第3話 禁断の


 ようバグがこのタイミングで出て来てくれた事に、ユウは不謹慎ながらも感謝してしまった、という感じで前回は〆られていたが、彼は心の中でそれを撤回した。


 を見た笹山ささやまが昏倒し、セルジオをプチっと背中でつぶした。

 ジョンはパニックになり、映画の中でヒステリックにキャーキャーわめく役と化し、「こんな所にいられないデス! ワタシは先に帰りマス!」と、サスペンスやホラー映画で最初に犠牲になるフラグ台詞をわめいている。


「ユウ、ここはお前に任せた」

「えっ、何でだよ!」


 彼の背中をぐいぐいと押して、烈人れつとは後ろに隠れ続ける。

 ユウだって逃げ出したい。目線の先にはようバグが縦横無尽に走り回っている。今回の避難はおそらくギネスに載るレベルで早かったはず。全ての人々がこのエリアから逃げ去った。対象が対象のせいか、普段はうろうろするマスコミのヘリの音もない。自衛隊機が遠巻きにしている気配はあるが……。


烈人れつと! おまえはマジカルヒーローレッドとしての自覚はないのか」


 赤いシマエナガがハートが連なったようなフェニックスの尾をふりまわして叱咤いるが、変身すらしていない烈人れつとはヤダヤダと首を振る。


「ユウならやれる、色が一緒だし!」

「あれと一緒にするな!」

「仲間割れをしている場合じゃないよ」


 ポイラッテがふよふよと二人の仲裁に入る。

 今までは超巨大なムカデだった。今回の敵は新たな生物で、乗用車程度のサイズしかない。しかしそのサイズの効果か素早く、薄い体を駆使してあらゆる隙間を走り回る。そして貪欲にコンクリートをがりがりと噛み砕く。

 走る時にカサカサという音がし、てりてりと油を塗ったかのような黒光りするボディ。禁断の虫が妖バグ化されていたのだ。

 烈人れつとは頬を伝う汗をぬぐいながら言う。


「これは最終ボスじゃないのか。なんて恐ろしいモンスターを作り出したんだ結社のやつらは」

「この生物は宇宙全体に広く分布していて、実際このサイズのやつも存在しているから作るのは容易だったはずだ。むしろ今までこれを巨大化させていなかったのは結社の良心だったのかもしれない。我々も……これを見るとゾクゾクする」

 

 アルフォンスが訳知り顔で解説する後ろで、ウサギのようなビジュアルを持つハニーがガクガクと頷く。

 評議会メンバーまで青くなる中で、何故かポイラッテだけが全く平気そうだ。

 「あれを見て、何でポイラッテだけは平気なんだよ!」とユウが叫べば、赤い小鳥が野太い声を潜める。


「あいつの部屋にはよく出てたから、おそらく空気レベルの存在感になるほどに慣れてるのだ……恐ろしい。あいつには苦手な物がないのかもしれない」


 名前が一切描写されていないが、何の虫なのか皆さんも十分イメージ出来たのではないかと思う。

 誰が戦うかを押し付けあっていたが埒が明かないので、仕方なくユウが前に出る。目を閉じて、妄想力と想像力を限界まで高める。


「あれはコオロギ、あれはコオロギ……よし! 見え……! ない!」


 カサカサと走り回る虫の動きは、どう見てもコオロギではない。ユウの能力をもってしても、あれはアレである。巨大ムカデの方が扱いやすかった。

 だがこれを放置してはいけない気がした。数が増えたりしたら阿鼻叫喚待ったなしである。一匹であるうちに仕留めるしかない。一と三十なら一の方が遥かにマシだ。


変身トランスフォーム! マジカルヒーロー」


 少年の制服が光の粒子に分解されると、身体がすべて輝く白いシルエットになり、黒いリボンが巻き付く形で黒装束をまとう魔法少女さながらのビジュアルの変身を終える。

 勇気を振り絞ったユウの片方の瞳は金色に輝き、それに被せるように一度Vサインを作り、バッバッバッとするどい風を切る音をさせながら五芒星の印を切る。


魔法の勇士マジカルヒーロー漆黒の常闇ブラック・エヴラースティングダークネス、参上! これ以上は秘密結社”屍の惑星”の好きにはさせない!」


 叫び終えた瞬間、両手甲のドラゴンをモチーフとした紋章が光り輝き、光を放ち終えた彼の手には青い刃の日本刀。

 変身から武器の登場までの儀式を、一気にやり終えたユウ。これを中途半端に区切る方が恥ずかしいのだ。やるなら一息に。これが何度も繰り返した出動で学んだ事である。


「ユウ、かっこいいデス」


 ジョンは目を♡にして、両手を組み合わせてポヤポヤする。見た目だけなら十分美少女なので、ユウのテンションが上がって、青い刀の輝きが増す。

 しかしほんの数メートル先を走られて、全員が「ギャーーー」と悲鳴を上げてのけぞった。絞り出した勇気が一気にしぼむ。


「ポイラッテ、何か方法はないか。あの見た目さえどうにかできれば戦える気がするんだけど、今のままでは無理だ。まじで無理」

「姿をどうにかできればいい? 僕の必殺技を出してもいいけど……」

「何でもいい、早くやってくれ!」


 太ったハムスターはふよふよと高く浮かぶと、クルクルと回転しはじめた。


「ピポポポポラッテ、ポヨプニプルーン!」


 魔法少女の変身呪文のような意味不明の言葉を叫んだ瞬間、金色の粉が振り撒かれ神々しく輝く。全員が思わず目を閉じた。


「こ、これは……!?」

「目元が熱い」

「これで、見え方が変わるはず!」


 恐る恐る目を開けて周囲を見渡すと、全員の顔の目の部分に黒い帯が表示されていた。少年A少女Bのアレだ。妖バグの目元にも黒い帯が……。


「意味がないーーーーー!!!」


 少年の悲鳴が木霊する。

 新生妖バグとの戦いは、長引きそうな気配を漂わせていた。


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