対策会議

 宮殿に着くと、全体がざわついていた。

 捕まえた後で警備隊に引き渡したが、それが今しがた宮殿に着いたのだろう。

 確かにさっきの奴らは尋常ではなかった。そんな危ない薬が開発され、流通しているかもしれないとなれば、落ち着いていられない。


 厩舎に馬を置いて、まずは現騎士団長、ジェイド・フューランに会いに行く。

 前回は迷ったが、宮殿の騎士団の部屋だけは流石に覚えている。リュードは迷うことなく、一直線に部屋へと向かった。

 急ぎ足で部屋に着くと、騎士団の部屋の前には護衛の騎士が2人。リュードの存在に気付いてヒソヒソ会話をし始めた。

 そういえば、急いで出てきたので当て布をしていない。だが今は噂話などしてる場合ではないだろう。

 リュードが更に歩みを早めると、1人が近づいてきた。



「第一番隊兼第二番隊隊長、リュード・ヴァンホーク隊長ですね?」



 遠慮がちにリュードの顔の火傷痕と制服の階級を確認しながら、身元を問うた。



「ええ。私が第一番隊兼第二番隊隊長、リュード・ヴァンホークです。」



 リュードがすぐさま返答を返すと、騎士たちはアイコンタクトを取って頷き合う。



「お待ちしておりました。お怪我はございませんか、リュード隊長。」


「私は少し斬られただけで、お気遣いいただくような怪我はしておりません。」



 ここまで自力で来ているのに、何故怪我の確認を。リュードは少し不思議に思ったが、その疑問は次の質問で吹き飛んだ。



「良かったです。お疲れのところ申し訳ありません。少々走れますか?」



 そういうことか。



「問題ありません。」



 腐っても、この国の防衛隊隊長である。そんなにやわな体ではない。



「ありがとうございます。今、ジェイド団長は宮殿の会議室にいらっしゃいます。リュード隊長がいらっしゃったら、急いでご案内するように、と仰せつかっております。」


「分かりました、走りましょう。案内をお願いします。」



 1人の騎士に案内されるまま、リュードは走った。執務室とは全くの反対方向にあるようだ。



「着きました。ここです。」



 案内してくれた騎士が部屋のドアを叩く。



「ジェイド団長。リュード隊長をお連れしました。」


「そうか、ありがとう。入ってくれ、リュード。」


「はい。」



 短く答えてドアノブに手を掛ける。



「案内してくださって、ありがとうございました。」


「あ、あ、はい!では私はこれで失礼します!」



 リュードが礼を述べると、案内してくれた騎士は少しびくつきながら元気よく応えて去っていった。

 その背中を少し見送った後、ドアノブを回して部屋に入る。



「失礼します。ヴァルツ王国騎士団第一番隊兼第二番隊隊長、リュード・ヴァンホークです。」



 宮殿の会議室ということは騎士団長以外の方もいるはずだ。長々しいが、リュードはきちんと正式名称を名乗った。



「ありがとう、リュード。負傷した騎士が1人いると聞いているが、大丈夫かい?」



 卓から掛けられた声。

 白髪混じりの長髪を後ろで一つに結んだ男がこちらを見て微笑んでいる。

 この男こそ、ヴァルツ王国騎士団を纏めあげる騎士団の長。ヴァルツ王国騎士団団長、ジェイド・フューランである。



「足を捻挫した者が一人。命に別条はありませんし、何の問題も無く会話できる状態です。」


「そうか。大した損害はないようで良かった。疲れているところ悪いが、こちらに来て報告をしてもらおうか。」


「はい。」



 ジェイドはぽんぽん、と隣の空いている席を叩いた。

 どうやらそこがリュードの席らしい。

 その隣にはアイガス、ルペルと並んでいる。

 リュードは大人しくそこに座った。

 騎士以外の者たちがリュードの顔を見て分かりやすく、ざわざわし始める。

 リュードがハンカチででも隠そうかとポケットに手を伸ばした時、威厳のある声が響いた。



「静粛に。リュード君報告を頼めますか?」



 卓の最も上座に座っている、モノクルを掛けた品の良さそうな紳士。

 数回しか会ったことはないが、この国の現在の宰相、シュベルク・ヨハネその人で間違いない。



「はい。」



 リュードは報告書にまとめてきたことを述べていった。


 廃人のように虚な目で、涎を垂らし続けていたこと。肉体能力が身体能力が強化されていると考えられること。以上のことから何か危険な薬を服用しているのでは無いかということ。



「以上です。また、山賊の所持金がフルーウェ国の金貨数枚だったことを補足しておきます。」



 所持金が隣国の金貨数枚ということに動揺が走る。



「ありがとう、リュード君。」


「さて、対策会議を始めましょう。」



 宰相シュベルク・ヨハネの言葉で対策会議が始まった。

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