初恋ディストリクト

プロローグ

はじまりのとき

　猫を追いかけたあの日、知らない場所の路地に入ったら自分の中でピンクの蕾が開いた。

　ドキドキとして、怖いもの見たさの冒険心が抑えられなかった。

　その時、どこかで会ったことがあるような、それでいて全く知らない男の子と遭遇。

　その男の子の目があまりにもキラキラとして私を見ていたから、警戒心より好奇心が疼いた。

「あの、その、僕、あのっ！」

　その時彼はモジモジと何を言っていいのか分からないのに、言葉を一生懸命探して爆発していた。

　私はきょとんとしてその男の子を見る。

　こんな出会いは女の子なら一度は想像したと思う。

　突然声掛けられて、そこから始まる期待のストーリー。

　胸の高鳴りのちょっとした誘惑。

　暗いご時勢だったから、私は成り行きに彼がきっちりと話すまで立ち止まった。

　それが私の不思議の始まりだった。