第54話 黒戸 白の誤った結論

黒戸 白が病院にお見舞いに行った翌日。


東桜台高校はまだ生徒が登校もしていない早朝、生徒指導室で教師と生徒が机を間に対面で見つめ合う。


「で? これは何かしら……朝早くに呼び出して何事かと思えば、何かの冗談?」

田中たなか 里利りりは机に置かれた白い紙の封筒を指差し怪訝けげんな表情で問い掛け、目の前に座る黒戸 白に怒ってるような悲しいようなそんな何とも言えない感情で真剣に問い掛けた。


「その封筒に書かれているそのままの意味です……冗談とかそう言うわけじゃ……」

白は顔を横に振り暗い表情で答え。


「そ……そう、私にはこの封筒に『退学届』て書かれているように読めるのだけど……読み方間違っているかしら?」


「その通りで……そのままの意味です」

白は里利の質問にそのまま嘘偽りなく答えた。


バン!


「こんなの受理するわけないでしょ! なんの理由もなく、いつも真面目に学校に通ってた生徒を……意味が分からない……」

里利は机を思いっきり叩くと、白が出した退学届を握りしめ目に涙を浮かべうつむく。


「ご、ごめんなさい……でも……でも理由がなくてこんな大事な事を先生に相談してるわけじゃないんです……僕がここに……ううん、僕がいると周りの大切な人たちはみんな不幸になるんです、傷つき悲しみ辛い思いをする……僕が何もしないでいてもそれは起こるし、僕がそれをなんとかしようともがいてもそれは回避する事が出来なかった、もう大切な人を悲しませる事はしたくないんです……」

白は生まれて今までの自分自身に起こった事を話し、この退学届を出すに至った経緯を話した。


「なんであなたの所為せいだと思うの? なんであなたが原因だと決めつけるの? 黒戸君が何もしなくてもあなたの周りの人達は傷つき悲しんでいた事があったんでしょ? あなたが話してくれた白間 美希さんの件、原因は骨川 糞夫君が元々の原因でしょ?  それと沢村 礼子さんの件、あれは久須 竜也って男が原因で寧ろ黒戸君は彼女を助けてるわよね? それとも白間 美希さんよりも前の幼馴染だった緑山 雫さんって方の件、それも骨川 糞夫君が……ん!? またコイツが出てきたわね……まぁ糞夫が原因なんでしょ? それと妹さん、それだって糞夫がした事であなたは妹さんを想い必死に守ってきたんでしょ? 私にはあなたが退学する理由が何一つ見つからないのだけれど」

里利はとても真剣に、優しく白に話しかけ説得する。


「そ……それでも僕が原因の一つである事に変わりありません、もしあの時に僕がいなければ美希はもっと普通に学校生活を送れていたかもしれないし、もしも礼子さんを僕が助けに行かなければ、あのような大事おおごとにはならず誰か他の人が助けに来てくれていたかもしれない……緑山さんや紅だって僕がいなければ虐められる事なく、不登校にもならずもっと楽しい学校生活を送れていたかも……」

白は里利の目を見つめ真剣に訴えかけ。


パン!


話してる最中に白の頬を里利がぱたく。


「やめなさい! なんでそんな事を言うの? なんでそんな考えになるの? みんなあなたに責任を押し付けていた? みんな黒戸君がいなければなんて言ったの? そんな悲しい事を言わないで……そんな事を聞いたらそれこそあなたが助けてあげた彼女達は悲しむわ」

里利は泣きながら大きな声で白を叱りつけ。


「……」

白はうつむき黙りこむ。


ーー

ーー


暫く沈黙が続き、数分が経った時に里利は自分の鞄から何かを探し取り出し。


「ねぇ黒戸君、これが何か分かる?」

里利は白の目の前にボロボロな一冊の本を置く。


「えっ……!?」

白はその本を見て驚きの表情を浮かべるが、里利の質問には答えなかった。


「まぁいいわ、やっぱりね……別に答えなくてもいいの、ただ先生の話を聞いて欲しい、黒戸君はあなたに関わった人達がみんな不幸になるって言ったわね? でもね私はあなたに……いえ、この本に出会う前にとても辛い時期があってね、それこそ死のうと……いえ違うわ……死ぬつもりでいた時があったの、でもその時にたまたまこの本と出会い私は死ぬ事が怖くなり生きたいと思い救われたわ、このクロシロって作者の『今を生きる』って本に出会えてね」

