第12話 学校で疲れても、癒されます。

 授業開始日。

 さすがに疲れた。春休みなんて、家でダラダラしてただけだし。急に7時間いすに座ってろなんて、鬼畜すぎる。もうすぐテストもあるし。世間じゃそれが当たり前なんだろうけど。


「ただいま〜」


 多少のダルさに顔をしかめつつ玄関で靴を脱ぐと、もう一足既に置いてあった。白いスニーカー。小梅のものだ。


「帰ってたのか」


 いい匂いがするような気もする。これは……なんだろ。中華系?


「おかえりなさい!」


 トタトタと小梅が早足で駆けてくる。

 この前プレゼントしたエプロンを着ているから、料理していたんだろう。


 こうやって使ってくれてると、本当に嬉しい。あと、ただいまにおかえりなさいが返ってくるのも。


「いい匂いする」

「今日の晩ご飯、麻婆豆腐やねん」

「やっぱりか〜。匂い的に中華系かなって思ってた」

「玄関まで匂いきてた?」

「きてたきてた」

「じゃあ、今日うちの近く通ったら麻婆豆腐の匂いするかな」

「するかもなぁ」


 家の前通ってカレーとかの匂いしたら、なんか懐かしい気分になるよな。あと風呂とか。


「洗濯物畳んであるから、せんくて大丈夫やで。あともうご飯はできてるから、手洗ってきて」

「えっ、マジ? いいのに……でもありがとう」


 小梅が来てからというもの、デロデロに甘やかされてる気がするの俺だけだろうか。これじゃもう幼馴染というよりお母さん……いや、それ以上。普段、洗濯以外の家事も全部してくれてるし。さすがに明日からはちゃんとやらないとな。


 制服の上着を自室に置いて、食卓につく。

 テーブルの上には、キュウリのサラダと麻婆豆腐、ご飯とスープが用意されていた。全体的に中華風らしい。


 小梅用の皿やコップが置いてあるのも、最初は全然慣れなかった。我ながらこの甘々生活に適応してしまったことが恐ろしい。


 料理器具を流しに置いた小梅は静かに椅子に座った。


「「いただきます」」


 まずはサラダから。中華ダレとごまがかかっている。ツヤツヤのそれを口に運ぶと、一瞬で旨みが弾けた。

 一旦白飯をはさんでから、麻婆豆腐。適度に辛くて、ご飯にダイブさせても美味しい。

 しっかりダシの効いたスープだって絶品だし、食べれば食べるほどお腹が空いてくるような錯覚までしてくる。


 食べ盛りの胃には少しあっさりめだけど、しっかり量があるから、満足感だってちゃんとある。


「やっぱりいっぱい食べてくれると嬉しいなぁ」


 箸を持ちながら、小梅が嬉しそうに呟いた。


「ウチお母さんしか料理食べる人おらんかったから、こんなに美味しそうにいっぱい食べてくれて幸せやわ」

「へっ!?」


 思ったより優しい表情をしていて驚いた。


「でもそれはご飯が美味しいからだし……」

「そう言うから作りたくなるんやで」

「そ、そうなの……?」

「うん」

「そっ、か……」


 何かを誤魔化すように、麻婆豆腐を頬張る。

 恥ずかしいというか、別に恥ずかしいわけじゃないんだけど、なんかこう……歯がゆい、というか。    

 なんて言えばいいんだろう。


 幸せとはまた少し違う、でも幸せの近くにいるような、不思議な気持ちだ。






 

 風呂から上がって、ソファに座る。今のとこ宿題は出てないし、一応勉強はしてるから、本格的なテスト勉強は1日前で大丈夫だろう。


 先に風呂に入っていた小梅がスっとすり寄ってくる。


「なに見んの?」

「録り溜めしてたドラマとか、バラエティとか……? うめちゃんは見たいのあった?」

「ううん。ただ聞きたくて。来週って予定ある?」

「来週……?」


 スマホのスケジュールアプリを確認する。一応ない。ないけど、一体どうしたんだろう。


「ないけど、どうしたの?」

「いや、別になんでもないねんけど。できれば早く帰ってきてほしいなぁと思って」


 小梅は俺よりだいぶ小さいから、目を合わせると自然と上目づかいになる。

 あざといなぁとは思うけど、田舎育ちの純粋培養だから。

 

「分かった。ちょうど1週間後?」

「うん。16日」


 スマホに記入する。16日。早帰り。

 ちょうど『帰』の文字を打っていて気づいた。俺の誕生日じゃん。


 小梅と会ったは10年ぶりだけど、ちゃんと覚えていてくれたらしい。最後は小梅、4歳だったはずなんだけどなぁ。

 しばらくは年賀状とかのやり取りしてたからかな。


 悟ったのを小梅にはバレないようにして、テレビに視線を移す。完全なサプライズ……をしようとしたんだろう。小梅は嘘はつけないタイプらしい。

 隣がほのかに暖かいのを感じながら、また一人暮らしに戻ったら、寂しくなるんだろうなとぼんやり思った。





【あとがき】

タイトル変えました!

ちょっと納得いっていなかったので……

内容は変わらないので、これからも楽しんでいただけたらすごく嬉しいです。

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