第8話 ダンジョン探索

「さて、今日からは気合入れ直さないといけないな」


 翌日、朝起きると胃がムカムカしていた。

 初めて呑んだ酒のせいなのか、はたまた昨晩の言い争いの苛立ちか?


 どちらでも構わない。今俺は無性に冒険がしたくなっていた。


 パシンと右手の拳を左手に叩きつける。


「絶対に負けたくない!」


 訓練時代から何かにつけて絡まれたのを思い出す。ウォルターやレッド、他にも多くの同期が俺に冷たい視線を投げかけてきたのを覚えている。


 スキル一つあるかどうか、それだけで明確な差が出るこの世界を呪ったこともある。だが今は違う。俺にもスキル――それもユニークスキルが発現したのだ。


 このユニークスキルは使い方さえ間違えなければ、誰にも負けない武器になると俺は思っている。


「残り1ヶ月か……」


 奴との差があることは認めるしかない、だけどやりようによっては何とかなると思っている。

 大事なのはここで焦ってペースを乱すこと。焦って無謀な育成計画を建てたりすれば落とし穴が待っている。

 今までよりも考えつつ、有用なスキルとステータスの振り分けを心掛けるべきだろう。


「今のところ成長するには戦闘回数をこなすことなんだよな……」


 レベルアップするのはモンスターを倒したあとなのだ、目的を果たすためにはどうしたって戦闘は無視できない。


「だったらまずは回数をこなせるようにならないといけないな」


 自分がどうすべきか、どうステータスを操作すべきか。俺は頭を回転させるのだった。




「よし、今日はここだな」


 目の前には洞窟がある。

 入口の前の広場には大勢の冒険者たちが数人ずつ集まって何やら話をしている。


 念入りな打ち合わせや装備の点検。それが終わり次第、彼らはこれからこのダンジョンに入るつもりなのだ。


 そんな彼らを横目に俺はさっさとダンジョンへと入っていく。


「へぇ……ここがダンジョン内か。流石に明かりがないと暗いな」


 初めてダンジョンに入ったことで緊張し、ゴクリと喉がなる。


「そうだ……早速明かりをつけないとな……『ライト』」


 俺が僧侶が覚えられる『ライト』の魔法を使うと、全部で六つの光の玉が浮かび上がり周囲を照らす。


「ランタンだと片手が塞がるからな、助かる」


 ダンジョンに潜る前に必要なステータス操作は行ってある。


 名 前:ティム

 年 齢:16

 職 業:戦士レベル4

 筋 力:63+8

 敏捷度:43

 体 力:33+8

 魔 力:16

 精神力:38

 器用さ:31

 運  :-9

 ステータスポイント:17

 スキルポイント:17

 取得ユニークスキル:『ステータス操作』

 取得スキル:『剣術レベル5』『バッシュレベル5』『ヒーリングレベル3』『取得スキルポイント増加レベル5』『取得ステータスポイント増加レベル5』『取得経験値増加レベル5』『ライト』『罠感知レベル5』『罠解除レベル5』


 まず俺はまだ全体的に能力が低いと思われるので各項目に10ずつ振り分けて底上げをした。そしてダンジョンに潜ることを想定して戦闘と斥候のスキルを優先して取得しておいた。

 あとは有用と思われる増加系をこの機会に最大まで取得して準備は万全だ。


「ライトを使ってもだるくならないのはステータスが底上げされたからだろうな」


 どの項目かはわからないが魔法に関することなので魔力か精神力あたりだろう。


「流石に回復に関しては魔法を頼るわけにはいかないからポーション頼みになるか」


 一人なので、回復魔法を使いすぎて倒れたら詰んでしまう。金が勿体ない気もするが、俺は昨日のコボルト討伐報酬すべてをつぎ込んでポーションを買っていた。


 荷物も確認し不足がないと判断すると、俺は奥へと進んで行った。



 光が届かない奥を気にしながら進む。ライトの魔法は相変わらず頭上についてきていて地面を照らすので、窪みなどに足を取られることはない。


 入って数分程進んだだろうか?

 俺は前方に気配を感じるとその場で足を止めた。


「ゴブリンが3匹か……」


 少ししてライトの範囲に入ってきたのはゴブリンたちだった。


「流石はダンジョンだけはある。こうもあっさりモンスターに出会えるとはな」


 今回、俺がダンジョンに潜ることにしたのはここならば戦闘回数を稼ぐことができるからだ。


 ダンジョンはアイテムで人間を誘い、モンスターを生み出し迎え撃つ。

 ダンジョン内で死んだ生物は吸収されダンジョンへと還る。その際にモンスターは魔石やアイテムを残すので、それらが冒険者の収入になるのだ。


 倒せば確実に討伐部位が手に入る外と違い、魔石やアイテムは落とすと決まっているわけではない。

 安定した収入が欲しければ外で狩るべきなのだがウォルターとの差を少しでも詰めるためには仕方なかった。


「これだけ遭遇できるならこっちの方が儲かるかもな?」


 色々と地力を上げた今ならゴブリン3匹でも問題ないはず。

 俺は先手を取るとゴブリンたちに斬りかかっていった。





「ふぅ、初戦闘終わり」


 ポーションを1本飲むと一息吐いた。


 ダンジョン内のゴブリンは外と違って好戦的だった。

 身の安全を一切考えておらず、恐怖がないのか突撃してきた。


 牽制をしようと剣を振っても後退することがないので、お蔭でいくつか傷を負わされたのだ。


「ダンジョンで生み出されたから感情がないのかもな?」


 俺たちは生きるために戦っている。よりよい生活や人からの称賛、求めるものは人それぞれだが目的があってダンジョンに潜っているのだ。


 だが、ゴブリンたちにあるのは目の前の敵を倒すことだけで、自分の身の安全は考えていないようだった。


「剣はこれまでよりも滑らかに振れていたけど、捨て身で来られるとさすがに無理があるな」


 剣術レベルを5まで上げたので鋭く相手の急所を狙えるようにはなった。

 だが、1匹倒している間に他の2匹が突っ込んでくるのでどうしたって傷を負ってしまう。


「しかも3匹倒しても魔石もアイテムもなしか……。外なら銀貨1枚銅貨5枚程度の稼ぎなのにな……」


 今飲んでいるポーションが銀貨1枚なので辛うじてプラスになる程度だが、ダンジョン内では死体が残らないので収入はゼロ。


「『経験値取得増加』ちゃんと効果あるよな?」


 思い切ってレベル5まで上げておいたのだが、ゴブリン3匹程度ではレベルも上がらないらしい。

 はやいところレベルが上がるのを確認して安心したいところだが……。


「こんなのウォルターたちはとっくに通った道だ。俺がへこたれるわけにはいかないよな」


 あいつらに負けたくなくて俺はダンジョンに足を運んだのだ。

 ここで撤退して外での狩りに戻れば負けを認めることになる。


「まだポーションはあるわけだし、気を取り直してどんどんいくか!」


 俺はやる気を振るい立たせると奥へと進んだ。

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