第438話 ついうっかりは大事だよな

 テト……バステトは、私の魔力の影響を受ける。賢くなるかどうかは、私次第。


 と言われてもなあ。


「お前を賢くさせるには、どうすればいいのか具体的に教えてほしいよ」

「マー」


 お気楽なテトは、今日も遊び場でたっぷり遊んだ後、私のベッドの枕元で寝ている。そろそろベッドを取られそうな大きさだ。


「テト専用のベッド、用意した方がいいかな……」

「マー……」


 寝てたと思ったら、起きていた。そして私の言葉を理解して、「やだ」と言わんばかりの不満そうな声を上げる。


 あれ? テトってもう十分賢くないか?




「と思うんだけど、どうだろう?」


 朝のルーティーンを終えて、事務所に来ている。特に用があった訳ではないけれど、この時間帯は皆手が空いているから、朝のお茶を一緒にしようと思って。


 ついでに、テトの賢さ具合を言ってみた。帰ってきたのは、呆れた目だったけれど。


「アカリちゃん、飼い猫……猫だよね? が可愛いのはわかるけれど、それはいわゆる親馬鹿ってやつで、飼い主馬鹿なだけだと思うよ?」

「でも、猫って人の言葉がわかるとも言うわよ?」

「猫はわかっていて、人を馬鹿にする。だから大人猫よりまだ何も知らない子猫の方が可愛いんだ」

「フタバの偏見が出たー」


 飼い主馬鹿なのかな。でも、ちゃんと返事するし、遊び場の使い方もすぐに覚えたんだが。


 これからの事を考えると、もっと賢くなってくれないと危ない。強い力を持っているのに、子供並の思考能力じゃ危険過ぎる。


「まあ、アカリちゃんの影響を受けるっていうんだから、アカリちゃんも勉強して賢くなるといいんじゃない?」

「でも、ここで勉強って、何やるの?」

「え? ええと……一緒に事務仕事、やる?」

「やらない」


 エリーさんには悪いけれど、私はこれでも忙しいのだ。これから新しい仕事も増えるんだし。


 伯爵夫人からは、最初に紹介状を書いた家の一覧をもらっている。例の食材通販だ。


 売る食材に関しても、打ち合わせ済み。手紙を使った打ち合わせだけれど、言った言わないがないのでこれはこれでいいかも。


 売る食材は、相手によって分ける。伯爵夫人的に上客とする相手には、敷地産の食材を、そうでない相手にはダンジョン産の食材を売るのだ。


 相手にも、その旨は通達しているという。なので、そうでない相手から敷地産の食材を求められた場合は、速攻伯爵夫人に報せるようにと厳命されている。


 貴族相手なので、私一人じゃ太刀打ち出来ないからありがたい。




 通販のやり方を、そろそろ決めないとならない。やっぱり、カタログ通販方式がいいだろうか。


「さすがにネット通販みたいなのは無理だしね」


 ネット技術そのものがないんだから。


 そうなると、カタログを作る必要がある。


 ちなみに、伯爵夫人や女王陛下には、こちらから勝手にお勧め食材を送っている。今のところ、クレームはない。


 それどころか、「以前購入したものを、多めに入れてほしい」という要望が来る。多めに入れてほしいものは、その時によって変わるな。


 野菜だったり果物だったり。伯爵夫人は野菜多め、女王陛下は果物多めの要望が多い。


 それらは、敷地で滞在した経験からうちの子達が好みを考えて内容を決めている。お得意様ならではの、細やかなサービスだな。


 なので、ご新規様に関しては、自身で欲しい食材を選んでもらおう。その為のカタログ作り。どこに頼めばいいのやら。


 困った時のルチア。


「ルチアー、新規の通販用に食材のカタログを作りたいんだけど、どのチームに頼めばいいー?」

「それでしたら、錬金術チームかと」


 錬金術かー。そういや、コピー機などを作ってくれたのは、あそこだっけ。なら、印刷物を頼むのもそこになるのは当然かも。


 錬金術チームは、人形用拡張敷地から滅多に出てこない。いつも何やら実験や研究をしている。


 なので、こちらからチームの元へ出向いた。


「こんにちはー」

「まあ、マスター」

「いらっしゃいませ。このようなむさ苦しいところへ、ようこそ」


