第15話 包囲陣

 周囲で待機している冒険者がニヤニヤしながらこちらを見ている。


 どうやら、さきほど横から割り込んだ冒険者パーティーの一人が改めて経緯を伝えて回ったらしい。


 元々、冒険者ギルドでも、スキルがないころから俺はこのような視線を向けられ続けてきた。


 基本的に冒険者は実力主義だ。そのせいもあってか、実力がないものは見下され「ああはなりたくない」と悪い見本にされる。


 自分より下の存在を作ることで余裕を持つことができ、冒険へと向かうことができるのだ。


 周囲の冒険者は俺に獲物を渡す気がないらしく、常にこちらの動きを気にしている。

 各パーティーの斥候役がそれぞれ立ち位置を俺寄りにしているので、モンスターが湧いた瞬間に走り寄って攻撃を加えるつもりに違いない。


 いち早く攻撃を加えるのなら身軽な斥候が適任だ。俺が追い付いて攻撃する間もないだろう。


 モンスターが湧くまでの間、俺はひたすら待ち続けた。

 周囲のパーティーは外側にモンスターが湧いたからか、斥候役も戻って戦っている。


 そんな中、さきほどと同じ距離にモンスターが湧いた。

 今回は戦士ゴブリンが1匹だ。


「へへへへ、リーダー湧きやしたぜぇっ!」


 斥候が大声で叫び、冒険者たちが立ち上がる。斥候が攻撃を一当てして権利を奪い叩くつもりだろう。


「はんっ! 諦めたか! 俺は同期の冒険者の中でも最速だからな。てめぇがいくら走っても無駄だ!」


 斥候の攻撃を信じているのだろう、全員がこちらに走ってくるのが見える。

 まもなく斥候が追い付き、短剣で戦士ゴブリンの背中を斬りつけようとしたところ……。


「【ファイアアロー】」


 俺が懐から取り出した短杖を構えると5本の火の矢が発生する。


「なにっ!?」


 火の矢は飛んでいくと戦士ゴブリンへと当たった。


「ゴブブブブブッ」


 俺は装備をマジックダガーへと持ち替えると戦士ゴブリンへと接近する。


「て、てめぇ。魔法なんて使えたのかよっ!」


 睨みつけて怒鳴ってくる斥候を無視すると俺は戦士ゴブリンを斬りつけた。


「ゴフッ」


 ファイアアローでダメージを負っていたせいもあってか戦士ゴブリンはその一撃で倒れた。


 魔法を使った俺は、まだまだ魔力に余裕があることを確認するとマジックダガーを鞘へと収める。そして死体が吸収されるのを確認し、地面に落ちていた魔石を回収すると自分が陣取っている木の下へ戻ろうとすると、


「待てよっ!」


 振り返るとさきほどの戦士が怒りを滲ませた表情を浮かべていた。

 周囲の冒険者もおり、走ってきたせいか全員息を切らせている。


「俺は次に備えたいんだが何か用か?」


「てめぇ、スキルなしじゃなかったのかよ?」


 誰もそのようなことを言っていないのだが、勝手に騙されて怒りを俺にぶつけてくる。

 俺からモンスターを奪うつもりで無駄に走ってきたからだろう。

 俺は余裕の笑みを浮かべると戦士に告げる。


「最近スキルを会得してな、お蔭でコボルトも倒せるようになったんだよ」


 首元のシルバープレートを見せつけてやる。


「もし謝るのならここらで手打ちにしても構わないぞ?」


 後輩への配慮として提案してみる。魔法を見せてやった以上、独占するのは不可能だと察したかと思ったからだ。


「はんっ! たかが戦士ゴブリンを1匹奪っただけだろうがっ! 中途半端な短剣と魔法があったところで一人でやるには限界があるんだよっ! 複数湧きには手出しできるはずがねえ!」


 仲間に「戻るぞっ!」と怒鳴りつけて自分たちの陣地へと戻っていく。


 俺はその姿を見送るとステータスを操作する。


 しばらく待っていると違う方向にモンスターが湧いた。次は戦士ゴブリンと戦士コボルトだ。


「お前らそいつにとらせるなっ!!!!」


 戦士が目を血走らせながら必死に怒鳴る。結構な距離があるにもかかわらずその声は向こう側にも届いたらしい。


 さきほどよりも初動が速く斥候がスタートするのだが……。


「【アイスアロー】」


 今度は氷の矢が5本浮かび上がり2匹に向かう。


「「ゴブフンッ!?」」


 今度も攻撃を当てると斥候がピタリと止まった。俺が権利を得たのでマジックダガーを抜きゆっくりと近寄る。


 そして既に傷を負っている2匹をあっさりと斬り捨てると元の場所へと戻った。


「ええいっ! ふざけやがって! 向こうが遠距離攻撃を使うならこっちも使えっ!」


 顔を真っ赤にして怒鳴りつける戦士。これまで待機していた魔道士が今度は配置された。


「無駄だと思うんだが……」


 俺はためいきを吐きながら目の前のステータス画面を弄る。



「湧いたぞ! 絶対に仕留めろっ!」


 そうこうしている間に別な方向でモンスターが湧きだした。

 魔道士が杖を構え、俺も同じく魔法の準備をする。


「ファ! 【ファイアアロー】」


「【ロックシュート】」


 相手が生み出した火の矢は一本、威力も速度もなくさらには精度も低かったのかモンスターを逸れて少しすると消滅した。


 だが、俺が放った魔法は全弾モンスターへと直撃する。


「ふざけんなっ! なに攻撃を外してるんだっ!」


「む、無理ですよっ! あの距離を確実に当てるなんて!」


 魔法の実力は出せる矢の数でわかる。あの魔道士はまだスキルレベルが低いのだろう。使えるのは『ファイアアローレベル1』のみらしい。


 その上、魔法を命中させるのには『器用さ』が重要になるのだが、駆け出しの魔道士では能力値も高くないに違いない。


 攻撃を当てる勝負では負ける気がしなかった。


「こっ、こうなったらルールなんて関係ねえ! あいつの魔法で弱ったところを叩く!」


 終いには無茶苦茶を言い出した。


「よし、完成だ」


 俺がステータス画面を閉じると……。


「い、一気に来たぞっ!」


 四方全部に大量のモンスターが湧く。囲んでいたパーティーたちが血眼になって突撃してくるが……。


「【ファイアアロー】【アイスアロー】【ウインドアロー】【ロックシュート】」


「「「「ななななななぁっ!」」」」


 連続ですべての方向に違う魔法を放って見せる。


「ひっ! ひるむんじゃねえ! 止めだけでも奪いとれっ!」


 そんな指示をする男戦士に対し俺は……。


「残念だが、そいつらはもう死んでいる」


 湧いたモンスターすべてを魔法一発で確殺するのだった。

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