第85話 祝賀会

「ティム先輩! おめでとうございます!」


「おっと……」


 ガーネットが抱き着いてきたので受け止める。


 その後ろにはパセラ伯爵夫人と、ワインを抱えたパセラ伯爵が立っていた。


「おめでとう。まさか優勝までするとは思っていなかったわ」


 感心した様子でそう言ってくる。


「えっ? でも、ニコルに勝たないと約束果たせなかったですよね?」


 ガーネットの婚約を破棄させる条件は彼女の婚約者に勝つこと。そうなると優勝しかなかったのだが……。


 俺がそのことを伯爵夫人に告げると、胸元でもぞもぞと動いたガーネットが顔を上げ、目を大きく見開いて俺を見ていた。


「何をおっしゃっているのですか? 私の婚約者候補ならティム先輩がずっと前に倒しているじゃありませんか」


「え? いつの間に?」


 今度は俺が驚くとガーネットに聞き返した。


「初戦の相手ですよ」


「あー……」


 そう言えば初戦の相手は騎士で、負けたとき妙に悔しそうにしていた。

 俺はあれを見て、ただの冒険者に負けたのがよほど悔しかったのだなと判断していた。


「そうなると、ニコルの言っていた『彼女』と言うのは?」


 一体俺は誰のために戦ったのかという疑問が浮かぶ。


「そんなことはどうでもいいではありませんか。ティムさん、祝賀パーティーがあるので屋敷に戻りますよ」


 伯爵夫人の言葉に驚く。貴族を集めてパーティーの準備をしていたらしい。


 俺は彼女に促されると屋敷へと連れていかれるのだった。





「ふぅ、疲れたな……」


 闘技大会でニコルと戦い、そのままパセラ伯爵邸の庭で行われたパーティーに参加させられ、貴族の人たちに話し掛けられた。


 全員、俺の戦いを称賛し「良かったら当家に雇われるつもりはないかい?」と勧誘してきた。

 俺は今のところ冒険者を辞めるつもりがないので断るのだが、次から次に酒を注がれ話し掛けられ続けた。


 結局、前後不覚になるまで酒を呑まされ、酔いつぶれたところで伯爵家に泊めてもらった。


 そんなわけで、二日酔いによる頭痛を抱えながら天井を見上げる。


「それにしても、ニコルは婚約者じゃなかったんだな……」


 眉間に皺が寄り、昨日の戦闘を頭の中で思い浮かべる。


 やつは俺の知らないスキルを使ってきた。スキルの情報が正しければ、今回の準備がなければあの『パラディンガード』を抜くことは不可能だっただろう。


 俺はステータス画面を開く。


 名 前:ティム

 年 齢:16

 職 業:斥候レベル40

 筋 力:377

 敏捷度:376+80

 体 力:430+50

 魔 力:400

 精神力:357

 器用さ:396+50

 運  :504

 ステータスポイント:11

 スキルポイント:251

 取得ユニークスキル:『ステータス操作』


 指定スキル効果倍:『インパクト』『ブースト』『剣術レベル7』『後方回避レベル5』『バッシュレベル6』


 取得スキル:『取得スキルポイント増加レベル5』『取得ステータスポイント増加レベル5』『取得経験値増加レベル5』『アイテムドロップ率増加レベル5』『バーストレベル8』

『ヒーリングレベル6』『ライト』『罠感知レベル5』『罠解除レベル5』『アイテム鑑定レベル6』『短剣術レベル5』『ファイアアローレベル6』『アイスアローレベル6』『ウインドアローレベル6』『ロックシュートレベル6』『瞑想レベル6』『ウォールレベル6』『魔力集中レベル6』『祝福レベル6』『キュアレベル6』『ハイヒーリングレベル6』『セイフティーウォールレベル6』『スピードアップレベル6』『スタミナアップレベル6』『アイテムボックスレベル4』『指定スキル効果倍レベル5』『スキル鑑定』『眠る』『食べる』『ダブル』『深く眠る』『地図表示』『索敵』



 今回の戦い、俺は敏捷度で相手を上回れば攻撃の威力は補えると考え、職業を斥候にしていた。


 期間中の狩りで戦士と斥候をレベル40まで上げることに成功していたので、使えるスキルを取得することができたのだ。


 俺はやつらとの再戦を考え、最適なスキルの組み合わせがないか画面を睨むように見続けていると……。


 ――コンコンコン――


「ティム様。御目覚めでしょうか?」


 ドアをノックする音がして女性の声が聞こえる。おそらく、屋敷の使用人だろう。


「はい、起きてます」


 俺は返事をすると身体を起こし、ドアを開けた。


「お館様がお呼びです。御嬢様の件についてお話があるそうです」


 ついにきたか。


 昨日は流れるようにパーティーに参加させられたので、ガーネットが冒険者を続けるかどうかについて触れていない。


「わかりました。案内してください」


 俺はそう答えると、使用人に案内され執務室へと連れていかれるのだった。

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