14-4 魔素溜まり

 岩山の中に魔素溜まりを見付けた俺達は、一旦セシリア達回収組と合流することにした。

 レイルの奴がニヤニヤしてやがるが、そんなのは無視しとくに限る。そんなに俺をからかうのが楽しいかね。俺はあいつの夜遊びをからかったことなんて一度もないってのに。

 …まさか、自分も何か言ってほしいとかってことはないよな?

 そういうのは趣味じゃない。


 それにしても、だ。

 こんな何もない岩山ん中に、魔素溜まりができるってのがなぁ。

 そりゃ、魔素溜まりがどうやってできるのかなんてわかんねぇし、確かに洞窟ん中にできること自体は珍しくもないんだろうけどなぁ。普通は、なんか棲んでるとこだろ。

 洞窟ったって、普通は森ん中の洞窟なんじゃねえのか。

 山の中の洞窟だって、周りにゃ木もあるし動物だっている。洞窟の中にだってネズミやコウモリくらいは棲んでるもんだ。

 そこいくと、この岩山は、ロクに生き物がいないんだよな。

 だから、あの巨人が何してたのか想像つかないとこもあんだけどよ。


 「わかんねぇよな」


 ポツリと口から出た言葉に、レイルが反応した。


 「なに? デカブツのこと? それとも魔素溜まりの方?」


 まぁ、目下俺達が抱えてる謎なんて、それくらいだからな。わかりもするか。


 「両方…つうより、巨人と魔素溜まりの関係だな。

  こんな、生き物もロクにいやしないところに魔素溜まりがあって、しかもその近くにゃ見たこともない岩の巨人がいる。

  関係があるとしか思えないよなぁ」


 「まだそんなこと気にしてたんだ」


 レイルの声が呆れを帯びてる。いや、わかってるって。そんなん、俺達が考えるようなこっちゃないってのは。


 「わかっちゃいるが、気になるもんは気になるんだよ」


 「な~んでそんなに気にするかなあ。

  僕らが気にすることは、これでまた面倒を押しつけられそうでだなあってことじゃないの? 君の愛しのセシリアからさ」


 だから、“愛しの”はやめろ。


 「どっちにしろ押しつけられるんなら、今から考えてもいいだろが」


 「ああ、なるほど! フォルスとしては、頼まれてすぐ解決していいとこ見せたいんだ! なるほどねえ、それならわかる。

  うん、じゃあ、君が愛しのセシリアにいいとこ見せられるように、考えてみようか。

  どうせ道中、やることないしね」


 何か言うたびにからかいのネタにされてる気がする。

 まぁいいか。レイルが知恵出してくれるんなら、大助かりだ。


 「魔素溜まりと巨人に関係があるとすると、なんだと思う?」


 「いきなりだね。なんで魔素溜まりができたかじゃないんだ」


 「なんでできたかっつったら、自然にできたか誰かが造ったかしかないからな。

  人があんなもん造れるかってのはあるが、じゃあ、こんな岩山に魔素溜まりができんのかって話になる。結局そこはわからないわけだろ。

  だったら、魔素溜まりがどうしてできたかはおいといて、あの巨人と関わりあるのかって話をした方がいいんじゃないかと思ってな」


 「ふうん。一応考えてるんだね」


 “一応”は余計だ。まぁ、話の腰を折るのもなんだから、黙っとこう。


 「パッと思いつくところだと、デカブツが魔素溜まりを守ってるんじゃないかってとこだよね。

  元々、そう考えて、この山探ってるんだし」


 そう言ってしまうと身も蓋もないが、まぁそういうことだな。


 「巨人がここにいる理由になるのは、そんなとこだろうな。

  魔素溜まりを守ってるとしたら、巨人を造った奴が魔素溜まりも造ったか、たまたま魔素溜まりを見付けた奴が、わざわざそれを守るために巨人を造ったかってとこか」


 「まんまだね」


 そんなこと言われても、それ以上思いつけねぇんだよ。


 「レイルはなんか思いつくか?」


 思いつけるもんなら言ってみろ!とは思ったが、レイルの場合、本当に俺じゃ思いつかないことに気が付くからな。


 「ん~…デカブツが魔素溜まりから出てきた、とか?」


 「なんだそりゃ」


 どう見たって自然にできるようなもんじゃねぇのに、魔素溜まりから生まれるってのか?

 「そんな馬鹿な…いや、待てよ」


 魔素溜まりとはちょっと違うが、魔法陣からバケモノが出てきたことがあったじゃないか!


 「魔法士のなれの果てみたいに、か」


 「ああ、そんなのもいたね」


 おいおい、そこに気が付いたから言ったんじゃないのかよ。


 「あれ? じゃあ、なんでそんなこと思いついたんだ?」


 「どっかから来たか、ここで造られたか、ここで生まれたかのどれかでしょ? ここで生まれたとしたら、魔素溜まりしかないのかなって」


 「考えてないわけじゃないんだな」


 「当たり前じゃないか!  君は僕をなんだと思ってるのさ。

  君よかよっぽど頭使ってるよ」


 まぁ、レイルが俺にゃ思いつかないようなことを言い出すのもしょっちゅうだからな。そのたびにこの手の嫌味を言ってくるから、いちいち腹も立たない。

 それにしても、そうか、例の魔法陣は魔法士の死体を吸い込んで魔物に変えたんだ。


 「なぁレイル、あの魔素溜まり、魔素を吸ってたよな。普通と違って。

  例の魔法陣も、魔素を吸ってた」


 「案外、魔法陣が魔素溜まりになったんだったりしてね」


 軽い調子でレイルが笑った。


 「冗談じゃすまないかもな。

  こりゃあ、本気で支部長に報告しなきゃならねぇな」


 「石ころと一緒に、一旦帰る?」


 「もし、魔素溜まりから巨人が出てくるんだとしたら、2体目が出てくる──或いは出てきてるかもしれないってことだよな。

  魔素溜まりを見張る必要があるんじゃないか?」


 「それって、僕達に廻ってきそうな仕事だよね」


 いかにも嫌そうに、レイルが吐き捨てた。まぁ、こんな場所に何日も泊まり込むのは嫌だよな。食い物も現地調達できないし。


 「残骸回収の連中を置いて、先に戻った方がいいかもしれねぇなぁ」


 知らないうちに早足になっていた。

 まさかとは思うが、あの魔法陣が魔素溜まりを作れるもんだとしたら、下手すると街ん中に魔素溜まりができて、そっから魔物が出てくるなんてことも…。

 ん? なんだ、この魔素の乱れは? まるで誰かが戦ってるような…。おい!


 「レイル、残骸んとこで誰か戦ってるみたいだ!」


 「ちょっと、これって、セシリア襲われてんじゃないの!?」


 レイルも魔素の乱れを感じたらしい。

 まさかホントに巨人じゃないだろうな。


 「急ぐぞ、レイル! 何と何が戦ってるか、確認しないと!」


 「先に行く!」


 言うなり、レイルがすっ飛んでった。


 「待て、レイル! 巨人だったら、魔素をなくさないと!」


 後ろ姿に叫んではみたが、レイルから返事はなかった。

 ちくしょう! 俺の身体強化は長くはもたねぇってのに!

 とにかく全力だ!





次回予告

 セシリア達を襲う新たな巨人。

 駆け出したレイルと、それを追うフォルス。

 フォルスは間に合うのか。

 次回「ごつひょろ」15話「2体目の巨人」

 レイルだけでは勝てない。

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