高嶺の花と紅蓮の子

エレーナ・ヨハネ

「ルペル。どうやって入るんだ。」

　ヨハネ家に着いた二人を、まず出迎えたのは大きな門。門に阻まれているので、正確にはヨハネ家の敷地に着いたのだが。

「門番に言って入れば良いだろう。」

　ルペルは至って慣れた様子で門番に話しかける。

「すみません。ヴァルツ王国騎士団新人隊大隊長、ルペル・グレードと申します。エレーナ・ヨハネ様はご在宅でしょうか？」

「ルペル様でしたか。エレーナ様はご在宅ですよ。失礼ですが、後ろの方は？」

　新人隊の大隊長として宮殿に勤めているだけはある。ルペルとは顔見知りのようだ。

「ああ、これは失礼いたしました。こちらは…。」

　ルペルがリュードに名乗るように促す。

「申し遅れました。私はヴァルツ王国騎士団第一番隊兼第二番隊隊長、リュード・ヴァンホークと申します。」

「リュード様でしたか…！！！。これはとんだ失礼をいたしました。エレーナ様にリュード様がいらしゃったっとお伝えしろ！どうぞ中へ。ただいまお開けいたします。」

　慌ただしく開かれる門。中に招かれるなど夢にも思っていなかったリュードは驚きを隠せない様子だ。

「ルペル様、リュード様。こちらへどうぞ。馬は私共が責任を持ってお預かりいたします。」

「ありがとうございます。ほら、リュード。」

「あ、ありがとうございます。よろしくお願いします。」

　リュードはにこやかな使用人に手綱を渡し、ルペルとともに敷地を歩く。

　屋敷のドアの前までくると中から微かに声が聞こえた。

「お嬢様、エレーナ様！そんなに走っては危ないですよ！」

「分かってる！でも何の準備もしてないの！私はお茶菓子を取ってくるからお茶の用意をお願い！」

「かしこまりました！」

　エレーナ・ヨハネという人物は、ハツラツとした方のようだ。

　先日の件で心を病まれているのではと思っていたリュードは、元気そうな声を聞いて少し安心した。

「エレーナ様！ルペル様とリュード様がいらっしゃいました！」

「今行きます！」

　内側から開かれたドア。

　少し息を切らしたブロンズの髪をした背の高い女性が出てきた。

「お待たせして申し訳ありません。私はエレーナ・ヨハネと申します。」

　丁寧なお辞儀にルペルもリュードも釣られて頭を下げる。

「先日もお目にかかりました。ヴァルツ王国騎士団新人隊大隊長、ルペル・グレードでございます。こちらが…。」

「ヴァルツ王国騎士団第一番隊兼第二番隊隊長、リュード・ヴァンホークです。先日の腕のお怪我はもう大丈夫でしょうか？」

　顔を上げてエレーナを見れば、大きく見開かれた目とリュードの目がばちりと合った。

「その…。お怪我は…？」

　エレーナから震えた声で発せられた質問に、リュードは思い出した。

　今は当て布を何もしてきていないことを。