152 - 「ゴブリンの革命王オラクル」
[R]
[飛行]
[物理攻撃無効]
全身甲冑の光の騎士。
甲冑の輪郭は淡く輝き、甲冑自体は半透明で反対側が透けて見える。
[物理攻撃無効] が付いているので、例え 1/1 ――攻撃力1、防御力1のサイズでも、小柄で細身のゴブリン相手であれば遅れをとることはないはず。
「お前はタドタドの護衛を!」
すると、
腰の剣帯から剣を抜くと、襲い来るゴブリンと応戦し始めた。
俺は跳躍しつつ、地面から数メートル上がったところで停止。
一先ず宝剣をしまい、両手を左右に突き出す。
そして、津波の如く押し寄せるゴブリンの群れへ向けて、[火魔法攻撃Lv2] の雨を一斉に降らした。
ドンッドンッドンッと、紅色の爆発が洞窟内を明るく照らす。
爆発の度にゴブリンが盛大に吹き飛ぶが、数が多いので、一向に減る気配はない。
すると、一部のゴブリンが放った粗悪な矢が足元を通過した。
「うおっ、危ね。もう少し上昇するか」
高度を上げると、地上からの矢は届かなくなる。
だが、今度は壁側にある足場から矢が乱れ飛んできた。
避けられそうもない矢は
当然、焼き払わずに躱した矢は、そのまま地上へと降り注ぎ――結果、下にいたゴブリンに矢が刺さり、悲鳴をあげて転がるというフレンドリーファイア展開を見せていた。
「さすがはゴブリン。仲間への誤射とか全く気にしてないな」
地上のゴブリンの数は自動で減っていくが、飛来する矢の数は一向に減る気配が見えない。
「足場崩すか」
俺は壁へ手の平を向け、火球をマシンガンの如く連射。
そのまま360度回転しながら打ち続けると、足場ごと壁が崩落し、地上にいるゴブリンの頭上へ、追い討ちとばかりに今度は大量の岩や土が降り注いだ。
――グギャァア!?
――――どわぁー!?
ゴブリンの断末魔が響き渡る。
「これで、結構殲滅できただろ。よし、マナ回収!」
空気中に漂うマナに語りかけ、引き寄せるイメージをしながら待つ。
すると、瓦礫の下から無数の赤い光が浮かび上がった。
「うん、上手くいった」
そのまま胸へと吸い込み続ける。
『新たなデッキが解放されました』
『禿山のゴブリン軍団カードを獲得しました』
「よーしよし! きたきたきた!」
新たなデッキの他に、何か別のゴブリンカードも手に入った。
それよりも新デッキだ。
次は何のデッキが解放されたのだろうか?
その確認をしようと注意を疎かにした瞬間――
黒い羽を生やした何かが顔に直撃。
視界が塞がれた。
「ぐはぁっ!? な、何だ!? い、痛ッ!? は、離れろ!!」
鋭い爪で顔を引っ掛かれながら、顔に張り付くそれを引き離す。
「何だこいつ…… まさか、
手の中で暴れるそいつは、毛のない小さい人間に蝙蝠の羽が生えたような姿をしていた。
黒い肌の空飛ぶ悪魔――
体長は10cm程の小さいものから、1mくらいまで、様々な大きさの個体が存在する。
基本的に全身が真っ黒で、瞳は赤く充血している。
ピンと尖った耳に、ぽっこりした腹。
蝙蝠のような羽と、鉤のある長い尻尾を持った姿が特徴的で、戦闘力はあまり高くないため、群れる個体が多い。
ふと、嫌な予感がして頭上を見上げる。
するとそこには、無数の
時折、
「うわっ!? 汚ねぇ! くそっ! こうなったら
[火魔法攻撃Lv2] の出力を調整し、全身を覆うように球状の火を纏う。
そして、
両手から火炎放射の如く炎を放出し、すれ違う
途中、火の玉と化した俺へと、数匹の
この炎の武装は、
仲間を殺されたことに怒ったのか、
「うおー…… うるせぇ…… くそ逃げんな。素直に焼かれろ」
