第32話 黒戸 白の覚醒

「この、ストーカー野郎が」

骨川ほねかわ 糞夫くそお黒戸くろと しろに向かって嘲笑あざわらう様に吐き捨てた。


「えっ……!? これって……これじゃ昔の……あの頃と……」

白は糞夫に殴り倒され、呆然ぼうぜんと自分を嘲笑あざわらう糞夫を見つめ昔の頃の嫌な記憶を思い返す。


小学生の頃のある日の事、いつもの様に美希と帰ろうとした白は突然突き飛ばされ、『ストーカー』の烙印らくいんを押された……それが小学生の頃のクラスのリーダー格、骨川 糞夫だった。


「また……またあの頃みたいにこの男は、僕や僕の周りの人間関係を壊す気なのか……」

白は歯を食いしばり、拳を握りしめ。


「僕は……僕は…………僕は……僕は……俺はストーカ……」

白は糞夫に反論し、立ち向かおうとした時だ、糞夫が突然視界から消え、苦痛の叫びを上げた。


「グハァ!」

白を見下みくだ嘲笑あざわらっていた糞夫を白間 美希が両手で押し退けたのだ、糞夫はバランスを崩し机や椅子を薙ぎ倒す様に床に倒れた。


「ふ、ふざけないで! 黒戸は……白は……ストーカーなんかじゃ…… 白は……白は私の大切な……大切な人なんだから!!」

美希は床に倒れる糞夫を見つめ、目に涙を浮かべて叫んだ。


「い、痛てぇなコラァ!」

骨川は直ぐに起き上がると怒号を美希に浴びせながら詰め寄り、躊躇ちゅうちょのない握り締めた拳を美希の顔面に叩きつける。


美希はける事も出来ずに糞夫の拳を的確に顔面に受けると、鼻から血を垂らしながら意識を無くし倒れた。


だがまだ糞夫の怒りはそれだけじゃおさまらず、糞夫はさらに意識を失い倒れた美希に追い打ちをかける様に歩み寄ると、美希のお腹に目がけて蹴りを打ち込む体勢に入る。


「や、やめなさいよ! 恥ずかしくないの女の子に手を上げて」

すかさず礼子が骨川の気を自分に向けるため叫ぶ、すると骨川は蹴りの体勢を止めると、意識を失った美希の顔を踏みつけ、礼子に向き直り。


「悪いな沢村、俺は男女平等主義でね差別をしない主義なんだ、それに美希こいつは俺の女だ、だから悪い事をしたら叱らなきゃ駄目だろ? 俺だって殴りたくはないんだぜ、美希の事は好きだからよ……ただソレはソレ、コレはコレなんだわ、分かるか沢村? 将来は俺の嫁になる奴を俺がしつけしてるだけなんだよ、分かりますか? ご理解頂けましたか? ケッケッケッ」

骨川は喋りながら、美希の顔を靴底でゴミを扱う様にさらに強く踏みつけ、笑いながら礼子に話す。


「ふ、ふざけないで! その汚い足を美希から退かしなさいよ!!」

礼子は怒鳴り叫ぶと骨川に歩み寄り『バチン! 』と骨川のほほを平手打ちして、美希の顔を踏む糞夫の足をどかそうと掴み持ち上げようとする。


「おいおい、痛てぇな沢村……俺はお前に手を出したりなんかしてねぇんだぜ久須君のお気に入りてのもあるからよ、でもまぁ手を出されちゃっ仕方ねーよな? 久須君には悪いけど正当防衛はしなきゃ差別だし、平等じゃねーよな」

骨川は足にしがみついてる礼子を睨み付けると、礼子の背中めがけて拳を振り下ろす、礼子は美希の上に重なるように倒れ込み。


「ぐっはぁ……!? い、痛い、み、美希……美希……大丈夫?」

礼子は悲痛の叫びを上げ、背中に激痛を感じながらも美希に声をかけ心配する。


当然この騒ぎは教室だけじゃなく、他のクラスにも伝わり周りは生徒の野次馬が出来ていた。


しかしこれだけの事が目の前で起こっているのにも関わらずクラスのみんなは誰も助けようとも動こうともしない、それもそうだろう学校の生徒の家族や親戚は大半が骨川財閥系列の会社に勤めている人が多い、骨川 糞夫に歯向かう事がどう言う事を意味するか分かっているのだ、だからむしろ骨川グループと呼ばれている一部の連中は。


「糞夫さんもっとやっちゃえ」

「糞夫さん流石っす、男女関係なく正義を通すところ尊敬します」

「骨川くん、カッコいい」

と糞夫の行動を骨川グループの連中は賞賛し、声援を送る屑ばかりなのだ。


だが一部の骨川グループ女子のリーダー格の黒髪ロングの目尻がつり上がった青木あおき 稲穂いなほは糞夫の普段とは違う異常な行動に戸惑い異論をとなえた。


「く、糞夫……ちょ、ちょっとやりすぎじゃない? これ以上はさ……ほらヤバいって」

稲穂は糞夫を恐る恐る止めようと近づき間に入るが。


「あん!? おい稲穂、てめーはどっちの味方だぁ? お前もあっち側なら同じ目に合わせるぞ」

止めに入った稲穂を一見いっけんし睨みながら低い声で脅しをかける。


「えっ!? ただ私は……ご、ごめん……」

稲穂は糞夫の威嚇いかくに恐怖し、何も出来ず引き下がる。


そんな最中さなか、白は早く美希と礼子を助けようと倒れた机や椅子の上でもがくも、倒れた時に運が悪く机から飛び出したハサミが背中に深く突き刺さった為になかなか抜けず、床に血をどんどん垂れ流し動けないでいた。


