第433話 これでいいんだろう

 本当に、キッチン専用の敷地を用意した。敷地面積は拡張敷地の中でも一番狭い。まあ、建屋が一つ入ればいいんだから、当然か。


 その代わり、建屋は大きい。どうやって建てているかはわからないけれど、建築チームが木造で作ってくれた建屋だ。


 中には柱がなく、どーんと広い一間。その一間全てがキッチンだ。流し、オーブン数台、作業台。


 そして特徴的なのが、中央部分に作られた鉄板である。長い。


「これなら、私だけでなくネーラ達に手伝ってもらえるかも」


 ネーラを含む調理スキル持ちの子達は、たくさんいる。普段はホテルや温泉街、食堂などで腕を振るっていた。


 彼女達の三人も借りてくれば、ホットケーキも簡単に必要分焼けるのでは?


 そう思ったのに。


『そなたはわらわの巫女であろうが! 神が口にするのは巫女が作ったものに限るのじゃ!』


 スマホが震えたからまた何かのリクエストかと思いきや、これだ。


「いや、神様何人……人じゃなくて柱か。どんだけいると思ってるのよ。神像部屋のアルコーブも、広がる一方じゃない」

『うぐ。そ、そなたが頑張ってあれらを起こした結果じゃ。この世界にとってはいい事なのじゃぞ?』


 そらいい事でしょうよ。私も直接間接で恩恵を受けているから、そこは文句言わない。


 でも、その増えた神様の分、三枚ずつホットケーキを焼かないといけない私の身にもなってほしい。


「大体、焼く側から冷えてくってのに」

『焼いてすぐに魔法の鞄に入れればよかろう。そなたが持つ鞄は、時間停止機能があるじゃろうが』


 あ、そうか。素で忘れてたわ。




 キッチンには、色々な調理器具が入っている。中でも見慣れなかったのは、業務用のスタンドミキサー。


 生地作りを手作業でやったら、私の手が壊れてしまう。一人分なら問題ないけれど、大勢の神様分焼くとなったら生地の重さだけでも相当だ。


「あってよかった……と思うけれど、これを使っても私が作ったとなるのか?」


 ちなみに、このデカいスタンドミキサーは敷地で作ったらしい。食堂その他の厨房にも入ってるそうで、重宝されているんだとか。


 まあ、うちの子達は私が作っていて、神様の加護も入ってるから、うちの子達が作ったものは私が作ったものと言っても神様的には通るのかも。


「んじゃ、やりますか」


 大量ホットケーキ制作、スタート。




 甘かった。ホットケーキを焼くのが、ここまで大変だったとは。


「つ、疲れた……」


 ホットケーキの大きさが違うと、神様間で諍いが起きかねないし、それは結局私への苦情としてくるのが目に見えていたので、枠を使って均一化を図った。


 枠の中に流し入れる生地は、お玉一杯分。生地はスタンドミキサーでいっぺんに作れるのでいいが、ここにも落とし穴。


 スタンドミキサーで作った生地、どうやって鉄板まで運ぶか。


 ミキサーのボウルそのものを持ち上げる事は無理。もの凄く重いから。ボウルそのものが、ではなく、生地が。


 卵をいくつ割り入れた事か。小麦粉も、グラムではなくキログラムだ。


 卵を割る専用の機械を見た時に、どうしてこんなものが必要なのか首を傾げたけれど、今ならわかる。これ、人の手でやっていたらいつまで経っても終わらないからだ。


 世の厨房で働く人や、パティシエ達の苦労の一端を見た気がした。


 結局、生地はルチアとセレーナが持ちやすい小型のボウルに移してくれた。


 それを焼くのは私だけ。極力人形達の助けを入れないようにと少女女神に言われたからだ。


 でも、これ本当に大変。焼いてひっくり返して魔法の鞄に入れる。手間ではない。手間ではないが、枚数が多くなったらやっぱり辛いのだ。


 ちなみに、枚数カウントはルチアが行っている。私は十枚目で諦めた。


 それにしても、焼いても焼いても終わらない。これは、お供えの際に改善要求をしなくては。


 私が直接作らなくてもいいよう、うちの子達にスキルか何かを付けてほしい。


