第四章 ラブコメディは突然に
第1話 大罪
公園で三人でたむろっていたら、「日が暮れたのに子供がこんなところで何をしている!」と、巡回中の警察官に注意されてしまった。イエローが「大人が一緒にいるのデス」と言っても信じてもらえなかった上に、男二人で女の子一人をナンパしていると思われて踏んだり蹴ったりだ。
だが第三者視点では確かに、チャラそうな赤髪ピアスの男、ネクタイを外して制服を着崩した前髪の長い少年、中学生テイストの金髪美少女風の見た目の二十四歳男性が公園にいたわけだから、おまわりさんご苦労様です! と言うべき案件に見えても致し方ないのであった。
こってり絞られぐったりとしたユウが帰宅すると、揉まれて
「ユウ遅かったね~。揉まれ時間延長の残業代が欲しい(訳:ユウのパンツください)」
心の声がこんな時に限って以心伝心してしまい、ユウから加減のない手刀を叩きこまれる。
うるうるした黒目で「ぴえん」と可愛く言ってみたものの、手刀を叩きこんで来た相手は全く意に介さず、今日の出来事を報告する。
頭頂部にマンガのようなぷっくりとしたコブを盛り上げて、ポイラッテは短い腕を組んで考える。
「ふぅむ……」
「いくらなんでも食い意地がひどい! メロンとか……生ハムメロンとか……ちょっと俺も食べたかったけど……! 俺が来るのわかっているんだから残しておいてくれてもいいのではないか」
「それは、我々の特性上仕方のない事だ」
「はぁ?」
ポイラッテの当然という余裕の表情に、ユウは呆気にとられる。
メルヘンハムスターもどきはベッドの上にポスンとダイブすると、数回ごろごろと転がって匂いを堪能してから座り直す。
「宇宙に住まう全ての生物は、多かれ少なかれ本能が囁きかける抗えない感情や欲求を持っている。生物の繁殖繁栄には必要不可欠な感情だからね」
「感情や欲求?」
「地球人にもその概念があるはずだよ。地球だと、ええと”七つの大罪”って呼ばれてるのかな?」
ポイラッテが記憶をたぐって発した言葉にユウの中二心がドクンと疼き、思わず胸に手を当ててしまう。
――傲慢・強欲・嫉妬・憤怒・色欲・暴食・怠惰。
すらすらと出て来るユウ。人生で誰しもが一度は耳にした事があるそれを、彼はきっちり暗記していた。覚えているとなんとなくカッコイイ。
「僕らは精神体という曖昧さからどうしても、それらのうち一つが色濃く出てしまう。本来は合成された肉体に沿って付加されるはずだったんだけど、準備中に結社の妨害が入った結果、体と精神に齟齬が生じたようだ」
「齟齬? 本来はどうなる予定なの」
「アルフォンスは傲慢の予定だったのが、話を聞いた感じだと暴食だね」
まさに暴食していた。
「結果的に、選ばれる地球人も暴食の因子が強い者が選ばれる。
なんとなく納得したが、同時に嫌な事に気付いてテンションが下がり始めるユウ。ポイラッテはそれを肯定するように元気に拳を突き上げる。
「そして僕は色よ……ぶへっ」
最後まで言わせまいと、思いっきり力を込めて枕を叩きつけた。
ちょっと自分はえっちな妄想が過ぎるタイプかも? と、薄々は感じていた。例の黒歴史ノートにも、半裸で鎖に縛られたヒロインのイラストを描いちゃってる。
だって年頃のおとこのこだもん♡
ユウは壁に何度も頭を打ち付けた。
* * *
「ただいま、遅くなっちゃったヨ」
金髪美少女風の青年男性は玄関で靴とキャスケットを脱ぎ去ると、暗いリビングに足を踏み入れる。
リビングの端には小さな檻があって、その中で卵色にカラメルシロップをかけたようなロップイヤーのウサギがうずくまっていた。
「あれ? 元気がないかナ?」
ジョンは檻を開けるとウサギを抱きかかえてソファーに座り、頭を何度も撫でてみる。
「寂しかった? ウサギって寂しいと死んじゃうって言うもんね」
イエローのバディマスコットのはずのウサギは、虚空を見つめるだけでされるがまま無言を貫く。
「もうお喋りしてくれないノ? イエローの回復の力ってバディマスコットには効かないんだネ……」
暗がりの静けさの中、ピピピと小鳥の
ジョンはウサギを膝上に置いたまま、音を鳴らす携帯電話に手を伸ばすと、誰からかかってきたのかを確認して通話ボタンを押す。
「なんだい、姉さん。……ああ、うんわかっタ。あ、そうだ母さんからも連絡があって、姉さんと連絡を取りたいって。はは、いつものあれだよ、せっかくこっちに出て来たんだから、そろそろ彼氏の一人でもっていうヤツ。エ? 彼氏できたの!? 本当に? ……プロポーズされたんだ……そっかあ。うんわかった、母さんに伝えておくよ、とりあえずおめでとう。じゃあまたネ」
電話を切ると大きく溜息をつき、そして静かに膝上のウサギに話しかける。
「姉さんがお嫁に行っちゃいそう。寂しいな。ワタシも寂しいと死んじゃうのかなあ……? 姉さんの相手ってどんな奴なんだろ、ワタシから姉さんを奪おうなんてイラつくかも。これが嫉妬ってやつなのカナ」
語気の粗さに、ピクリとウサギの耳が跳ねる。
「ああ、ごめん驚かせちゃっタ? ごめんねごめんね」
ユウたちに見せた天使のような微笑みはなく、今は暗闇で冷たい表情を貼りつかせたまま彼はウサギを撫で続けた。
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次回予告
https://kakuyomu.jp/users/cyocorune/news/16816927863188670220
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