ストーカーの戯れ
藤倉秀太は貴子と女性メンバーが大通りを急ぐ姿を振り返り、『騒がしい女たちだな』と目深に被ったヤンキースのキャップを少し上げて顔を顰め、横断歩道を歩き出してカフェ「Maybe」に近付き、ウインドーから店内を覗いてマスターしかいない事を確認した。
『マリアは休みか?』
マンションの部屋を出るのが少し遅れ、マリアが怜奈と一緒にカフェを出る姿は見てないが、ドアにクローズの札が掛かり、数人の女性がテーブル席で話しているのを外から見て、街をぶらぶらして戻って来た。
ドアを少し開けて「すいません。いいですか?」と声をかけると、「どうぞ」とマスターの声がしたので、中に入ってテーブル席を整えていたマスターと対面する。
「さっき、クローズだったけど?」
「あっ、すいません。急な団体客があり、オープンが遅れました。お好きな席に座ってください」
藤倉はマスターをまじまじと見てから頷き、数十分前に天使が座っていたカウンター端の席に腰掛け、隣の席にリュックを置いて店内を眺め、マリアが働く姿を想像した。
「初めてですよね?」
「ええ、最近こっちへ引っ越して街を探索中です。素敵なカフェだけど、マスターひとりでやってんの?」
「いえ、パートの女性がいるけど、今日は休暇を与えたんです」
悠太はグレーのパーカーにヤンキースのキャップを被った若者に不信感を抱いたが、マリアの話題になり穏やかに応対する。
「とてもいい子で、助かっています。モーニングセット、いかがですか?」
「じゃ、それお願いします」
マリアと賢士がカフェに戻る事を想定してモーニングセットを多めに用意したが、今は女性メンバーに捕まらず、二人の時間を過ごして欲しいと願った。
「写真、撮っていいすか?」
「ええ、別に構いませんが」
悠太がカウンター内でサイフォン式のコーヒーを淹れ、藤倉はリュックから一眼レフカメラを出した構えた。その際、リュックにナイフとキッチンタイマーが入っているのが見えたが、悠太はカメラを意識して気付いてない。
『こんなダサい奴、マリアが好きになるか?』
藤倉はマリアが自分を拒否した報復として、『自分こそが愛すべき存在であり、間違いを犯した』という事を身を持って教え、自分に許しを請う姿を夢想した。
『これはプロローグに過ぎない』
「いいすね」とシャッターを切り、撮影した写真を画像モニターで見返して笑みを浮かべ、悠太が厨房に入った隙にカウンター内の棚にキッチンタイマーの破裂弾を仕掛けた。
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