵は自分の机の椅子に移動してしまった。


「失礼します」


 ナナイさんが俺の対面に腰掛ける。

 中々素敵なおみ足だ。


「まず、そうですね……

 ナナイさんにはどこで会えばよろしいでしょうか?」


「私は城か家のどちらかにおりますので、後ほど家の場所をお教え致します」


 いきなり家の場所教えてくれるなんて、まぁこの時代はまだ女性の防犯意識はそれほど高くはないか。


「ご結婚はされているのですか?」


 ピキッ……


「いいえ、未だ独身でこの身体は処女の身ですわ」


 そこまでは聞いてねぇ。

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