他の女にうつつを抜かすのは腹が立つ
昼飯を求め、ウロウロ……。あの気まずさは無くなったけど話題が大して浮かばん……。
あれでもないこれでもない、ラーメンは食べたし……と悩んだすえ、たどり着いたのは小さな喫茶店。近くに有名飲食チェーンがあるためだろうか、中から覗くとお客さんは1、2人くらい。
黒い戸をゆっくり開ける。カランっとドアベルが鳴った。
部屋の落ち着いた雰囲気、エアコンの涼しい風ににほっと一息。やはりお客さんは2人だった。
入り口付近で案内する店員もいないため、店の奥へ足を進める。
「ここで良かったの?」
「おう。なんか隠れ家っぽくてワクワクしないか」
それにこういうところの方が美味しい確率高いし。
テーブル席へ向かうときに、店員はいないかなと、ちらりとカウンターを覗いてみた。
そこには、黒髪長髪の女性店主が1人。黒のエプロンに身を包んだ彼女と目が合う。口の端をほんの少しだけ上げて笑っている。
すごく綺麗な人……これは美味い店では?
「透矢?」
「あーはいはい。えと、あそこでいいか?」
「……うん、そこにしよう」
席に着くと、先ほどのお姉さんがお冷やとメニュー表を持ってきた。
「いらっしゃい。メニューはこれよ」
「あっ、ありがとうございますっ」
「ではごゆっくり……初々しいカップルさん♪」
「「カッ!?」」
依子と声が被る。
なるほど。さっきほどお姉さんが笑って見えたのは、俺たちの関係を伺ってきたからなのか。
それにしても俺と依子がカップル……は、側から見たらそう見えるのか……? ま、まぁ嫌な気は……。
お姉さんは、そう言い残すとメニューを置いてカウンターへ戻っていく。去り際にクスクス笑われてしまったような気がした。さっきの発言もきっと俺たちを揶揄っているのだろう。
「ふぅ、ごちそーさん。いやー、こんな美味しい店があるとは……」
「ほんと。美味しかった」
俺はカツサンドとオニオンスープ。依子はナポリタンを頼んだ。
味は絶賛だった。やはり美女がいるお店は美味しいという俺の見立ては正しかったらしい。
「アタシ、ちょっと」
「ん。行ってら〜」
依子が席を立った。こういうのは下手にどこに行くんだとか聞かない方がいいってじっちゃんが言ってた。というか、お手洗いか電話がきたかの二択だろう。
食後のコーヒーも美味いし……また来たいなあ〜。
「ねぇ、君」
「? って……」
(依子side)
お手洗いから帰ると、透矢とエプロン姿が似合うお姉さんが何やら楽しげに会話していた。アタシと2人で店に来ているのに。
あー、そうだよ。忘れていた。コイツ、モテるんだった。学校でモテるんだから、そりゃ外でもモテるよな。
アタシは告白の返事を待つと言った。アタシの事だけで頭いっぱいで悩んでくれるのが嬉しいから、そのままの関係でいた。
けど……
「へぇー、そうなんだぁ。君って案外そういう子なんだ。可愛いね」
「いやー、あはは……」
他の女にうつつを抜かすのは腹が立つ。
なんか無性にムカついてきて、早歩きで席に戻る。
「あ、依子お帰り」
「あら、お友達ちゃんお帰りなさい」
お友達ちゃん……か。どうせ透矢がアタシたちの誤解の関係を言ったのだろう。
「確かにアタシはお友達ちゃんですが、もうヤった関係なので」
「い、依子さん!?」
自分でもスラッと出てきた言葉。大胆発言すぎるも、それほどムカッと……いや、嫉妬していたのだろう。
すると、お姉さんは口に手を添え笑い出した。
「……なんですか?」
「確かに彼女の方が一見大人しそうだけど積極的ね。貴方は外見は活発系なのに、意外と慎重派」
「あはは……」
「え、あの……」
透矢を口説いていた訳ではないのか?
困惑する。
「あー、ごめんなさい。彼に貴方との関係を聞いたら親友って答えて、その後に『俺が彼女の告白の返事を保留してて……この胸騒ぎが親友か恋なのか、向き合うつもりで……』って言うもんだからね、つい応援したくなって。2人が次来店するときにはカップルになっていることを願うわ」
お姉さんはそう言い、またカウンターの方へ戻っていった。
「……」
「……」
また気まずくなって互いに黙る。
これじゃあ午前の勉強会の二の舞だ。
てかアタシ、待つとか言ってたけど……思ったよりも焦っているんだ。
あー……恥ずかし。
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