25-2 魔神の影

 さっきまで幻みたいだった魔神の姿がはっきりしてやがる。

 魔神は目を開くと、まっすぐ俺に向かってきた。かなり多めに魔力を籠めた炎の槍を放つと、右の前足で叩き落とされた。

 よし、いける。この槍は2本立てだ。同じ威力の2本を前後に繋がったようにして飛ばしてある。前の1本が落とされた後、後ろのが右の肩口辺りに刺さった。

 俺の攻撃程度じゃ大した威力はないが、それでも俺への突進を止めるくらいの役には立ったようだ。

 向こうでは、レイルがフリードの右腕を斬り飛ばした。

 レイルがフリードの剣を拾って、こっちに駆け付ける。

 剣を失えば、フリードはもう魔法を使えないはずだ。そして、レイルはその剣で魔力を得られる。これで、なんとか魔神に対抗できるかもしれない。

 復活したばかりのせいか、突進を止めた後はちっとも動かない。今ならまだ勝ち目がある。ジークの紋章のお陰で、俺が息切れすることもないしな。

 フリード相手とは違って、目くらまし程度の攻撃でも、かなり魔力を籠める必要があるから、本数は出せないが、その分、狙って撃てる。

 魔神は、目の前をウロチョロしてるレイルが邪魔になって、俺のところには来れない。その場からほとんど動かず、右の前足でレイルを襲う程度だ。

 なんで魔法を使わない? この結界の中だからか!

 よし、それなら勝ち目は十分ある!




 レイルと2人でちまちま攻撃して、魔神にもそこそこの傷が付いてきた。

 切断力が強化されてるレイルの剣でも斬り落とせないが、それでも傷くらいはつく。岩巨人ほど硬くはない。

 封印された時、魔神は魔力を使い果たしてたって言ってたよな。身体能力だけでジークと拮抗してたって。なら、レイルの身体強化はジーク以上だろうからこんなもんなのかもな。結界術様々だ。




 炎の槍や爆裂の魔法で牽制しつつ、フリードにトドメを刺そうと思ったんだが。フリードは倒れたまま、顔だけ起こして笑ってやがった。

 ったく、死に損ないのくせしやがって。


 「まさか、影とはいえ魔神と戦えるとはな」


 ん? 影?


 「狭間に囚われた魔獣は、魔法陣によってその力の一部をこちらに連れてくることができる。

  そこにいるのは、魔神の力の半分ほどの影に過ぎない。貴様らが対抗できているのはそのためだ。

  だが、影を構築する際、少々仕掛けを施してある。

  こんな風にな!」


 フリードが言った途端、魔神の周りに6本の氷の槍が浮かび上がった。


 「魔法だと!?」


 魔法が使えるのか、この結界の中で!?

 最速で、最低限の威力の火の矢を撃ち出す。魔狼と同じなら、衝撃を与えれば魔法は止まるはずだ。

 だが、火の矢が当たっても、氷の槍は消えない。

 3本が俺に、3本がレイルに向かって放たれた。

 身体強化で前に飛び出しながら伏せて、なんとか避ける。ちらっと見ると、レイルは3本とも斬り落としてた。

 おいおい、そんなマネまでできんのかよ。

 さすがに氷の槍を作ってる最中は無防備みたいだし、そこに炎の槍叩き込んで、後は頑張って避けるしかねぇか。

 自分で魔力練らなくてすむからできる芸当だよな、これ。

 ジークが無敵だったってのも納得だ。

 つうか、ジークって、実はそれほど大した強さじゃなかったのかもな。

 影ってのは、要するに魔神の複製ってこったろ。力が本物の半分ってことは、出来の悪い複製だ。なら、なおのこと、俺とレイルが無尽蔵の魔力を使えるこの状況なら、なんとかなる。




 予想どおり、少しずつだが攻撃が効いてる。相変わらず魔神はロクに動かないで前足だけでレイルを追ってるしな。

 そうやって、ちまちまと傷を増やしてたんだが。


 「ようやくわかってきたぞ」


魔神から、そんな声が響いた。

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