辺境伯令嬢の私に、君のためなら死ねると言った魔法騎士様は婚約破棄をしたいそうです

茜カナコ

第1話

「シェリー様、私は貴方のためなら死ぬことも厭いません」

「まあ、アルバート様。そんな事言わなくてもわかっておりますわ」

 私、辺境伯の令嬢シェリー・ホワイトは魔法騎士アルバート・レイズと将来を誓い合っていた。

 婚約指輪もしていたし、毎日が輝く夢のように過ぎていた。


 そんなある日、ティータイムを過ごしているとアルバートの表情がいつもと違うことに気付いた。

「アルバート様、何かありましたか?」

「シェリー様……」

 アルバートは硬い表情のまま、冷めた紅茶をゴクリと飲んでから、私に言った。


「実は、私は町の娘、スノー・フレイル様と出会ってしまったのです」

「え? 出会ったというのは?」

 アルバートは私から目をそらさずに言葉を続ける。

「先日、私は魔物退治のため森に出かけたました。その時、湖の畔で怪我を負ったスノー様を助けたのです。そして、彼女は私と愛を誓い合いたいと……」

 私はことばを失ったまま、震える手で紅茶のカップを持ち上げた。

 冷たい紅茶で喉を潤してから、アルバートに尋ね直した。


「アルバート様、貴方はどう考えていらっしゃいますの?」

 アルバートは一度、頬に手を当ててため息を着いた後、心を決めた様子で私を見つめて言った。

「シェリー様、貴方は自立していて強い方です。しかし、スノー様は一人では生きていけない弱さをお持ちです……。婚約を破棄して頂けませんか」

 私は突然のことに涙も出なかった。

「分かりました。心が離れているのに縛り付けても良いことはありませんね」


 そう言ってから、私は左指にはめていた指輪を外し、アルバートに返した。

「これはお返しします」

「……申し訳ありません」

 私はため息をこらえて、微笑んだ。


「スノー様とお幸せに」

「それでは、失礼致します」

 立ち去るアルバートの後ろ姿を見送った私は、一粒だけ涙がこぼれるのを感じた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る