第124話 ジャイアントスパイダー
「ううう、気持ち悪いっ!」
「なんでこいつらが森から出てきてるんだよ……」
「ぼやいても始まらない、敵の動きに注意しろ」
「……」
俺を除く四人はとても嫌そうな声を出すと、目の前のモンスターを警戒していた。
——ワサワサワサワサ――
街道を塞ぐように佇んでいるのはジャイアントスパイダー。虫系のモンスターで、体長数メートル、毛を生やした八本の脚と拳くらいに開く口には何本もの歯が生えており、正面から見ると口内が見えて気持ち悪く動いている。
ジャイアントスパイダーの毛には毒液が分泌されており、脚で攻撃を受けると傷口に毒が入り込み自由を奪われてしまう。
ジャイアントスパイダーは毒で身体の自由を奪い、獲物を捕食する。冒険者ギルドのモンスター基準で言うところのDランクモンスターに相当する。
単独でDランクで、五匹ともなればCランクの討伐難易度が確定する。
「ティムとか言ったか、俺たちはCランクで連携も取れている。悪いが、今回はこっちに合わせてくれないか?」
「わかりました。皆さんの動きをサポートする形で動きます」
基本的に冒険者同士で組む場合、高ランクが主導するという暗黙のルールが存在している。
共同依頼や、ダンジョン内での共闘、急なスタンピードなどなど、冒険をしていると不測の事態というのが多々あるのだが、その際にどちらが主導権を握るかについて揉めている時間がないので、そう決めているのだ。
パーティーメンバーの戦力を分析する。
リーダーは前衛で槍を持っており、中衛は弓を装備している。後衛の二人は両方とも杖を持っていて、片方は攻撃魔法と治癒魔法。もう一人は攻撃魔法のみを扱えるようだ。
「距離開いている間に、魔法でダメージを与えておく。俺たちの出番はその後だな」
そう告げると、後衛の二人が攻撃魔法の準備を始めた。使うのはともに【ファイアアロー】らしい。
俺は二人に合わせるように魔法の準備をする。
「準備はできたなっ! いまだっ!」
「「「【ファイアアロー】」」」
二人に合わせて俺も魔法を放つ。
「「「「「ギギギギッギギギギ!」」」」」
俺たちが放った合計で13本の火の矢はジャイアントスパイダーに当たり、皮膚が焼け、緑色の嫌な煙が立ち込めた。
「なっ、魔法が使えるのか⁉」
「ええ、多少ですけどね。先制攻撃に有効かと思ったので合わせました」
地元の街では知っている人間も多いので忘れていたが、基本的に冒険者は見た目と使えるスキルが一致している。
俺が装備しているのはミスリルのショートソードなので、魔法を発動させる杖の役割も果たせるのだが、それを知らないリーダーは、俺が前衛職だと思っていたようだ。
「よし、モンスターの察知が早かったから馬車との距離が開いている。俺と斥候とティムはここで足止めをしておく。後衛の二人はその間に下がって次の魔法の準備だ」
五匹のジャイアントスパイダーが向かってくる。
魔法攻撃を受けたせいか、その動きは鈍い。
俺たちが足止めしているに魔法を完成させ、射線から逃れることで追撃をする作戦のようだ。
「いくぞっ!」
「おうっ!」
リーダーが槍を突き出し、斥候が矢を放って牽制する。
俺は一緒に前に出ると、剣を振るいジャイアントスパイダーの脚に傷つけ、進行を妨害した。
「くっ! もう少し持ちこたえろ」
槍を突き出すが、ジャイアントスパイダーの脚は太く硬いので、苦戦しているようだ。
どうにかその場に押しとどめているようだが、若干押されている。
「リーダー! 魔法の準備ができました!」
「よしスキルを打って各自離脱してくれっ! 【スマッシュ】」
「【アローレイン】」
弾幕攻撃でジャイアントスパイダーがひるむと、俺たちは左右へと散る。
「「【ファイアアロー】」」
今度は7本の火の矢が飛び、
「「「ギギギギイッギギギイ」」」
三匹のジャイアントスパイダーを攻撃した。
「よし、後二匹だっ!」
煙が晴れ、状況を確認すると、
「ギギギギッ!」
「「「「なっ!」」」」
ジャイアントスパイダーの一匹がこれまで見せなかった動きで中央突破をしてきた。脚を素早く交互に動かすことで、後衛に一気に迫る。
「二人とも逃げろっ!」
「「きゃあああああああああああっ!」」
迫ってくるグロテスクなモンスターに悲鳴が上がる。このままでは後衛の二人がジャイアントスパイダーと接触するかというところで、
「【ファイアウォール】」
「ギギギギギアアアアアアアアア」
俺が用意していた炎の壁に突っ込み、悲鳴を上げた。
「今のうちに、ウォールを張ってください!」
「【ファイアウォール】」
「【ファイアアロー】」
二人の魔法が追い打ちとなったようで、抜けて行ったジャイアントスパイダーは沈黙した。
「後の一匹は倒してしまいますね【ウインドアロー】」
風の矢が飛び、ジャイアントスパイダーを切り刻んだ。
すべてのモンスターを討伐し、俺が振り返ると……。
「お前、凄いな……」
全員信じられない者を見るような目で俺を見ていて、リーダーがポツリと呟くのだった。
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