第5話 ダンスパーティーに相手がいない男たち。悲劇

ルイスは折角せっかくの「王女殿下のための演舞」がキャンセルになって、この上なく落ち込んでいた。


アンドルーもジョナスもアランも、がっくり項垂うなだれて生徒会室にぐったり打ち沈んでいた。



イベントのキャンセルは、演舞隊には一週間前に通知されていた。


王室だって、そこまで鬼ではなかった。


大勢の貴族の子弟が絡む大規模イベントである。


本当を言うと、もっと前から伝えたかったのだが、イベント自身は別に犯罪でもなんでもないのに、一方的に禁止令を出して、こんな(言ってしまえば)どうでもいいことでノリノリの連中の反感を買いたくなかったため、遅れたのだ。



ただ、実際、王女殿下の婚礼が近くなると、流石にこれはいかがなものかと。


ロザモンド殿下に被害はないし、正直、親衛隊と接点などない。


だが、その点を、推し活文化のない外国の、しかも相当に頭が硬そうな大使に理解していただけるのかというと、それは難しいんじゃなかろうか。


というかまるで無理そう。


シャチホコばって、白い髭をピンとろう付けし、スッキリと背筋を伸ばして会見に臨んできた大使に向かって、推し活の説明は容易ではないと担当外交官は悟った。


「王女殿下にあらせられては、学園なるものに所属しておられるそうで」


「いかにもさよう」


一応、返事してみた。


「下級貴族の出入りが許されているとか」


下級貴族どころか平民も入学している。説明役は冷や汗がつつうーと背中を流れるのを感じた。


「よもやダンスパーティなどで……」


「そんなことはございません。殿下を拝謁できるチャンスだというだけです」


翌日、演舞の禁止令が発布された。



「くッ……」


ルイス・アーカードは身悶みもだえた。


「どうすれば……」


「どうもこうも、仕方ないじゃないですか」


会計のアンドルーが冷ややかに言った。


「限界が来たんですね。まあ、ロザモンド殿下は本当にお美しく、非の打ちどころの無い、アイドルとして素晴らしい逸材いつざいでした」


過去をいとおしむようにイベント担当のジョナスが言った。


「今後の我々の活動は……」


「解散ですよ。いいじゃないですか。姫君の幸せな結婚は、我々の幸せでもある」


筋骨隆々で、さまざまな演舞で大活躍したアランが答えた。彼は、色々なイベントのたび、その容姿を生かして目立ち、女子生徒から大人気になっていた。


目立てれば良いのである。


「アラン、お前、リード伯爵家の令嬢に惚れ込まれて、ついにリード家から正式な申込を受けたんだってな?」


ジョナスが羨ましそうに聞いた。


ゴホッと咳き込んで、赤毛で大柄なアランは聞き返した。


「なんで知っている?」


「父が言ってたんだよ。いーなー。筋肉で女を釣るだなんて」


「失礼な言い分だな。騎士としての将来性を買われたんだよ」


「まあ、俺も、親衛隊では会計時の実践が学べて良かったよ。モニカ嬢とも知り合いになれたしな」


「モニカ嬢って誰だ? アンドルー?」


「元々の婚約者だ。だけど、学園で知り合いになり直した」


「なり直した?」


「元から知ってたけど、殿下のお好きそうな衣装については女性の意見が大事だと思って相談を持ちかけているうちに、やっぱり女の子っていいよね。デザイナーとか紹介してくれて、仲良くなってダンスパーティでは一緒に踊る約束まで漕ぎ着けた」


なんだか、色々と省略されていて、よくわからないが、とりあえずうまくいったらしい。幸せそうな顔色が全てを物語っていた。


「じゃあ、俺だけか」


方を落とすジョナス。


「何がだ?」


「だって、ルイスには婚約者がいるだろ? ダンスパーティに相手がいないのは俺だけだ」


「モニカに聞いてみようか? 妹がいるはずだ」


「え? でも、もう相手が決まってるんじゃ?」


「モニカの妹は、まだ学園に入学していない。だから相手がいない。学園外からパートナーを呼んできてもいいし、生徒じゃなければ誰だかわからないからいいんじゃない?」


「お前ら……」


地獄の底から搾り出したような声を出したのはルイスだった。


「自分のことばっかり考えやがって……演舞に出演予定だった五十人のメンバーはどうすんだよ?」



「あ……」


「全員パートナーがいないじゃないか。いいか、総力を傾けて、至急、パートナーを探すんだ」


「さ、さすが。会長……団員のことを……」


「素晴らしい、会長。ロザモンド王女殿下の結婚の悲劇を乗り越えて、団員のことまで……」

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