第25話 白間 美希の受け入れられない心

〜東桜台高校・放課後〜


「美希ちゃ〜ん! 田中先生が帰りに職員室に寄ってちょうだいって」


白間しろま 美希みきに一人の女子生徒が話しかける。


「えっ! わ、私? う〜ん……分かった」

美希は今日、こっそり帰りに礼子や咲にバレないように、白のお見舞いに行こうと思っていた。


「んっ!?」

そんな美希が呼ばれていた時の礼子の行動を美希は見逃さなかった、田中先生に呼ばれてると言われた時だ、礼子は机の下でガッポーズをかましていた。


「ねぇ礼子? なんか私が呼び出し食らってるのが嬉しそうだね、なんで?」

美希は遠回しに牽制してみた。


「えっ!? そう? そんな事ないよ、もし私に用事なかったら美希や咲と一緒に帰りたかったし、残念な気持ちで一杯だよ」

礼子は言葉ではあぁ言っているが、顔が少しニヤケている、女の勘ってやつだ、あれは絶対に白のお見舞いに行く顔だ。


「ほら、何してんの、校門まで一緒に帰ろうよ礼子」

咲は鞄を持って、教室のドア辺りで待っている。


「じゃあ、私達は帰るね美希」

礼子は席を立つと、美希に手を振り、余裕の勝ち誇った表情で咲の元へ向かった。


「じゃあね、美希も気をつけて帰ってね」

そんな咲も美希に優しい表情で手を振る。


「咲、まじ天使、可愛い……逆に礼子は、あれは悪魔だ……人間の皮を被った悪魔や」

なんて冗談を呟きながら美希も二人に対して手を振りかえした。


礼子も咲も教室を後にしたのを確認すると、美希も帰り仕度じたくをしてから職員室へ向かった。


ーー

ーー

ーー


職員室の前に着くとドアを軽くノックしてから、職員室の田中先生の席を見渡すが誰もいない。


「んっ、田中先生に何か用事? たぶん美術室にいるんじゃないかしら」

美希がキョロキョロしていると、他の女性教師がその姿に気付き田中先生の居場所を教えてくれた。


美希は一礼して職員室を後にすると急いで美術室に向かい、コンコンと美術室のドアをノックする。


「はい、どーぞ開いてますよ」

ドアの奥から可愛らしい声が響いてきた。


「失礼しまーす、白間ですが呼ばれてきました」

美希は元気よく挨拶して中に入ると部屋は油絵の具の独特な匂いで充満していた。


「あっ! 来てくれたのね、ごめんなさい帰りに呼び出しちゃって、ちょっと黒戸君に渡してほしい書類があるから、白間さん近所でしょ黒戸君と親しいと思って……頼めるかしら?」

田中たなか 利里りり先生は見た目は小学生ぽく、ブラウンカラーのショートカットにメガネを掛けた可愛らし先生だ。


「えっ!? あっ……はい、全然構わないです、この後帰りに白……黒戸君のお見舞いに行こうと思っていたので」

美希は白に会いにいく口実が出来たし、白の為なら全然嬉しかった


「そう言ってくれると助かるわ……黒戸君の事はあんな事件があって本当に残念ね、担任としてとても辛いわ、特に黒戸君の事は気にかけていたから……ごめんなさい、書類取ってくるからちょっと待っててね」

