第291話 どうしよう

 ゼプタクスの治安維持用ワンコ部隊は、新しく作る事になった。


 犬種は、小型犬にしようと思う。どこにでも入り込めるように。でも、パワーも魔法もスキルもしっかり備えておく。


 ハンドラーも、新しいシリーズだ。ハンターチームは一人に一匹だったけれど、治安維持用ワンコ部隊は、ワンコ多め。大体、ハンドラー一人に対し、ワンコは三匹を想定している。


 もっとワンコが必要になったら、その時は増産で対応しよう。


 小型犬は色々あるけれど、どれにしようかな。スマホで地球世界の画像を検索する。こんな事まで出来るようになるとは。


「あ、これがいいかも」


 豆柴。サイズ感もいいし、何より可愛い。見た目はこのまま、豆柴にしよう。色は茶色。コロコロした感じがとでもいい。


 今でもハンターチームが食材の他に人形用素材を狩り続けているので、うちには素材の在庫が唸っていた。いや、すぐにまた底を突くのだけれど。


 溜めては一掃する勢いで使って、また溜める。そのくり返しだな。


 ハンドラーは、見た目若く十五歳くらいのイメージで。ハンドラーを誘拐してくれたら、犯人も黒幕も一網打尽に出来る。


 髪は茶色。瞳も揃えて。髪型はストレートのミディアム。顔立ちは敷地の子達と似た感じにした。




 新たなワンコ部隊が出来上がったので、早速伯爵夫人と仮契約。


「犯罪には最速で対応……出来るのかしら?」

「現場を押さえるよう努力しますが、最悪映像で先に記録を取り、現場に急行する事になるかと」


 防犯カメラをドローンスキルで再現する。あれ、スキルだけあって本体はないのだ。見えないからこそ、街中いたる所にカメラを設置可能になる。


 犯罪は、外だけではない。家庭内でも起きるから、そこもきちんと決めておかなくては。


「家庭内での暴力? それは、親から子へという事? 躾けの範疇かしら」

「相手を痛めつけるのは、躾けではないと思います。それに、夫や妻、恋人などからの暴力もありますし」


 虐待とDVだ。こっちではまだ問題になっていないかもしれないけれど、だったらなおさら今のうちにしっかり決めておきたい。


 そうした暴力を振るう連中を取り締まれる、法的根拠が欲しい。領内だけなら、領法で対応可能なはずだ。


 それを提案すると、伯爵夫人がにやりと笑う。


「よく、知っているわね」

「……リレアさんに聞きました」

「そう。彼女も必要だと思ったからこそ、あなたに教えたのでしょう。領法改正には時間がかかるわ。その前段階として、特例で捕縛許可を出しましょう。それも、契約書に盛り込んでおくわね」


 後で幼女女神に確認してもらおう。そういえば、契約の神様とか、いないのかね。




 考えた事がフラグになるのか。


『よくやった! 契約の神が目覚めたぞよ!』


 やっぱりいたんだ。それならヒントくらい……って、他の神様が働きかけただけで駄目になるんだっけ。


 私が自発的に辿り着かないといけないとか、何て無理ゲー。


『これからは、契約書関連は奴に見せるがよい。すぐに神像も用意する故な』


 対応が素早い。


『何やら、新たな儲け話があるようじゃの?』


 地獄耳。いや、神様なんだから、天国耳? ともかく、耳が早い。


「うちの人形達で、近くの街の治安維持をする事になったんだ」

『ふむ。大陸を隔てる樹海の開拓も進めているようじゃの。感心感心。陸路が増えれば、物流も増える。そこにつけ込む隙も出てくるというものよ』


 幼女女神、言い方が悪役だよ。


「あだ!」

『女神に対して、悪役とは何事じゃ。まったくそなたときたら』


 また金だらい! いい加減人の頭にぽんぽん落とすのやめろっての!


『ともかく、そなたが敷地を出ずに金儲けをするのなら、全て許す。気合いを入れて稼ぎまくるのじゃ!』


 相変わらずな事で。


 とはいえ、自分が動かずに稼げるのは助かる。私がこのダンジョンから一歩でも外に出たら、あっという間に邪神に捕捉されるそうだから。


 でも、ここに襲撃者を送り込まれている現状、もう色々とバレていて捕捉されているのでは?