 むさ苦しいって。確かに散らかっているけれど。


 よく見たら、床に本が積んである。机の上にも、よくわからないフラスコやビーカー、理科の実験室で見るようなあれこれ、紙の束などがあった。


「……掃除は、した方がいいかもね」

「あう」


 出迎えに出てくれた子二人とも、同じ声、同じ仕草で何やらショックを受けていた。いや、これは仕方ないでしょ。


「君達が掃除を出来ないのなら、出来る子にやってもらうようにするけれど……」

「それは駄目です!」

「外部の者では、ゴミとそうでないものとを選別出来ません!」

「なら、君達自身で掃除しないとね」

「あうう」


 ともかく、物が溢れているのでそれだけでもどうにかしないとな。これじゃ魔窟だよ。




 何とか錬金術チームにカタログ制作を引き受けてもらい、ログハウスに戻る。


「お帰りなさいませ、マスター。……何か、ございましたか?」


 相当変な顔をしていたらしい。出迎えてくれたルチアに尋ねられた。


「いやあ、錬金術チームの建屋が凄い事になっていて」

「凄い事?」

「物で溢れてた」

「あの者達は……私が後で指導しておきます」


 ルチアの指導か。凄そう。


「お手柔らかにね」

「いいえ。あの者達は甘い顔をするとつけあがります。ここらでしっかり躾ておきませんと」


 いや、そこまでは……いえ、何も言いません。今のルチアには、何を言っても無駄だ。


 とりあえず、錬金術チームの明日は暗そうだな。




 すっかり忘れていたんだが、うちの助祭チームもレネイア王国軍と一緒に未だ旧ウェターゼ王国にいるらしい。何で?


「旧ウェターゼ王国内に、体調の思わしくない者が多いようです」

「その治療の為に、助祭チームが同行している……と?」

「レネイア王国軍からの要請です」


 おのれ王国軍。うちのチームをただ働きさせているんじゃなかろうな。伯爵夫人にチクるぞ。


 助祭チームはゼプタクス新区に作る教会の聖職者として作った。あ、テーマパークに作る大聖堂もか。


 なので、それらが出来上がるまでは好きにしていていいのだが。


「だからといって、余所に無期限で貸し出している訳ではないのに」

「助祭チームを引き上げさせますか?」


 それでもいいんだが。旧ウェターゼ王国内のゴタゴタを考えると、すぐにゴーサインを出すのもためらわれる。


 迷った時は相談だ。


「という訳で、助祭チームを引き上げるかどうか、悩んでいるんだけど」


 事務所に来て、皆に相談した。三人寄れば文殊の知恵。いいアイデアが浮かぶかもしれない。


「助祭チームって、何の為に軍に同行してたんだっけ?」


 エリーさんからの問いに、はてと思い返す。確か、橋がどうとか……


「橋が落とされて先に行けないから、橋を架けてくれって依頼だったはず」

「……当然その橋は、とっくの昔に架けたんだよね?」

「……だね」

「大体、何で橋を架けるのに助祭君達が一緒に行ったの?」

「ええと」


 何でだっけ?


「橋を架けるのなら、建築チームの子達が行ったんだよね? 彼女達なら、護衛はいらないだろうし」

「軍だから、怪我人がいるかもーって思って、治癒魔法が使える助祭達を同行させたような記憶が……」


 ついでに、少女女神の普及をしようと思った面も、あったような。


「大変な時に手を差し伸べられると、ついうっかり信仰しちゃうでしょ? そこを狙ったんじゃなかったかなあ?」

「……アカリちゃん、そういう本音、事務所以外では口にしちゃ駄目だよ?」

「え? もちろん」


 さすがに私も時と場合くらいは考える。


「ともかく! 信仰を広める……ええと、布教か。その目的があるのなら、助祭君達はしばらく旧ウェターゼ王国にいた方がいいんじゃないかな?」

「そう?」

「布教という意味ではね。さっきアカリちゃんが言ったように、辛いときに手を差し伸べてくれる人の事はついうっかり信じちゃうから」


 そうか。やはり、ついうっかりは大事だよな。

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