田中先生はなんだか寂しそうに、一人の生徒を心配するってより、一人の男性を心配するそんな感じで悲しい表情をしていた。


田中先生が美術準備室に書類を取りに行く間、美希はブラブラ美術室の絵を見ながら、美術室の先生の机に目がいった。


「ん? なんだろアレは、なんか見覚えが……この絵って……」

美希は机にある本を取り上げ、本を見てると、田中先生が書類を持って戻ってきた。


「ごめんなさい待たせて、この書類を……あっ! ダ、ダメその本は」

田中先生は慌てて美希から本を取り上げる。


「ごめんなさい、この本は大切な物なの、変よね教師が学校に漫画を持ち込んでるなんて……」

「別に変じゃないですけど……その絵……その絵って黒戸君の絵ですよね?」

「えっ?」

「えっ?」

美希と田中先生は目を合わせながら、お互いポカンとした表情で固まった。


「えっ……これは『クロとシロ』って作家さんが描いた漫画で、黒戸君とは関係ないわよ」

先生はなんとか平静へいせいを保ち、その漫画の事を美希に説明する。


「そ、そうですか……でもその絵を私は子供の頃に見た事ある気がしたので、黒戸君が子供の頃に描いていた絵に、でも……まぁ美術の先生が言うなら違うのかな? 似たり寄ったりな絵って多いですからね」

美希は頭を掻きながら笑った。


「そ、そうよ、きっと似てるだけよ……そう似てるだけ……とにかく白間さん、これが書類だから、お願いね」

田中先生は何か思い当たるふしがあるのか、慌て誤魔化す様に美希に書類を渡した。


美希は書類を受け取ると美術室を後にして、そのまま途中でお見舞いの花を買い、白の入院する病院に急いで向かった。


「たぶん礼子いそうだな……でも、もしかしたら私の思い違いで、礼子の用事ってお見舞いの事じゃないのかも」

美希は白の病室の前に着くと、少し病室のドアを開け、そっと中を覗く、するとその隙間からなんだか見覚えのある後ろ姿が目に飛び込み、美希はその光景に目を疑った。


モデル体型の金髪のショートヘアーの女性、沢村さわむら 礼子れいこが白に抱きつかれていたのだ。


「えっ! 嘘……」

美希は目の前の現実を受け入れられなかった、礼子がいるのはだいたい想定内だが、まさか抱き合う関係にまでなってるとは予想外だ。


美希は一旦ドアから離れると、少し冷静に考えめぐらせ……


「イヤイヤ、まずありえないでしょう礼子はよく白の事『キモい』って言ってたし、それに二人はただのクラスメートでほとんど面識がないはず、今見た光景はきっと見間違い、そう今のは幻よ、たぶんプロレス技『ベアハグ』を教えていただけ、そうに決まっている」

美希は今見た現実がどうしても受け入れられず、しばらく時間を置いてまた隙間から病室を覗き、部屋からかすかに聞こえる話し声に耳を立てた。


『……礼子』

『……白」

『……礼子』

「白……』

白と礼子はお互い見つめ合いながら、お互いの名前を言い合っていた、更に礼子は白が寝てる布団に顔を埋うずめて何か言ってる。


「えっ? 何このバカップル宜しくみたいな地獄絵図は、そもそもあの事件後から今日までに何があったって言うのよ、急接近しすぎでしょ!? それとも二人は実は元々昔から付き合っていたとか?」

美希は考えれば考えるほど、ドロ沼に足を突っ込んでいるような気分に落ちていた。


「いつまで居る気よ礼子のやつ、早く帰りなさいよ、白は怪我で入院中なのよ、迷惑じゃない」

などと廊下の病室のドアの横に座り込みながら、美希は花を持ってブツブツと独り言を言っていた。


通りすがる他の入院患者や、看護師などが通る度にヒソヒソと「どの口が言うのかしら」「迷惑と思うなら早くお見舞いの花を渡して帰ってくれないかしら」「青春じゃの」と美希の噂をするのが聞こえるが、まぁそんな声は無視だ。


しばらくすると病室からパイプイスを片付ける音がしたので、ドアの隙間から覗き見ると、礼子は楽しそうに顔を赤くしいる。


「バイバイ白! 早く学校にれるの待ってるね」

とても嬉しそうに礼子は手を振り、それに対して白も恥ずかしそうに、バイバイと手を振り返した。


美希は慌ててドアから離れ、礼子にバレないように隠れ、礼子が去った後に少し時間を置いて息を整えてから白の病室のドアをノックする。


「はい、どうぞ開いてます」

白の声がした。


美希はその声を聞いた途端に急に緊張が走り、前にも似たような事あったな〜と昔を思い出す。

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