「みんなのリクエストもあるし、二人をもっと痛めつけるかな」

糞夫は楽しげに礼子の額を足で蹴り上げると、教室では歓声と悲鳴が湧き上がる。


「やめなさいよ! なにが男女平等よ、善悪の区別もつかないくせに!!」

姫野 咲が骨川 糞夫を睨みつけ、美希と礼子の前に立ち塞がる。


「んっ!? なんだ姫野、お前も俺に遊んで貰いたいのか? 沢村と違い俺はお前の事は美希の次くらいにはタイプなんだぜ、もし付き合いたいって言うなら付き合ってやってもいいぜ……愛人としてなクックックッ」

糞夫が今度は礼子の顔を踏みつけながら舌を舐めずり回して咲に言う。


「はぁ? なんであんたみたいな屑と私が付き合わないといけないのよ、さっさとその足をどけろって言ってんのよ!」

咲は更に強気な態度で糞夫に突っかかるが、咲の足は震えていた。


「おい姫野! 別に殴ってきて良いんだぜ? まぁその時は正当防衛を発動させてもらうけどよケッケッケッ」

糞夫は自分の頬を軽く叩き挑発し、咲の顔に鼻がお互い当たるぐらいの距離まで近づくと舌で咲の顔をペロッと舐める。


「き、気持ち悪い、やめてよ!」

咲はつい条件反射で糞夫を突き離そうと手で押し退ける。


「おっと! 手を出したな姫野、これは正当な暴力だ、正当防衛させていただくしかねーよな、ケッケッケ」

糞夫は笑いながら、美希にお見舞いした様な躊躇ちゅうちょのない握り固めた拳を咲の顔面めがけて振り抜く。


「い、いや! ち、違う……今のは……」

咲は目を瞑り、恐怖のあまり腰が抜けて床へ座り込む。


ボキッ ボキッ バキッ


その瞬間、教室中に物凄い大きな人の骨が何本も折れる音が響き渡る。


「ぐぅあぁぁぁぁ!!!」

糞夫は悶絶し倒れる、あまりの激痛に床をのた打ち回る。


「く、黒戸くん……」

咲は目を開けると、そこには白が背中からようやくハサミが抜き取り、傷口からは大量の血をあふれ出しながら、糞夫の横腹よこぱっらめがけて拳をじ込ませる姿があった。


「ありがとう姫野さん二人を守ってくれて……ごめん美希、ごめん礼子さん……僕の……僕のせいで……」

白はそんな苦しむ糞夫をお構いなしに、美希や礼子の元へ駆け寄ると、二人をかかえ上げ。


「礼子さんに嫌われたかもしれないね……僕もあいつらと同じ礼子さんが嫌う暴力を振るう事に……でも僕はもう僕を慕ってくれる人が傷つく姿は見たくないんだ……大切な人が傷つくのお……ごめん」

白は礼子の顔をさすりながら謝る。


「ううん、謝らないで……もしそんな事を気にしてるなら誤解だよ、私は何があっても白の味方だし……白を好きな事は変わらないから」

礼子は痛みで苦しいにも関わらず、笑顔で僕の目を見つめる。


美希は完全に気絶して動く気配がない。


「姫野さん立てる? お願いがあるんだ、美希と礼子さんを保健室まで連れて行ってあげてくれない?」

白は未だ恐怖で座り込んでいた咲に声をかける。


「えっ……ちょ、ちょっと……く、黒戸くんこそ人の心配するより……せ、背中から血が!? あなたも保健室行かなきゃ……」

咲は白の背中から溢れる血の方が重傷だと、白を心配した。


「ううん、大丈夫ありがとう心配してくれて……でも僕にはやらなきゃいけない事があるから、姫野さん二人の事をお願いしていい?」

咲は震えながらも白の真剣な眼差まなざしを見つめると、一息ついて答える。


「わ、分かった……でも、でも無茶はしちゃダメだよ、二人が悲しむし……私も……」

そう言い残すと咲は他の生徒の力を借り二人を抱えて教室を出て保健室に向かった。


「ありがとう美希……僕の為に怒ってくれて……そしてごめん、僕なんかの為に痛く辛い思いをさせて……だからこんな事は繰り返させない……終わらせるよ、もうみんなの悲しい顔は見たくないから」

白は糞夫を見つめ一人呟く。


糞夫は横腹を抑え未だ悶絶している。


「ほ、骨が……く、苦しい……テ、テメー覚えてろよ! こ、こんな事してただで済むと思うなよ……黒戸!!」

糞夫は床に倒れ込みながら白を睨み吠える。


「なぁ糞夫……なんか捨て台詞みたいな戯言たわごとを言って終わりみたいな雰囲気出してるが……まだ始まってもいないからな、寝言は寝てから言え、これから始まるんだよ」

白はさっきまでの声色を変え、見下みくだしながら睨みつける。


「前言ったな……手を出したら正当防衛が成立すると? 当然俺にもその権利はあるわけだろ?」

白の背中から黒いオーラの様な物が漂うと、今までとは別人の様なとても邪悪な、感情のない眼差しを糞夫に向け、糞夫へとにじり寄っていった。


そんな白の姿を床に倒れながら見た糞夫はガタガタと震え、本当の恐怖の様なものを感じ取っていた。

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