第5章 5等級昇格試験編 [6等級冒険者]

第66話

「やりましょうよ。試験の雰囲気に慣れるだけでも受ける価値あるわ」


 ザルクさんパーティー唯一の女性メンバーのヒルダさんがプッシュしてくれた。

 ちなみにヒルダさんは斥候職でスレンダーボディのお姉さんだ。


「そうだな。何事も経験を積んでおいて損はあるまい」


 こちらは斧使いのワトスさん。20代中盤のガッチリ体型だ。

 もう1人の男性も頷いている。


「わかった。やるか!!」


 ザルクさんも決断したようだ。

 1万ルクを渡す。

 ここはパーティーリーダーが試験の申し込みをすべきだろう。

 メンバー全員で受付に。


「5等級への昇格試験を受けたい」


「承りました」


 受付嬢が後ろにある棚から鈴?鐘?のようなものを持ち出した。

 それを左右に振る。


 カラン♪ カラン♪ カラン♪ カラン♪ カラン♪ カラン♪


 ギルド中に鐘の音色が響き渡る。

 つかこれ何が起こっているんだ??


「只今5等級昇格試験への申請を受け付けました! 訓練場にて昇格を賭けた模擬戦を行います!! 只今5等級昇格試験への申請を受け付けました! 訓練場にて昇格を賭けた模擬戦を行います!! 只今5等級昇格試験への申請を……」


「「「「うおおおおおおおお」」」」


「どのパーティーだ?」「ザルクのとこらしいぞ」「1か月振りか」


「早めに帰って来て良かった!」「今回は勝つぞ!!」「宿にいるメンバー呼んで来る!!」


 ギルド中がハチの巣を突いた騒ぎになった。


「これは何が起こっているんです?」


「知らないのか? 昇格試験は冒険者が盛り上がる一大イベントなんだ。専属の業者による賭けも行われるぞ」


「賭けですか。それって試験を受ける俺らも参加できます?」


「どうだったかな? 俺らも受ける側は初めてだからな」


 ザルクさん達を試験に誘って良かった。

 こんな騒ぎになるならもし俺1人で受けていたらどうなっていたことやら。

 壁外ギルドで昇格試験を受ける場合もこんな騒ぎになるのだろうか? ちょっと想像できないな。

 いや、確か壁外ギルドは出張所扱いだから昇格試験はこっちのギルドで受けるのかもな。



「ラックさんだ!」「解説者のラックさんか!」「今回の事前予想はどうなんだ?」


「ラックさん今回も当てて下さい!」


 解説者までいるのかよ!

 まさかそれが職業って訳じゃないだろうな。


「ラックさん、今回の昇格試験はどう見ますか?」


「対戦相手が決まらないとなんとも言えませんが、ザルクのパーティーは6等級の中堅上位といったところです。昇格自体は試合内容も考慮して検討されるものの模擬戦の勝敗という意味では厳しいでしょう」


 くそっ。評価低いな。

 い、いや、賭け的には下馬評低いほど倍率は上がるから却っていいのか。


 カラン♪ カラン♪ カラン♪ カラン♪ カラン♪ カラン♪


「昇格試験の対戦パーティーは5等級のヤコールさんのパーティーに決定しました!! 繰り返します。対戦パーティーは5等級のヤコールさんのパーティーに決定しました!! 繰り返します。対戦パーティーは……」


「ラックさん、対戦相手が決まりましたが?」


 そもそも解説者に聞いてるアンタは誰やねん。


「ヤコールのパーティーは腕利きの魔術士2人を擁する5等級トップクラスのパーティーです。挑戦者はますます厳しくなりましたね」


 各等級の色々なパーティーに精通しているのはさすがだな。

 伊達に解説者は名乗ってないか。

 俺なんて同じパーティーメンバーがどんな戦い方をするのかすら知らんけど。


 あっ。

 ネル先生を見つけた。


「ネルさん!」


「どうも。ツトムさんはザルクさんのパーティーだったのですか?」


「今日1日だけ臨時に加入してるんですよ」


「昨日まで7等級だったのにもう5等級の試験を受けるなんて……」


「6等級に昇格した勢いで5等級試験に突撃ですよ!」


「ヤコールさんのパーティーは強いですよ?」


「ここだけの話、自分に賭ければ儲けられますよ。それじゃ」



 メンバーのとこに戻ると何やら俺抜きで話し合ってたみたいだ。


「ツトム。戦い方はどうする?」


「戦い方というと?」


「そういやお前は昇格試験のことをよく知らないのだったな。挑戦する側が対戦方法を選べるんだよ。集団戦か1対1の5回戦勝負か勝ち抜き戦か」


 5回戦勝負は絶対ないな。ザルクさん達には悪いけどラック氏の解説を聞くとねぇ。

 試合のルールもまだよくわからないから無難に勝ち抜き戦にしておくか。

 どんなルールであっても1vs1で負けるのなら仕方ないし。


「勝ち抜き戦でお願いします」


「戦う順番はどうする?」


「この中で戦いたくないという人はいますか?」


 おずおずとヒルダさんが手を挙げた。


「できれば私はちょっとね……」


 斥候職は直接戦闘には向かないので仕方ない。


「わかりました。ではヒルダさんを5人目、自分を4人目でお願いします」


「それって……」


「それより賭けってまだなんですか?」


「もうすぐ賭け率が発表されると思うが……賭けるつもりなのか?」


「もちろんですよ! 皆さんは賭けないので?」


「いや、なぁ」


「俺達は初めての試験だし……」


「今日稼いだ分ぐらいは賭けてもいいと思うのですが」


「賭け率は1.2対12.5!! 賭け率は1.2対12.5!! 3等級掲示板の前でかけ札を販売開始します!! 賭け率は1.2対12.5!! 賭け率は1.2対12.5!! 3等級掲示板……」


 賭けが始まったみたいだ。

 凄い人混みの中を縫うようにかけ札の販売所まで行く。


「試験参加者は買えるのか?」


「参加者は自パーティーに対してだけ賭けられるぞ!」


 八百長防止の為かね。


「いくらまで賭けられる?」


「限度額は20万ルクだ」


「ではザルクパーティーに20万ルク」


 ざわざわ! ざわざわ!


「マジかよ」「漢だねぇ」「見ない顔だな」


「賭け率変更1.5対11.0!! 賭け率は1.5対11.0!! 3等級掲示板の前でかけ札を販売しています!! 賭け率変更1.5対11.0!! 賭け率は1.5対11.0!! 3等級掲示板の……」


 その都度オッズを変えるんだな。

 あ。しまった!!

 試験申し込む前に家から2人を連れて来るのだった。

 そうすればあと40万ルク賭けられたのに!

 いや、さっき買う時に冒険者カードが必要だったから買えるとしてもロザリナの分だけか。

 それでも失敗したなぁ。



 所持金73万7520ルク→55万9020ルク


「賭け率変更1.4対11.5!! 賭け率は1.4対11.5!! 賭け率変更1.4対11.5!! 賭け率は……」

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