777m 忘れられた地で AD2030 Angel war
sala
プロローグ
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特定国防機密
セルビア平和維持軍 日本国 陸上防衛軍第一次派遣隊に関する戦闘報告
作成 ■■ ■■ 陸軍中尉
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西暦二〇〇一年、もう三十年も前になる。私が生まれた年――、人類は二十一世紀に夢を見た。戦争の世紀と呼ばれた二〇世紀からの脱却――。誰もが笑って暮らせる夢の様な日々を想像し、誰もが気楽に世界を旅し、誰もが気軽に宇宙へ行ける……。そんな日常を期待した。
ヒトは二十一世紀に夢を見た。けれども夢は悪夢となり、我々人類にヒトとしての限界を見せつける事となる。
二〇〇一年、多くの人間は9.11同時多発テロを連想するだろう。だがそのほんの少し、二ヵ月程前に旧ユーゴスラビアで起こった出来事を知っている人間は、少ない。何故知らないのか? 知る必要が無いからか? 報道されなかったから、知る由も無かった? それはいい。
けど旧ユーゴスラビアと云えば、意外な事に日本ではとても有名だ。何故? サッカーだね。
ユーゴスラビア社会主義共和国連邦。これはもう分裂し消滅した国家だが、この小さな国家を構成する国家群は自治州も合わせると八つにも上る。サッカー観戦が好きな人間はこの分裂後の複雑怪奇なそれぞれの国の国旗を、少なくとも半分は答えられるでしょう。私は無理だ。旧ユーゴスラビア代表が監督となり、日本代表を指揮した事さえある。
勝利した国々の古く伝統ある町並みは美しく。街道は美男子、美女のオンパレード。食べ物も美味しく、酒も美味い。だが、ここで何が起きたかを知っている人間は少ない。
「知っているよ。紛争だろ?」
そいう言う人間もいる。その答えに間違いは無いのだから。熾烈を極めたのその紛争は、対外的に見れば単なる地域紛争に過ぎなかったが、当事者達は戦争と言う。発端は冷戦崩壊間際の九一年。それから十年の戦争が続き、その後も悲劇は続く。敗者の言い分とは人類史において、常に軽視され続けた。この戦争にも当然敗者は存在し、彼らは迫害され続けた。
殺って、犯られて、やり返して。相手も同じ事をした。我々も迫害された報復された。なのにどうして、世界は我々だけを野蛮人だと無視するのか? 世界はこう答えた。
「お前達も
自業自得と云う意味。だが自業自得で済ますには、余りにも多くの人間が死に過ぎた。全てが終わり。ユーゴスラビアはその後、完全に世界史から消滅。二度とその名を使われることは無く、七個の共和国と二つの自治州へ分断。後に六個共和国と二自治州、一国家へ分離。
その後も市民レベルの衝突が絶える事は無く。確かコロナウィルスが大流行した前後にも、小競り合いがあった。
そして時は流れ敗戦国にとっては待ちに待った日が来たのだろうか?
ロシア連邦共和国が国名を『大ソヴィエト・ロシア共和国連邦』へ変更した翌年の二〇二九年。内戦は再発という言葉が不適切なほどに熾烈を極める状況に陥った。あれはもう純然たる戦争だった。当時のバルカン半島には「私は〇〇人」と言い張り続けるのなら拉致され、殺される世界が存在し、いや、公然と存在し続けていたんだ。私達はそれを止めに行っただけなのに。本当に、人間って救いが無いね。
「また私の長い物思いに付き合ってくれてありがとう。ねぇ――。あなたはどう思う? 私は悪? それとも正義?」
死体が返事をするわけも無いか。
「神の名の元に」などと、神が望む戦争など有りはしない。
仮に神が戦いを強要するのであれば、そんな神は捨てればいい。
今は亡き同僚の言葉が帰国後も、私の頭にこびり付いたまま剥がれない。
彼が残した言葉は、戦場の流れとその後の人類のあり方を変えた。真の英雄は私じゃない。
今回の戦争で日本が得たものは何か。少しの実戦経験と国連での発言権向上、戦死者遺族への保証金制度の確立。後は何だろうか? なんだろう。
そして彼等にとって、二〇三〇年が何かの節目の年だったのかは解らない。
歴史家は、合計三六〇日続いたこの戦争を『World War the minimal』極小の世界大戦と呼ぶ。更に後年の歴史家はこれをまた別の名前で呼ぶが、私はその呼び方が嫌いだ。
全ての責任は我々大人達にある。こんな事二度と繰り返してはいけない。
昔。ある国がこんな実験を行った。人種を問わずに子供達を一つの部屋に集め様子を見るという単純な実験だ。部屋には数種類のおもちゃが置かれてあるだけで、大人は居ない。
暫くすると、子供たちはおもちゃで遊びだした。まだ言葉も上手く話せない程に幼かった子供達は、喧嘩する事無く。互いにおもちゃを交換し、または一緒になり遊びやがて疲れ果て眠りに落ちた。その実験を企画した者達が、それを見てどう感じたのかは解らない。
だがこれだけは言える。我々人類は、本来なら理解しあえる存在なのだと。
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国家安全保安省権限において、当該ファイルへのアクセスを許可します
警告
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国家安全保安省
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