第18話 鳳凰院 茜と暗黒白虎組

桜島市ショッピングモール事件後、警視庁は久須くす 竜也たつやの過去に関わったと思われる事件にも注目し、洗いざらい再調査の手を伸ばし動き出していた。


「まったくよ、まさかショッピングモール事件からパープルデビル結びついてまた奴に会う事になるとは思わなかったぜ……なんだか昔の嫌な事や恐怖が蘇ってきやがった」

山田 太郎はぶつぶつ呟つぶやき、頭をぼりぼり掻きながら桜島商店街を闊歩かっぽしていた。


「まぁ少なくともこの事件には他にも色々な奴らが絡んでくるだろう……すでにパープルデビルが絡んでいたとなればあいつにも事情聴取するのは筋ってもんだしな」

山田はメモ帳を開きながら考察しつつ目的の場所に向かい歩あゆみを進め、ある二階建てのビルの前で足を止めた。


「久々に来るなここへは、プロレスラー時代以来か……今思えばここで奴に……パープルデビルに初めて会った事になるのかもな」

山田はビルの前でぼ〜っと昔の事を思いながらビルを見つめ立っていた。


すると一人のパンチを効かせた頭髪に目つきの悪い一人の若者が山田に詰め寄り睨にらみつける。

「おい、おっさん! 人様の事務所の前でブツブツ言いながら何しとんねん!!」


「お、おっさん!? ま、まぁそれは置いといて……あ〜悪い悪い、ちょっとここに用事あってな……茜はいるか?」

俺は『おっさん』って言葉にちょっと引っかかりながらもそれはさて置き、ここの事務所ビルの関係者らしい若者に尋ねてみた。


「あ,茜〜だぁ!? 我われは舐めとんのか! コラァ!!」

パンチが効いた若者は突然因縁をつけて威勢を張る様に叫ぶと山田のむなぐらを掴んだ。



〜桜島商店街・暗黒白虎組事務所〜


桜島商店街さくらじましょうてんがいの一角にある小さな建物のニ階、ここは桜島商店街西地区を縄張りにしている暗虎組あんこくみけい暗黒白虎組あんこくびゃっこくみの事務所である。


ビルの小さな部屋の机に一人の女性が座っていた、名は鳳凰院ほうおういん あかね、三十一歳の若さで組長を担にない、その姿はとても優雅で貴賓がありながら派手な着物を抜襟ぬきえりで着こなし、真っ赤な唇に鋭い目に赤いアイシャードを施ほどこし妖艶な雰囲気を漂わせながら、新聞に目を通していた。


「ほんま最近はまた物騒になりはりましたどすな半蔵はん、少し前にもショッピングモールで高校生がナイフで滅多刺しになったらしいよて」

茜は新聞に目を通しながら近くに立つ半蔵という名の男性に声をかける。


男はもん 半蔵はんぞうと言い、大きな体にスッキリした短髪、片方の目元から上下に伸びた大きな刀傷が特徴的な暗黒白虎組の若頭を務める。


「そうですね、最近やたらと半グレ連中がこの街で悪さをしてるのをよく耳にしてます、たぶんこの加害者もそんな半グレ連中の一人でしょう」

半蔵は渋い声で茜の言葉に対して自分の意見を述べる。


「半グレ同士が揉めあって殺し合おうがそんな事はどうでもいい事どすが、堅気さんに手を出すのはあきまへん、わてら任侠者は堅気さんからみかじめ料を貰い問題ごとを片付けるのが仕事ゆえ、その辺はこの連中にしっかり教えないあきまへんな」