里利は机に置かれた本を見つめ語り始め。


「少なくとも私と言う一人はあなたに……ううん、黒戸君に救われている事は忘れないでほしいの……ありがとうクロシロ先生」

里利は白の目を見つめ優しく微笑み、照れながら感謝の言葉を伝え。


「ボロボロ……その本はもうボロボロじゃないですか……新しいの、新しい本ならまだあります……」

白は里利から目をそらすと小さい声で言葉を絞り出し、何度も読まれたのだろう自分の本を見つめ言葉を吐き出す。


「ううん……その気持ちだけありがたく受け取っておくわ、この本はボロボロだけど私にとってとても大切で思入れのある本だから……だからまだあなたが救ってあげなきゃいけない大切な人にその新しい本は渡してあげて」

里利は机に置かれた本を手に取り大切そうに胸で抱えるように抱きしめ、この本と出会えた時の事を思い出す。


「先生……正直、僕はどうしたらいいか未だによく分からない……けど、話を聞いてくれてありがとうございます」

白はそう言うと席を立ち里利に一礼して生活指導の部屋を後にする。


「退学届は取り敢えず預かっておくわ、けど今日一日もう一度よく考えてくれない? それからでも遅くはないでしょ」

田中 里利の声は黒戸 白に届いたか分からないが彼女はそう白の背中に投げかけ、白の姿が見えなくなるとスマホを取り出し誰かに連絡を入れる。


トゥルルルル トゥルルルル


『もしもし……なんだよ田中、こんな朝っぱらから? 私は昨日大怪我して疲れてるんだ、今日だって忙しくて相手してやる時間ねーぞ』

電話に出たのは火野 京子で面倒くさそうに電話に出るが、なんだかんだで気が優しく、忙しく疲れていると言うのに電話に出てくれた。


「ご、ごめんね京子……朝早くに、ほら私……私ってあまり人付き合いが良くないから、何かを相談する相手とか居なくて……話聞いてくれるかな?」

里利は断られると思いながらも、里利が今相談できる相手なのは京子くらいしかいなかった。


『う〜ん……まぁ相談ぐらいなら乗ってやるよ、男と金以外ならな、でっ相談てなんだよ? 手短に頼むぜ』

京子はぶっきらぼうにそう言うと里利に相談内容を訪ね。


「あ、ありがとう……で、でもある意味で男関係と言うか……」

里利が話を切り出した途端。


『あん!? じゃー切るわ』

京子は『男関係』と聞いた途端電話を切ろうとする。


「あっ!? ま、待って! ちょっと……ち、違うの男って言っても男子生徒の相談でね、手短に言うと京子がこの前手錠かけた黒戸 白君て男子生徒がね退学届を今朝けさ私に渡してきたの……そんな大事な事いきなり言われても私どうしたらいいか……教師として生徒の相談には真摯しんしに受け止めてあげたいけど、個人的に私は彼には辞めて欲しくないし取り敢えず黒戸君には一日よく考えてとは言ったんだけどね……」

里利はなるべく手短に京子に伝え話すと。


『おい!? コラァ田中! 内容が手短過ぎるだろボケ! ちゃんと詳しく説明しろアホ! そんな簡略された説明でどう相談にのれって言うだよバカ!』

京子は里利の話の内容を聞くや、里利は要望通りの手短に説明したにも関わらず罵声を浴びせる。


「ちょ、ちょと! 京子が手短にって言ったんでしょ!? 説明してもいいけど長くなるわよ……あんたが今日はこれから忙しいて言ってたじゃない」

逆ギレされた里利も少しムキになり反論すると。


『あーうるせ! うるせ! いいからさっさと説明しろ!! 事は一刻を争うんだろうが、たくよ使えねーなチビメガネは……なんでこんな大事な事もっと早くに言わねーんだよたく』

京子はグダグダ言ってんじゃねーとばかりに里利にまくし立て。


「これでも私は誰よりも一番に相談してるんだからね、フン!」

里利は腹を立てたがそんな事をしてる場合じゃないとさっきの一連の黒戸 白のやり取りを京子に話し直し。


『そ、そうか白くんが……あっ!? ち、違う、黒戸 白って生徒がね……教えてくれてありがとうな田中、私もこれからちょっと急に用事出来たから切るわ』

京子は話を聞くだけ聞いて電話を切る。


トゥーー トゥーー トゥーー


「えっ…………はぁ!? ちょっと! もう何言ってんのあの赤髪包帯厨二病は! 私は相談しに電話したのよ、なに話だけ聞いて切ってんのよあのバカは」

里利は通話の終わったスマホに向かい一人罵声をぶつけ、白から渡された退学届を見つめた。


ーー

ーー


その後その話は火野 京子から白愛会へ報告が伝わり、『黒戸白退学』の情報は瞬時に世界の白愛会ネットワークに広がると全白愛会の耳に届く事となった。

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