 大体、ネーラ達にも神様の加護があるんだから、あの子達が作るんでもいいじゃないか。人間の私より余程うまく作るよ。


 邪魔だから作業台に置いていたスマホが震える。今手が離せないから、あーとーでー。


 と思ったのに、勝手にスピーカー通話になった。


『神に供えるものを何と心得る!?』

「いや、お供えっていうのなら、一人三枚とか欲張るな」


 一人じゃないな。神様だから一柱だった。


 私のいつにないぞんざいな言い方に、スピーカーの向こうが絶句しているらしい。


『いや、でも、枚数を増やしたのはわらわではなく――』

『アカリー! ごめんねー? 今速攻で人形達が作ってもいいように、専用のスキルを作らせてる最中だから。それと、スキルの神が目覚めたわよー』


 何それ? スキルの神なんてのも、いたんだ?


『まあ、他の神と連携するしか存在理由がない子だから、あまり知られていないのよねえ。でも、この子の加護をもらうと、スキルが伸ばしやすくなったり、スキル同士の連携がうまくいくようになったりするのよ?』


 それはそれでありがたいかも。うちの子達的に。敷地の子達もそうだけど、やはりハンターチームや危険な場所で仕事をする子達には、各スキルが大きく影響している。何せスキルは魔力を使わないから。


 それらを連携してうまく使いこなす為に必要な神様なら、目覚めてくれてありがとうございますだ。


『という訳だから、枚数三枚追加ね』


 それは嬉しくない。まだ折り返し地点にも到達していないのに。




 へとへとになりながら、何とかお供え用のホットケーキを焼き上げた。


 枠を使って焼いたからか、ちゃんと高さも出ていて美味しそうだ。今度自分の為に焼こう。


 それはいいんだが、あのセルコーブにこの大量のホットケーキをどうやってお供えしたものか。


 焼き上げたキッチンで悩んでいたら、またしても勝手にスマホがスピーカー状態になった。


『神像部屋にテーブルを用意しておいたから、そこに載せてちょうだい』


 フォリアペエル様、用意がいいな。


『テーブルの上にお皿も用意してあるから、魔法の鞄から直接載せてね』


 どうやら、皿やカトラリーは神様側で用意してくれるらしい。至れり尽くせりだ。


『それと、掛けるものは蜂蜜とメープルシロップとリンゴソースよ。あ、バターも忘れないでね。全部敷地産にする事』


 注文が細かい。まあ、神様だしな。仕方あるまいて。


 キッチンを出てログハウスに戻り、神像部屋に入る。ちなみに、このキッチンに入れるのは今のところ私と人形達のみである。


 転生組は用事ないだろうし、入れなくても問題あるまい。レンタルキッチンは他にあるのだし。


 神像部屋に入ると、部屋に細長いテーブルが三つあった。会議室にあるような長いやつ。


 その上に、皿が載っている。こうしてみると、本当にかなりの数だよな。焼いたホットケーキ、足りるか?


 蜂蜜、メープルシロップ、リンゴソースはまとめて各テーブルの端に置く。バターは皿の上、ホットケーキの脇に置いた。


 バターは拡張敷地の農場で作ったものだし、リンゴソースもリンゴそのものから敷地の農園で作っている。


 蜂蜜とメープルシロップも、養蜂や砂糖楓から作ったもの。こうして見ると、敷地産の食材って本当に多いな。


 皿に載せたホットケーキは、次々に消えていく。神様の手元に自動で送られるらしい。


 最後の皿が消えた後、蜂蜜などを載せたままテーブル自体が消えた。これでホットケーキミッションは完了である。


 次からは、人形達が作れるようになっているといい。さすがに疲れた。




 後日、ネーラ達何人かの人形達に、とあるスキルが勝手にインストールされていたらしい。


 その名も「神料理人」。……少しは捻ろうよ。


 いや、ネーミングセンスにおいて、私に何か言う資格はない。わかりやすさ重視。なら、これでいいんだろう。

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