マリアの提案
カフェ「Maybe」では十分程の採点タイムが設けられ、暫し重苦しい雰囲気が流れて意見交換の囁き声がマリアを不安にさせ、貴子がカルティエの腕時計を見て審査員に判定を問う。
「マスターを含めて、ここにいる全員が賛成しなければマリアがケンジの恋人候補とは認められません。恋の推定審査となりますが、皆様は賛成か却下か?明確な答えを提示してください」
「もちろん僕は最初から賛成です」
「私も賛成。予感は正しかった」
マスターと怜奈が真っ先に手を挙げて賛成すると、他の女性メンバーもメモした採点表を見ながら「却下したいけど、点数は合格」「清楚で未知の魅力を感じる」「理想の女性に近い」という意見が大半を占め、最後に貴子が「マリアをケンジの恋人として推薦します」と判決を下した。
しかしマリアは全員の意見を聴きながら、過去から未来、現在へと全てが繋がっていると感慨に耽り、意見が一致して喜ぶ審査員たちとは対比をなす。
『祖母がマスターのコーヒーを気に入り、マスターはケンジと高校の同級生だった。そして私は怜奈に替わってカフェで働き始め、事故に遭って幽霊になりケンジとめぐり逢う……』
貴子がマリアに手を差し出して握手を求め、マスターと女性メンバーも笑顔でカウンター席に座るマリアを囲むが、マリアは真剣な表情で意外な提案をした。
「ありがとう。でも最終審査はこれからだと思いませんか?恋は始まってはいないのです」
「成る程。書類審査、一次面接をクリアしたに過ぎず、恋が芽生えるかが問題?」
「はい。怜奈さんはケンジをカフェに呼び出し、貴子さんたちはここでお待ちください。私は一人で駅のホームに立ち、偶然ケンジとすれ違う。その時、恋が生まれるか試すのです」
「初対面だよね?奇跡っぽいけど、大丈夫かしら?ケンジは勘が鋭く、予感めいた能力があるけど、かなりの賭けだと思うよ」
貴子は怜奈から賢士が恋の予感がしていると聞き、女性メンバーは恋のリベンジだと異常に盛り上がって、賢士はマリアを知っていると思い込んだ。
怜奈と他のメンバーも顔を見合わせて、二人の恋はスタート地点にも立っていないと苦笑する。
「とにかく、私の条件は偶然にめぐり逢い、お互い恋を感じるかです。だって、それくらいの奇跡を起こせないなら、ケンジを冬の哀しみから救えないと思いませんか?」
マリアは自信のこもった微笑みを浮かべ、『私たちは既に奇跡を起こし、約束の地へ導かれている。ケンジは天使に記憶を消されているけど、きっと私を見たら想い出すわ……』と心の中で呟く。
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