茜は新聞を読みなが若頭の半蔵に睨みを効かす。


すると事務所一階の方から大きな怒声どせいが響き渡ったってきた。


「なんどすか? 何やら外が騒がしいですな」

茜はゆっくりと席を立ち、出入り口ドアへ向かおうとすると。


「あ、茜組長ちょっと待って下さい、まだ何があったのか分からないのにいきなり組長自ら向かうのはちょっと……自分が少し様子見てきますんで組長は……」

半蔵は慌てて茜を止める。


「あ〜よきよき、わてが直接様子見て来やんすよて、半蔵さんこそ歳なんどすから休んでおきんす」

茜はなんだか楽しげな笑みを浮かべ半蔵の静止を無視して怒声が続く一階へと足を進める。


「で、ですが……まったくこの方は、トラブル好きなのか、自ら率先してすぐ動く……」

半蔵は半ば諦あきらめ状態で、仕方なく茜の後をついて行った。


一階に降りると暗黒白虎組事務所前で何やら頭がボサボサな大柄男と暗黒白虎組のパンチパーマを掛けた安と言う若い衆が揉めていた。


「どないしたんや安? こんな真っ昼間から道端で怒声を挙げよって」

半蔵がパンチパーマの安に話しかけると、揉めていたボサボサ頭の大柄な男がこちらを振り返る。


「ふ〜ん 山田はんやないですか? またまた相も変わらず見窄みすぼらしい格好かっこうで、金でもせびりに来たんどすか? ふっふっふっ」

茜は山田の顔を見るなりあざける言葉を投げかけ薄ら笑いながら冗談を言った。


「ば〜ろ〜、お前に金をせびるほど落ちぶれてねーわ、他の用事で来たんだ、それよかこのお前の所の若い衆どうにかしろや!」

山田は茜の冗談に乗りつつも茜の顔を見るや少し嬉しそうな面持おももちで不貞腐ふてくされた態度をとる。


「半蔵はん、その子にちゃんとしつけしておやりなさいな、今回は山田はんだから不問にしやんすが、もしまた堅気はんに手を出すものなら分かってはりますよな?」

茜は半蔵に一声掛けると、パンチパーマの安を睨み、低い声で無感情ながらに冷徹な声色こわいろで話しかけた。


半蔵も安も一瞬ビクッと冷や汗をかき、安は茜の目を見るやすぐ様、道端で土下座をして謝罪をした。


「でっ、山田はんはわてに用事でしたよか? ならどっかお店でお茶でもしながら話でも聞きまひょか」

茜はそう言うとテクテクと商店街の飲食店が並ぶ方へと足を進める。


「えっ!? あっ、そ、そうだが……時間とか大丈夫なのか? 手短に要件言って帰るつもりだったんだが……」

山田は茜の言葉に一瞬ドキッとしつつ、申し訳なさそうに尋ねた。


「よきよきふっふっふっ、久しぶりに会ったんさかい近況きんきょうなど聞きたいおまんすし、他に用事があってもどうにでもできるさかい気にはなさらんといてや」

茜は山田をチラッと見ると笑みを浮かべ先を歩く。


「えっ、あっ、あぁ!? 茜組長! 一人で外出はちょっと……力及びませんが自分が護衛で……」

パンチパーマの安が一人で歩いて行く茜を見るや、護衛として茜の後をついて行こうとする、しかしすぐさま隣にいた半蔵若頭が安の襟首えりくびを掴み止める。


「馬鹿、そんなの要らんだろ? 組長一人でも充分強いのに、そこに山田さんが横についてるんだからよ」

半蔵は遠くへ二人で歩いて行く茜と山田を優しい眼差しで見つめる。


「半蔵若頭……いいんですか? ただでさえ最近は物騒だと言うのに護衛も付けずに組長を行かせて」

パンチパーマの安は襟首を掴まれながら半蔵に尋ねる。


「お前本気で言ってるのか? 冗談は顔だけにしとけ、お前は確か茜組長と同じ出身中学校だったよな?」

半蔵は呆れた顔で安に尋ねる。


「えっ……? あっ、は、はい、一応茜組長に憧れて桜野中学に行きましたが……」

安は不思議そうな顔をして答える。


「だよな、それって鳳凰院 茜組長があの全国屈指の不良校と言われる中学校を一年から三年間番長張ってた伝説に憧れてだろ? ならよお前は山田 太郎さんって聞いてなんとも思わねーのか?」


「えっ……や、山田、山田、山田 太郎……ん……んっ!? 確か歴代番長の一人で、山田さんって人がいた様な……その後プロレスラー、格闘家として世界に名を残したって」

安は古い記憶を呼び起こしながら、徐々に蘇る記憶に驚きながら半蔵の顔を見直す。


「ようやく思い出したか? そうだよ茜組長が番長やる前の番長があの人……山田さんだよ、世界の五本の指に入る強さを誇るプロレスラーで格闘家だ、まぁ当時の面影は今はない見窄みすぼらしいいでだちしてはいるが、あの人の強さは本物だよ」

半蔵は安の襟首を離すと、一発頭を小突こつき笑う。


「あんな頼もしい最強の護衛はいねーだろ、それに山田さんは茜組長に満更まんざらでもなさそうだしな、二人の仲も上手くいって欲しいじゃねーか……でもまぁ茜組長はそんな気が全くなさそうだがな」

そう呟くと半蔵は、遠くへ歩いて行く鳳凰院 茜と山田 太郎の後ろ姿を温かい眼差しで見送ると事務所へときびすを返し歩き出す。


「や、や、山田 太郎さんが茜組長を狙ってる!? だったら尚更なおさらあの二人を一緒にしちゃいけないじゃないですか若頭! やっぱ俺がついていきます……」

安は半蔵の話を聞くなり二人を追って走り出そうとする、だがすぐさま半蔵の手が安の頭を鷲掴みし。


「お前はアホか? 少しは学習しろ! お前にはこれから事務所での説教タイムがあるんだよ、覚悟しとけ」

半蔵は呆れた顔で安を引きずり連つれ戻す。


「あぁー! 茜組長! 山田さん! 誰か助けて下さいーー!!」

そうしてその日の昼頃、桜島商店街には安の悲痛な叫びがただただ響き渡ったと言う。

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