 まあ、神様側の事情は、ただの人間である私にはわかるはずもない。自衛の為には、幼女女神の言う事を聞いて、おとなしくしておく事だな。


 金儲けには、勤しみますが。




 ワンコ治安部隊が稼働し始めた。スタート初日にハンドラーの一人が誘拐されたんだとか。早速かよ……


 無事、一緒に誘拐された子供達を救い出し、ゼプタクスに蔓延っていた誘拐組織を壊滅させたんだとか。


 うちの子達、優秀すぎないかね?


 たった一日で組織壊滅までやってのけたワンコ治安部隊に対し、伯爵家から報奨金が出るそう。


 その通達……というか、礼を言いたいという事で、伯爵夫人に呼び出されて今プチホテルの一室。


「本当にありがとう! これで街の治安がよくなるわ」

「お、恐れ入ります……」


 こういう時の対応時、この一言を言っておくとまず間違いないとリレアさんに教わったのだ。便利な言葉だな、これ。


「それにしても、オイヴァンが関わっていたなんて……」


 今伯爵夫人の口から出て来た名前は、ゼプタクスを中心に、グルバム領で手広く商っている商会の会頭の名だ。


 グルバム家御用達で、その伝手を使い人身売買に手を染めたらしい。


「我が家との取引だけでは、満足出来なかったようね」


 笑う伯爵夫人の目が怖い。目の前にいる私が震える程だ。いや、私は悪い事をしていないのだけれど。


「ともかく、今回の件でオイヴァンと繋がっている他領の組織も見えてくるでしょう。その時は、またワンコ部隊の力を貸してほしいのだけれど」

「承知いたしました」


 ちなみに、ワンコ部隊は正式名称になってしまった。日本語で「ワンコ」と付けているので、こちらでは不思議な響きの言葉、程度に捉えられているらしい。


 リレアさんがそんな事を言っていて、その場でエリーさんが噴き出したのも、いい思い出だ。


 誘拐された人達全てが、他領に売り払われている。今度は、その被害者の救出に行かなくては。


 それも、伯爵家からの依頼という形で引き受ける事になっている。元々、その為に用意していたようなものだから、問題ない。


 これでゼプタクスの治安がよくなり、住みやすくなれば、この先襲撃しに来た人達を放流しても、気にせずに済むというもの。


 結局、治安維持も自分の為だな。




 人身売買組織のネットワークは、意外に広くてグルバム伯爵が唸っているそうだ。


「こんなに国内に犯罪組織が蔓延っていたなんてね」


 本日も、伯爵夫人に呼び出されている。前回から十日と経っていないのですが。


 本日の伯爵夫人のご機嫌は、かなり悪いらしい。でも、この状況は当然じゃないか?


 現在、レネイア王国は王位継承問題でごたついている。そんな国のトップが混乱状態じゃあ、末端まで目が届かなくて当然だ。


 ある意味、犯罪者達の方が時流を読む能力に長けているのかも。なら、その能力をまっとうな仕事に生かせよと言いたいが。


 まっとうじゃない仕事の方が、稼げるからだろうなあ。


「ともかく、約束通り被害者救出に力を貸してもらうわよ」

「承知しております」


 ワンコ部隊がやるのは、売り飛ばされた被害者の発見と救出。国内にいるのなら、確実に見つけてみせる。


 国外に出されたら、ちょっと追い切れるかどうか。


 あ、でも部隊を遠征させれば、何とかなるかも?


 ちなみに、今回ワンコ部隊は犯人捕縛には手を出さない。そっちは目立つので、領軍の方がやってくれるそうだ。


 彼等としても、周囲に実力をアピール出来る場は欲しいだろう。うちはいらないので、その分実利に走る。


 仮契約中ではあるけれど、今回の人身売買組織摘発及び被害者救出に関しては、特別手当……ボーナスを出してくれるそう。


 ともかく、デビュー戦から華々しい成果を上げてくれたワンコ部隊には、私からも何か労う事を考えておかないと。


 ワンコだけに、全員分のブラッシングとかだったら、どうしよう。

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