第2話 『ステータス操作』

 その日、安宿のベッドで目覚めると目の前に変なものが映っていた。


「なんだこれ……? まだ夢でも見ているんだろうか?」


 半透明の画面には何やら数字と俺の名前が書かれていた。

 起き上がって横から見てみるが、何かで吊られている様子はなく完全に宙に浮かんでいる。


 しばらくの間観察を続けていたが、放っておいても消える気配がなかったので、仕方なく触れてみることにした。


「なんか妙な感触だな……」


 熱くもなく、冷たくもない。だが確かにそこに触れているのか反応があった。

 俺は改めて画面に書かれている内容を確認することにした。


 名 前:ティム

 年 齢:16

 職 業:見習い冒険者レベル20

 筋 力:25

 敏捷度:30

 体 力:17

 魔 力:5

 精神力:8

 器用さ:18

 運  :-20

 ステータスポイント:110

 スキルポイント:40

 取得ユニークスキル:『ステータス操作』

 取得スキル:『剣術レベル1』


「これはいったい何なのだろうか?」


 『見習い冒険者』というのは現在の俺の立場を表しているのはわかる。だがその他の数字はまったく見たことがなかった。


「もしかしてこれ、俺自身の強さを数字で表している?」


 ユニークスキルの欄に『ステータス操作』とある。仮に今見えているこれが『ステータス』だというのなら突如見えるようになったのは何らかの理由でユニークスキルを取得したからではないだろうか?


 各項目の横には『+』の表示がある。

 職業の横に『▽』と表示があるので、ひとまずこれに触れてみることにした。


 『選択職業』……『取得可能スキル』


 ▷『見習い冒険者』……『取得経験値増加』『取得スキルポイント増加』『取得ステータスポイント増加』


 ・『戦士』……『バッシュ』『パリィ』『手当』『挑発』


 ・『斥候』……『短剣術』『罠感知』『罠解除』『解体』『後方回避』


 ・『魔道士』……『杖術』『ファイアアロー』『アイスアロー』『ウインドアロー』『ロックシュート』『瞑想』


 ・『僧侶』……『棍術』『ヒーリング』『キュア』『祝福』『ライト』


 ・『遊び人』……『眠る』『寒いジョーク』『ものまね』『食べる』『深く眠る』


 ・『商人』……『アイテム鑑定』『武器修理』『防具修理』



「なにやら選べるみたいなんだが……?」


 ひとまず戦士を選んでみる。


 名 前:ティム

 年 齢:16

 職 業:戦士レベル1

 筋 力:25+2

 敏捷度:30

 体 力:17+2

 魔 力:5

 精神力:8

 器用さ:18

 運  :-20

 ステータスポイント:110

 スキルポイント:40

 取得ユニークスキル:『ステータス操作』

 取得スキル:『剣術レベル1』


 職業のところが切り替わり『筋力』と『体力』の横に『+2』と付いている。


「これは、職業を入れ替えたから付いたのかな?」


 心なしか少し力が湧き上がってくる感覚があった。


「とりあえず何をどうするかわからないから落ち着こう。次にこの【ステータスポイント】と【スキルポイント】ってやつだな」


 情報がまったくないので慎重に行動する。


「各職業の横にある『取得可能スキル』そのいくつかは聞き覚えがある」


 戦士の『バッシュ』や魔道士の『ファイアアロー』、僧侶の『ヒーリング』や『祝福』などだ。


 冒険者になりたての頃、パーティーを組んでいた時、他の冒険者がそれらのスキルを使っていた。『バッシュ』は強力な横薙ぎをモンスターに叩き込む技だし、『ファイアアロー』は魔法で火の矢を放ち敵を傷つける。『ヒーリング』は傷を回復してくれ『祝福』は一時的に身体能力を向上させてくれる。


 どれも冒険をするのには欠かせない便利なスキルだった。


「取得可能スキルってことは、これらのスキルを得られるんだよな?」


 疑わしい話ではあるが、俺はだんだんとこの画面——『ステータス画面』に熱中していく。


 もしこれが本当ならと信じて見たくなったからだ。


「今の俺の装備はショートソードだから戦士のスキルは試せるな……」


 そう言って『バッシュ』の文字に触れてみる。すると『☆☆☆☆☆』が現れ、次の瞬間『★☆☆☆☆』になった。


 スキルポイントが『40』から『39』へと減っており『取得スキル』に『バッシュレベル1』が追加されていた。


 ベッドから起き上がり、剣を手に取る。一泊銀貨二枚の安宿(三泊で割引サービスにて銀貨五枚)なので部屋は狭いので剣を振り回しても壁に当たらない位置を見つけるのに苦労する。


「バッシュ!」


 次の瞬間、今までできなかった動きで剣が振れた。


「でき……た?」


 俺は自分の腕から繰り出された鋭い斬撃に驚いた。このスキルが使えれば、ゴブリンなんて目じゃない。

 俺は初めて使えたスキルに気分が高揚し、訓練期間で同期がスキルを覚えて嬉しそうにしていたのを思い出した。


「ようやく……俺も皆と同じスタートに立てたのかな?」


 これまでスキルが一切使えず、そのせいでパーティーを追い出され一人で日銭を稼いでいた。

 これからはこのスキルのお蔭で安定してゴブリンを狩れるだろう。上向きそうな生活を想像し口元が緩むのだが…………。


「はっ! まだぬか喜びになるかもしれない。ひとまずこれがまぐれじゃないか試してみないといけないな!」


 本来なら狩りをした翌日は休養しているのだがいてもたってもいられない。

 俺はユニークスキルの検証を切り上げて街の外へと繰り出すのだった。

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