逃げ回る
すると、
「ん? おっと、今度は下がピンチか!?」
地上へと視線を向けると、
そして、その山からゴブリン達が覆い被さるように突撃を繰り返していく。
降りた後のことなど一切考えていない無謀な特攻。
ゴブリンならではの攻撃だろう。
「今行く!」
急降下しながら、ゴブリンの死体の山へと [火魔法攻撃Lv2] をぶっ放す。
紅く輝く球体の光源が、白い煙を帯びながら真っ逆さまに落ちていく。
そして、ドンッ! と爆発とともに、ゴブリンの四肢が周囲に弾け飛んだ。
炎の膜に血液やら肉片やらが当たり、ジュウと音を立てて蒸発する。
突然の火球に、ゴブリンの攻勢が緩む。
その隙を突き、
取り敢えず、一時的に窮地は脱したようだ。
だが、周囲には、続々と新しいゴブリンが湧き続けており、地上がゴブリンの死体で埋まるのは時間の問題だった。
「ちっ、なんて数だ。これがゴブリンの脅威なのか? だとしたら本当に恐ろしいな。この数の暴力は。一体あと何匹いるんだか。まぁデッキは解放したから、そろそろ討伐はいいか」
今一度、周囲を見渡す。
先ほどの攻撃が効いたのか、それとも、敵わない敵から逃げると判断できるだけの知能があったのか。
地上にいるゴブリン達は、そんなの関係ないとばかりに、涎を垂らしながら迫ってきている。
いや、中には仲間の死体を貪っている者も多く存在した。
「カオスだな……」
これがこの世界での本来のゴブリンの姿であれば、この世界の住人が、俺が召喚したゴブリンを見て驚くのも納得がいく。
こいつらに理性や知性を求めるのは不可能。
そんな気さえしてくる野蛮な魔物そのものだ。
「これを本当に束ねられるのか? いや、そこはオラクルに期待するか」
少しだけ息を整える。
そして――
「ゴブリンの革命王オラクル、召喚!」
[UR] ゴブリンの革命王オラクル 3/4 (赤)(7)
[ゴブリン持続強化+2/+2]
[カリスマ:ゴブリン]
シュビラと
召喚行使の直後、自身を中心に
捲き上る風に乗り、大量の光り輝く赤い粒子が舞い踊った。
光源の少ない地下洞窟の中で起きる光の放流は、暗闇が続く上空へ高く舞い上がり、周囲をその光で淡く照らす。
その光に、ゴブリン達が眩しそうに手をかざし、攻撃の手を緩めた。
やがて光の粒子は 目の前に集束し、ゆっくりと人型を形取り始める。
粒子が消えると、そこにはゴブリンのように尖った耳が特徴的な幼児が立っていた。
「幼児か。シュビラが幼女だったから、何となくそんな気はしていたけど」
その幼児は、きめ細かい青い絹を、まるで大人の服を子供が着ているかのようにだぼだぼっと身体に巻き、藍色の短パンを履いていた。
髪は両頬が隠れるくらいで、内巻き。
両耳辺りだけは外側に跳ね、更に頭上にはアホ毛と思わしきくせ毛が数本逆立っていた。
髪色は白藍色。
瞳は青く、角膜の縁が仄かに水色に輝いている。
肌はシュビラ同様白い。
耳以外は普通の人間と変わらない。
幼児と表現したが、顔は中性的で、正直男の子なのか女の子なのかは一目で判断できなかった。
目尻が少しつり目気味に上がった猫目。
全体的に可愛らしいという第一印象ではあるが、悪戯小僧っぽさも感じる。
なんて言うか、少し猫っぽい。
ゴブリンなのに。
幼児は二パッと擬音がつきそうな笑みを浮かべながら、胸の前で握りこぶしを上下にブンブンと振り回しつつ、あどけない声で自己紹介を始めた。
「はじめまして! ぼくの名はオラクル! おにいさま、ようやくぼくを召喚してくれたんだね! ぼく、とっても、とーっても嬉しいよ! ありがとーー!」
