第4話 一方その頃
「この時間になっても帰宅していないという事はつまり、
「な、なんだってーーーー!?」
笹山と、ポイラッテと、ハニーの三人がハモった。復帰を終えていたセルジオは、この声にびっくりして飛び起きた。
夕方、なんとか鳥目でも帰宅できる明るさのうちに、アルフォンスはマンションに戻る事が出来ていた。しかしユウを見送ってからは随分と時間は経過しており、未だ二人は帰宅していない。
赤い小鳥はなぜ烈人が結社に攫われたのか、その詳細については説明を省いた。そして何故こんなにも帰宅が遅れたのかその理由も。評議会メンバーのリーダーとして、食べ物につられた結果というのは流石に外聞が悪いというかなんというか。ハニーあたりは気づいて、じっとりした目線で赤い小鳥を見つめているが、今はもっと重要な問題がある。
「奴らの目的は何だろう」
「マジカルヒーローの矛たる二人を捕らえる事で、こちらを無力化しようとしているのではないか」
「向こうにも頭が切れる奴がいるな……」
まさか敵幹部がブラックアイパッチに懸想をして、結婚云々のために攫ったとは全員が思わなかった。そのようなこと、想像できる範疇を越えている。
想像力の欠如という点で結社側に至っては、評議会とヒーローズの弱体について一石二鳥になる事を完全に失念している有様。ヒョーガとゴーマはボーナス査定で頭がいっぱいだし、メロリーナは恋に盲目中。とんでもない思考へのデバフがかかっているのである。
「助けに行こう!」
天井に向かって拳をつきあげ、ポイラッテがクルクルまわる。
「助けに行くってどうやって? どこにいるのかすらわからないのではないか。
「ボクにはユウとの特別な絆がある!」
ハニーがハッとする。
「赤い糸システムか!」
「その通り。婚約した時にどさくさに紛れてこっそり結んでおいたんだ、赤い糸を!」
赤い糸システム。宇宙法において、婚約をした場合のみに許される伴侶追尾システムの愛称だ。赤外線を活用しており、赤いラインが見える事からその名前が付けられた。主に不貞を防止するためのもので、簡単にいえばGPSのようなものである。通常は相手の同意が必要なのだが、ポイラッテは勝手にやった。だって
そんな風にしれっと違法行為をこなす正義の味方(?)が胸元の宝玉に触れると、赤い石の上に方眼のラインが表示され、光の点が現れた。これがユウの位置だ。七つ集めたら願いが叶うという珠を探すレーダーにちょっと似ている。
「面白半分に婚約したのかと思ったら、こういう事態に備えてか。やるなポイラッテ」
アルフォンスは感心したようにそう言うが、嫉妬の要素の強いハニーにはわかる。ポイラッテの婚約は本気中の本気で、ユウが別の伴侶を見つけたりすることを絶対に防ごうという気概があるという事を。
校内では目立たないユウだが、それでも密かに憧れる女子はいて、ポイラッテはすでに裏から手をまわして彼女らを排除している。
ユウは自分がモテているという自覚がゼロなので、見た目だけはメルヘンなハムスターの邪悪な行動には一切気付いていない。
「ユウの貞操が危ない予感もする」
そしてやたらと勘も良かった。
* * *
「出口は何処だろう」
たまたま入った部屋が衣装部屋だったユウは、そこで目出し帽を発見し、いったんそれを被ってから眼帯を装着しなおした。これでより一層、紛れやすくなる。
効果は覿面で、特にこそこそ隠れなくても、すれ違う結社のメンバーたちはユウに気付かなくなった。
一応合言葉的なもので相手を確認しあっているようだが、惰性になっているのか相手の言葉をオウム返しにしていればそれでよかった。
「ピキュー」
「ピキュー」
万事こんな感じである。
眼帯を装着する事で気が大きくなっているユウは堂々としていて、一切の緊張感もないからか、自信満々な態度は敵に気付かせる要素が全くないのである。
だがそれでも「ここは何処ですか?」とか「出口はどっち?」等と聞くわけにもいかず、あてもなく彷徨う羽目になっているのだ。
「非常口の表示がないのは、消防法に引っかかるのでは?」
白地に緑でマークが書かれているのは通路誘導灯といって、それが示す矢印に従っていけば非常口にたどり着く。緑地に白でマークが書かれているのは、非常口そのものである。覚えておくとビルの中で火災に巻き込まれた時に助かる可能性がUPするので、記憶しておくといいだろう。
何故緑が使われているかというと、火災の赤い光の中でも視認性が確保できるからだ。よく考えられている。
そんなわけで、消防法では設置義務もあるし、照明の明るさが何ルクスかもさだめられている大事なものだ。
この建物にはそれがなく、そのせいでユウはいつまでも外に出られずにいる。案内板もなければ地図もない不親切な建物。
これはもしかして、流行りの現代ファンタジーのダンジョンを名乗る事が出来るのでは? と作者は思った。”攫われて迷い込んだ敵のアジトがダンジョンでした” というタイトルはどうだろう。
ユウもなんだかそんなノリになって来ていて、ちょっとした探索を楽しむ気分になっている。
そして、不自然に廊下に置かれた段ボールに気付いた。
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