第19話 ダンジョン四層

「おはようございます」


 サロメさんと呑んだ翌日、俺は朝から冒険者ギルドを訪れていた。


「あっ、おはようございますティムさん。今日からよろしくお願いしますね」


 サロメさんが笑顔で挨拶を返してくる。とても昨晩は二桁にも及ぶ数のエールを吞んでいたとは思えない。


「こちら、酔い覚ましの薬になります」


「ありがとうございます」


 俺の体調を察してか水が入ったコップと薬を渡してきた。

 苦い薬だが、水で流し込むと自然と胃の痛みが和らいだ。


「さて、ティムさんは今日からダンジョンの四層に挑まれるのですよね?」


「ええ、そのつもりですよ」


 昨晩の内に予定について話してあったので確認をしてきた。


「こちらが四層の地図と出現するモンスターの種類と特徴。そして有効な対策をまとめたものです」


「えっ……? そんなものまで?」


 渡された地図は完璧で五層までのルートも書かれている。これならすぐにでも五層へ降りることができるだろう。


「出現するモンスターはゴブリンやコボルトの新種ですね、対策に関してはパーティーが前提になるのであまり参考にはならないかもしれませんが、装備からすればティムさんなら何とでもなるかと思います」


 四層に湧くモンスターは戦士コボルトや戦士ゴブリンに加えてコボルトアーチャーやゴブリンメイジなどが加わる。


 解説にはパーティー単位で行動をしているので、それぞれが得意な武器でスイッチして戦うのが有利だと組み合わせが書かれている。


「確かに、参考にはならないかもしれませんね」


 一人で行動している以上この戦法をとることはできない。

 俺はサロメさんが用意してくれたポーションなどの消耗品が入ったリュックを受け取る。


「それでは、ティムさんの無事をお祈りしていますね」


 彼女は満面の笑みを浮かべ、俺をダンジョンへと送り出してくれた。




「それにしても、本当に凄いサポートだな……」


 ダンジョンに入った俺はしみじみと呟いた。

 サロメさんが用意してくれた地図は一層から五層分まであったので、現在は一層を歩き回っている。


「ここから先が突き当り……と。正確なようだな」


 地図は過去に攻略した冒険者が残した物らしく、浅い層の物なら販売されているのだが高額だ。

 駆け出しではそのお金が勿体ないのであまり買う人間はいないのだが、俺はサロメさんのお蔭でギルドが所有している地図を貸してもらえた。


 そんなわけで、正確な地図なのか判断するためにこうして歩いていたのだが…………。


「割と混んでるな?」


 目を向けてみればダンジョンに入りたての冒険者パーティーがチラホラ見える。


『おい、さっさとヒーリングしろよっ!』


『は、はいっ! 直ぐに……』


『ったく、とろい上に回復量も少ないし……使えない』


『ご、ごめんなさいっ!』


 ダンジョンに慣れてないのか、そこかしこで怒鳴り声も聞こえてくる。


「まあ、揉めている間はまだ余裕があるってことだ」


 俺がパーティーから外された時はギルドを通じてパーティー解散の宣言をされたのを思い出す。


 俺は心の中で「頑張れ」と祈ると四層を目指した。




「まずはどのくらい厄介なのか体験してみないとな」


 ここ四層に降りてくるまでの間に俺は新しい装備の質を試しておいた。


 ミスリルの鎧のお蔭で身軽に動くことができたので、これまで以上の速さで戦士ゴブリンに接近できた。そして魔法が込められたショートソードの切れ味が素晴らしく、戦士コボルトを一閃。胴を真っ二つにすることができた。


 やはりサロメさんの提案通りギルドに借金をしてでも装備を揃えて良かった。

 今までよりも安全にモンスターを倒すことができる。


「次の突き当りは左……その先二つ目のわかれを右だな?」


 地図を片手に進行していると、先の方にモンスターの影が映った。


 早速のお出ましか……。俺は地図をしまうとショートソードを抜いた。


 戦士ゴブリンと戦士コボルト、それにコボルトアーチャーとゴブリンメイジ。

 事前にサロメさんからレクチャーを受けていた構成なので慌てる必要はない。


 ゴブリンメイジが杖を掲げると何やら奴らの身体が輝いた。


「もしかして支援魔法?」


 向こうも俺に気付いたのか、戦闘態勢を取った。

 戦士コボルトと戦士ゴブリンが剣を抜き、コボルトアーチャーが矢を番える。


 襲ってくる様子がないことからゴブリンメイジの魔法が掛るのを待っているようだ。


「させるかっ! アイスアロー!」


 6本の氷の矢が突き進む。前の時と違い、魔力のステータスも上がっているしスキル取得により本数も増えている。

 三層までならこれで確殺できていたので俺は深手を負わせられると考えていた。


「ゴブッ!」


「ガルッ!」


 ところが、6本の氷の矢は3本ずつ戦士コボルトと戦士ゴブリンに突き刺さると止まってしまった。


「なっ!」


 せめて1匹くらいは倒せると読んでいたので足が止まる。


「ガルッ!」


 その隙をついてコボルトアーチャーが矢を放った。


「うわっ!」


 遠距離から攻撃をされるのはこれが初めてということもあり対処が遅れた。

 矢は俺の鎧に当たり地面へと落ちた。


「買っといて良かった……」


 衝撃からして、割と威力があるようだ。前のレザーアーマーだったらそれなりの傷を負わされていたに違いない。


「厄介な相手だが、魔法をもう一発撃って前衛を倒してしまえばいい」


 接近してしまえばコボルトアーチャーに打つ手はない。俺がそう考えていると……。


「ゴブヒール!」


 前衛の2匹が氷の矢を引き抜くと同時にゴブリンメイジが魔法を使った。

 順番に2匹の傷が塞がっていく。


「くそっ! 思っているより連携が取れている」


 回復魔法を使えることも書いてあったが、想定していたより魔法の精度が高いようで、こうして見ている間にどんどん傷が塞がっていく。


「ファイアアロー!」


 黙っていては完全に回復されてしまう。今度は後衛の2匹を狙って火の矢を6本放った。


「ゴブッ!」


「ガルッ!」


「ま、またっ!?」


 戦士ゴブリンと戦士コボルトが射線を遮ってファイアアローを受け止める。


「まだ倒せないのか……」


 治癒魔法で回復されたこともあるのだろうが、三層よりも動きが素早く防御力も高いようだ。


「あの支援魔法のせいか……?」


 パーティーでサポートし合うこの動きがとても厄介だ。


「コボボボボボボ!」


 俺の魔法を見てとってかコボルトアーチャーが矢を連続で放ってきた。


「くそっ、こっちが魔法を使う暇を与えないつもりか?」


 そうこうしている間にゴブリンメイジが再び治癒魔法を使ってしまい振り出しに戻った。


「キリがないっ!」


 せっかくの武器も接近できなければ意味がない。


「こうなったら一時撤退だ」


 俺は根本的な対策を練り直すため引くことにした。


 

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