第22話 スキル勉強会

「どうかしたか、ティム君?」


「い、いえ……。何でもないです」


 そう返事をしながらも俺の視線はステータス画面へと固定されていた。

 目の前にあるのは四人のステータスを示しているのだろう。


 名前と年齢が表示され、現在の職業とレベルが書かれている。

 俺はその情報を読み取りながら考えていた。


「どうしていきなりこんな画面が?」


 予想外の事態で混乱していたが段々と落ち着いてくる。その間考えた結論は……。


「やっぱりパーティー登録かな?」


 出現する前と今で何か変わったことはなかったか考えてみるが一つしか思い当たらない。

 おそらくパーティーを組むことで彼らのステータス画面をみることが出来るようになったに違いない。


 俺は真剣な顔で画面を見続ける。

 俺より一年長く冒険しているだけあってそれぞれの項目で俺を上回っている。


 だが、全ての項目が高い人間はいない。


(多分戦闘で使う能力に特化して成長するんだろうな)


 ステータスポイントとスキルポイントがあるのでもしかすると操作できるのかもしれないと考えた。

 だが、他人のステータスを勝手に弄るのは良くないし、何かしたら勘づかれる可能性もある。俺はステータスに触れてみたい衝動を押し殺す。


 他に気付いた点として、俺が知らないスキルを彼らは取得している。


 『コンセントレーション』や『バックスタブ』『ウォール』『バースト』『スピードアップ』などなど。


 現在の俺では取得できず彼らが取得していることから解放には何らかの条件が必要になるのではないだろうか?

 いずれにせよ、彼らの条件を覚えておいて同じように上げた状況でも取得できなければ再度考えればよいだろう。


「俺たちはそろそろ切り上げるつもりだけど、ティム君はどうする?」


「あっ、俺もそろそろ帰ろうと思います」


 予想外な情報を得たから一度引き返すべきだろう。ステータス画面を消すと俺はユーゴさんに答えた。


「そっか、そんじゃ一緒に帰るとするか」


 ユーゴさんの提案に頷くと、俺は彼らと話ながらダンジョンの出口へと向かうのだった。






「ティムさん、頼まれた資料をこちらに置いておきますね」


「ありがとうございます」


 サロメさんはそう言うとテーブルにドサドサと分厚い本を乗せる。


 ここは冒険者ギルドの中にある資料室で、俺はサロメさんにお願いしてとある情報について調べていた。


「それにしてもスキルについて知りたいなんて勉強熱心ですね」


 俺の目的はこれまで知らなかったスキルの効果を調べること。

 ギルドに戻ってサロメさんに『スキルの種類について知りたい』と相談したところここに案内してくれたのだ。


 この場所はギルド職員の許可なくば立ち入ることができないらしく、サロメさんは受付を空けると色々揃えてくれたのだ。


「大抵の冒険者って自分が使えるスキルにしか興味がないから、知識がなくて揉めるんですよね」


 そう言ってためいきを吐く。


「俺もそうでしたけどね、今回の四層で他の人たちと臨時パーティー組んだら興味をもっちゃって」


 サロメさんの言葉が耳に痛い。俺も自分が使えるスキルに興味があるだけだったからだ。


「そう言えばそうですね、まさか初日から成果なしで戻ってくるとは思わなかったですし」


「うぐっ……」


 装備を一新してサロメさんに「大丈夫だろう」とお墨付きまでもらっていたのに結果が出なかった事実が胸に刺さった。


「一層降りるだけで随分と難易度が上がりましたからね。あれに対抗するには手持ちのスキルじゃ足りないと思い知らされました」


 せめて【セイフティーウォール】があれば力押しの【ファイアアロー】連打で何とかできそうではあった。


「基本的にパーティー単位でも難易度の上昇が体感できるレベルですから」


 つまりソロなら一層降りることで上昇する難易度は他の比ではないということか。


「一応聞きますけど、ティムさんパーティー組む気はありますか?」


「……正直あまり」


 組むとしたら同期でパーティーを解散した連中になる可能性が高い。今はスキルが使えるとはいえ、内心で見下してきた相手といまさら対等に接するとは考え辛い。


 俺が言葉を濁していると……。


「もし順調に五層まで行ったとしたらどうしてもパーティーは必要になるんですけどね」


 サロメさんは頬に手をあて悩まし気な表情を作った。


「五層のボス部屋ですね」


 俺の確認に彼女は頷く。五層にはボス部屋があり、入ることが出来るのはパーティー登録している冒険者に限るのだ。

 そのことを考えなかったわけではないのだが、目先を優先して遠ざけていたのは間違いない。


「まあ、そちらに関しては私の方で何とかします」


「助かります」


 サポートについてもらえて本当に良かった。彼女は俺の意を汲んでくれるのでありがたい。


「それじゃあ、今日のところは私が知る限りのスキルについて説明させていただきますね」


 そう言うと、彼女はどこからともなく教鞭を取り出し授業を始めるのだった。






「まさかティムさんが『ウォール』を使えないとは思いませんでした」


 一日中行われた授業により、俺は初心者から中級者までが使えるスキルを一通り教わった。

 その中に魔道士が使える『ウォール』というスキルがあった。

 このスキルは四属性の壁を展開することができるもので、今回の四層でいえば【アイス】と【ウォール】を組み合わせて【アイスウォール】。氷の壁を作ることでコボルトアーチャーの矢から身を護ることができる。


 敵からの矢を防いでいる間に戦士コボルトと戦士ゴブリンを倒してしまえば後衛は撤退するらしく、報告に聞く俺が使用した魔法からそれが可能だと思っていたらしい。


「普通は三層の戦士コボルトとかを確殺できるなら覚えているものなんですけどねぇ……」


 実際、ミナさんは【ウォール】【バースト】と覚えていたからその通り。俺の場合は純粋な成長だけではなく、ステータスを振り分けて威力を上げているので底上げされているのだろう。


 これに関しては情報をすり合わせなかった俺も悪かったに違いない。


「前衛さえ全滅させれば後衛は撤退しますから。ティムさんはまず【ウォール】を覚えるところから始めるべきかもしれませんね?」


「やはりそれしかないですね……」


 彼女のアドバイスに俺は頷くのだった。

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