19-R 狙われる理由

 フォルス達がリアンでの監査と洞窟の確認を終えて帰路に就いている頃、ジールダの支部長室では、オーリンが先日の使者の来訪を受けていた。


 「リアンに送った護衛の剣士というのは、どんな人物ですか?」


 「どんな、とは、どういう意味かな」


 「本部の方で、リアンに監視を送り込んでいます。

  ここに来る前にリアンに立ち寄って状況を聞いてきましたが、護衛2人のうち魔法士の方は1日中街をうろついているし、剣士の方は監査官の傍で、さっさと終わらせて帰ろうしか言わないそうです。

  あれが何かの策なのか、単なる怠け者なのか、判断に困ると言っていました」


 「判断に困る?」


 オーリンは、薄笑いを浮かべて聞き返した。


 「いくら夫婦とはいえ、片時も離れないことから、護衛としての任務は理解しているようなのに、口を開けば早く帰ろうですからね。

  冒険者にはよくあるタイプですし、片時も離れないのも、ベタ惚れなら、そうおかしくもない。

  とはいえ、あなたの人選だ。そう妙な輩は選ばないでしょう。

  だから、判断に困るんです」


 使者の言葉に、オーリンは笑みを深めた。


 「つまり、それが答えだろう。

  フォルスは、8級の剣士として送ったが、本当は6級でな。

  監査官のセシリアとは、結婚はまだ・・していないという間柄だ。

  リアン側から監視を付けられているだろうことを想定して、監査官の身を守るために、監査なんか適当にやれという態度を見せているんだろう」


 「なるほど、妙にチグハグな印象だった理由がわかりました。

  さすがに6級ともなると、使えますね」


 使者は感心したように頷いた。


 「それで? 今日の用事はどっちだ?」


 オーリンに促されて、使者は居住まいを正した。


 「この街が狙われているかどうかは置いておいて、狙われる理由となり得る話が出てきました」


 「ほう。聞こうか」


 オーリンも、知らず身を乗り出す。


 「先日の結界術が関連する話です。

  結界術を得意としていた魔法士の名は、ルード。あのジークのパートナーだった女です」


 「ジークとは、あのジークか? 彼はソロだったのではなかったか?」


 「ええ、一般にはそう思われています。

  この街は、110年ほど昔、ジークとルードが切り取った領域に作られたものです。それで、2人の名を繋げて、街の名が“ジールダ”になったとか」


 「ほう? しかし、いずれにせよルードなどという名には聞き覚えがないな。ジークのパートナー? そんな大物なら、なぜ名を残していない? 結界術が使えるというなら、単なる情婦というわけでもあるまい。仲違いでもして追放されたか?」


 「さすがは千里眼のオーリンですね。

  そのとおりです。

  彼らの戦い方は、ルードが結界術で魔獣の周りの魔素を吸収し、それを魔力に転化してジークの武器防具に集めることで、剣士であるジークが魔法の付与を得られる仕組みだったようですね。

  有名なジークの剣にある謎の紋章は、おそらく魔力を受け取るための魔法陣なのでしょう。

  ジークの戦いに、ルードの結界術は大いに役立っていたわけですが、それが徒になりました。

  先日も言ったとおり、結界術は、魔法陣さえ用意できれば、誰にでも使えます。

  つまり、魔法陣の紋様を書き写してしまえば、ルードがいなくても結界術が使えるわけでして」


 「魔法陣を奪って追い出したか」


 「そのようです。

  元々ルードは、後衛というより支援担当というべき存在で、戦闘能力自体は大したものではなかったようです。

  この街ができる前には、既にジークの名は知れ渡っていましたが、ルードの名はほとんど知られていません。

  だから、ルードを追い出してジークがソロになったこともあって、ジークが最初からソロだったかのような印象になっているのでしょう。

  もっとも、ルードの名は、意図的に消されたわけではなく、表舞台に現れなくなったことで自然と忘れられただけのようで、調べればすぐ出てきます。

  ルードの存在は、ジークの初期の活躍を記した資料には、ちゃんと載っていますからね。ただ、ジークのパーティーで結界術による援護をしている、という程度です」


 「つまり、ある時を境に、ジークは1人で動くようになった、というわけか」


 「はい。

  この街ができた頃は、まだジークとルードは一緒に動いていたわけです」


 「ジークとルードは、男女の関係だったのか?」


 オーリンは、気になったことを聞いてみた。どちらかが浮気したとかでパーティー解消というのは、男女ペアの場合にはよくあることだ。


 「そこはわかりません。

  基本、正式な文書を調べていますから、戦闘時に妊娠中だったとかの特殊事情でなければ、そういった情報は書かれませんので」


 「そうか。

  では、この街には魔法陣の資料が残されている可能性があるということか?」


 「いえ、それはおそらくないでしょう。

  この街に眠っているのは、もっと危険なものです」





次回予告

 リアンに行ったことで深まったフォルスとセシリアの絆。

 そして、ギルドに呼び出されたフォルス達に告げられたのは、リアンの支部長の失踪だった。

 ジールダの街に眠るものとは?

 次回「ごつひょろ」20話「勇者の伝説」

 事件の幕は、もう上がっている。

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