7-3 見せられたモノ

 洞窟の円板の報告をしてから3日目、俺達はギルドに呼び出された。

 セシリアに案内されて支部長のところに行き、そのまま4人で座って話をする。

 4人で、と言っても、俺とレイルが並び、向かいに支部長、俺達の右側面にセシリアが座るといった形だ。

 まぁ、予想どおり、あいつらを返り討ちにしたことについては、お咎めはなさそうだな。


 「まず、円板の話からいこうか」


 支部長が重々しく、といった感じで口を開いた。


 「結論から言おう。円板の周囲に死体はなかったとのことだ。血の跡さえもだ。

  一方で、君達の報告どおり、2人分の死体の燃えた跡と、手足だけ燃えた跡が3つあった。

   つまり、死体1つ分、首や胴体が足りないわけだな。

  甚だ信じがたい話ではあるが、君達が見たとおり、円板が死体を吸い込んだ可能性が高いというわけだ。

  ちなみに、円板に兎の死体を触れさせても何も起きなかったが、魔石を触れさせると瞬く間に魔力が空になったそうだ。

  これらのことから、あの円板は魔力を吸収する性質があると推測される」


 魔力ねぇ…。


 「魔法士の死体には魔力がある、と?」


 「我々が使うための魔力と同じかはわからんが、少なくとも魔法を使おうとして、魔法による攻撃で死んだわけだし、魔力の残滓があったとしても不思議はない」


 「んで、魔力を吸収する板なんて、誰がどうやって作ったんです?」


 「残念ながら見当も付かん。

  この紋様が関係しているのは間違いないだろうが。

  試しに、同じような大きさの木の板を黒く塗って、同じ紋様を書いて魔石を触れさせてみたが、何も起こらなかった」


 すげぇな。試してみたのか。

 しかし、何も起きないってのは…。紋様が正確じゃなかったか、それとも材質に秘密があるとか?


 「材質、紋様の位置、描く順番、あるいは作るに際してなんらかの儀式が必要、など可能性はいくらでもある。

  それを検証するのは難しいが、とりあえず紋様に何らかの意味があるという前提で調べさせている。

 魔法陣という、魔力を練らずに魔法を使う技術があるそうでな」


 「魔力を練らずに魔法を」

 そんなことができるのか? それじゃ、まるで魔獣じゃないか。


 「技術としては、かなり古くからあるらしい。

  こんなのだ」


 支部長がテーブルの上に置いたのは、掌くらいの大きさの四角い木の板だった。何も塗られていない木肌の上に、黒いインクで何か描かれている。


 「こいつは暗くなると…」


 言いながら、上から箱のようなものを被せた。少しして箱をゆっくり持ち上げると、箱とテーブルの間に光が漏れる。だが、箱を持ち上げても、光っているものなどない。


 「今漏れていた光は、この板の紋様が出していたものだ。

  暗くなると光り出す。明るくなると光が消える」


 夜になると勝手に光るってのか? そんな便利なもんが作れるのか。


 「書き写してもいいでしょうか? 自分でも試してみたいんですが」


 どっかで研究してるってんなら断られそうだが、言ってみるだけならタダだからな。


 「構わんが、他人に見せるのは禁止だ。

  君達は円板の実物を見ているから、何かに気付けるかもしれないと思って許可するということを忘れないでもらいたい」


 言ってみるもんだな。


 「わかりました」


 「それと、何か気付いたことがあれば、全てこちらに報告してもらいたい」


 なるほど。体のいい実験要員か。

 「我々の方で使えそうなら、自分で使う分には許可してもらえますか?」


 「君達2人だけなら許可しよう。それ以外は、たとえパーティーに加わった人間であっても許可しない」


 「もし、今後3人パーティーになったら?」


 「その時は、使うのを諦めてもらおう。

  本音を言えば、この措置は、君達2人にギルドが迷惑を掛けたことに対する補償でもある」


 ギルドが迷惑? あの3人のことか?


 「先日君達が倒した3人の冒険者は、気付いているとおり、魔狼の件でリーダーのイアンが死亡したパーティーのメンバーだ。

  自分達が手負いにした魔狼を君達が討伐したこと、その時の戦いで傷を受けたメンバーが2人、引退を余儀なくされたことなどを恨んでいたらしい。

  引退に追い込まれた2人の証言だから、間違いない。

  3人は、自分達のマネージャーから、君達が洞窟での依頼を受けたことを聞き出して追ったらしい。

  担当外のパーティーの動向を調べるのは、規則違反だ。一応本人としては、イアンの仇を討ってくれた君達の現況を教えてやることで慰めようとしただけで悪意はなかったようだが、結果として立ち回り先を知られた君達は襲われたからな。

  罰として、降格と減給にした。クビにするとなると、ギルドの秘密について口をつぐませるのが難しいのでな、そこは勘弁してほしい」


 まぁ、連中担当のマネージャーがクビになろうが減給になろうが、俺達には関係ない。セシリアが無関係だったってんなら、問題はない。


 「襲われた俺達については?」


 聞いてみると


 「そういうわけで、先程の許可を与えたわけだ。あまり欲をかかないでもらえるとありがたい」


 なるほど。

 やはり支部長ともなると怖いね。

 確かに益は得たし、ここで引いておいた方がいいだろう。


 「以後、こんなことがなければ構いません」


 「無論、ないように手を尽くす」


 「お願いします」

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