まん丸とした瞳を爛々と輝かせながら、幼児が両手を前に突き出しながら駆け寄り、その勢いのままジャンプ。
胸へ飛び込んできた。
「おにいさまーー! これからはぼくがおにいさまを守ってあげるからね! 大好きーー!」
「お、おう……」
(おにいさまですか。何とも歯が浮きそうな響き)
複雑な気持ちになりつつも、胸へと顔を埋めるオラクルへ指示を出す。
「オラクル、ここにいるゴブリン達を手懐けられるかい?」
「うにゃっ? あー! うん、大丈夫だよ? というより、もう、ここにいるゴブリンは全部支配下においたから、なんでも言うこと聞いてくれるよ?」
「えっ? マジで? いつの間に?」
視線を上げる。
俺たちを囲むようにして集結したゴブリン達が、一様に腕をだらんと下げ、猫背の姿勢でこちらを静かに見つめている。
その濁った赤い瞳は、オラクルの瞳と同じように、角膜の縁がうっすらと水色に輝いていた。
「これが [カリスマ] の力か……」
俺が視線をオラクルへと戻すと、オラクルはニコニコとしながら再び胸へ顔を埋め、ふがふがと鼻を鳴らしていた。
◇◇◇
「アンタ達! 何ボーッと突っ立ってんだい!? アタシの言葉を無視するんじゃないよ!!」
ゴブリン共が言うことを聞かなくなった。
何か催眠にでもかかったかのように、ボーッと一点を見つめている。
あの耳障りなお喋りも、仲間同士での小競り合いもない。
ゴブリンの巣窟とは思えぬ静寂。
そして、背中をちりちりと炙られるような、嫌な
使い捨ての下級モンスターが、まるで上級モンスターのような存在感を放っている。
「ふざけんじゃないよ! 一体何がどうなってんだい!? アタシの
ゴブリンの巣窟へ突き落とした男が、まさか背中から炎の翼を生やして空を飛ぶとは思っても見なかった。
普通の者なら即死。
即死しなくとも、濃厚な
なのに、あの男はそうならなかった。
それだけじゃない。
非常識な威力の火魔法で、何万と群がるゴブリンを圧倒していた。
空を飛ばれたら、ゴブリンには手出しができなくなる。
だからと男へ仕掛けた
それでも、何十万といるゴブリンが相手であれば、いつか
恐らく、ゴブリンは男がした何かによって支配された。
何年もかけて、馬鹿なゴブリンに上下関係を教え込ませた努力が一瞬で水の泡だ。
そう考えると、腹わたが煮えくり返りそうな程に沸々と怒りが込み上げてきた。
「ふざけんじゃないよ……」
人族なんて皆そうだ。
アタシを魔女だと蔑み、忌避し、奪い、隙あれば石を投げつけてくる。
それだけじゃない。
人里離れて暮らそうものなら、今みたいにぶち壊しにやってくる。
「ふざけんじゃないよ! アタシが何したって言うのさ!」
頭がカーッと熱く、痒くなり、一心不乱に頭を掻き毟る。
「きぃー! もーむしゃくしゃするね! 久し振りに見た男の胸板にドキドキして、柄にもなく女を出したアタシが馬鹿だったよ! 手加減するんじゃなかった! 肉棒が欲しけりゃさっさと斬り落として置けば良かったんだ! はぁ…… アタシはつくづく馬鹿な女だよ!!」
一度、溜息を吐き、軽く背後へと振り返り様に声をかける。
「ほら! アンタ達ついてきな!」
アタシの言葉に、二匹の
「アンタ達はお利口だねぇ。よしよし良い子だ」
荒んだ心が少しだけ癒された気がした。
「さぁ行くよ! ぽっと現れた一人の男に、せっかく見つけたアタシの居場所を取られてたまるかい!」
思い知らしてやる。
後悔させてやる。
「久し振りに大暴れしてやろうじゃないのさ!!」
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