148 - 「蠢く者」
[UC]
[対空狙撃Lv5]
[行動不可]
[死亡時、
紋章Lvアップの恩恵である「討伐モンスターカード化」を使った
目の前には仮面の集団がいるため、念のためと背後に召喚したのは正解だった。
巨大な光の柱が発生したことで、そこにいた
目の前に召喚していたら、エンベロープ族に死人が出ていたかもしれない。
――いや、そこまでやわじゃないか。
(あ、
召喚した
因みに、Xマナは15×2程込めておいた。
ゴブリン呼びの指輪を全力行使するときに、大体30マナまでくらいであれば、リスクなく込められることは分かっていた。
(問題は、この
召喚演出が終わり、伐採した
意識というものがないのか、念で呼びかけても反応はなかった。
その
「ヨヨア。もう一度よく考えろ。お前達が神と崇めるこの大木を創造した俺は、本当にお前達の敵か? お前達は
ヨヨアが息を呑む。
己を創造主と主張する自分が酷く滑稽に思えて鳥肌が立ちそうになったが、演じきれなければ死人が増えるだけだ。
ここは
創造できるなら、なんでわざわざサーズまで伐採に来たんだと心の中でツッコミを入れつつ、ヨヨアの返事を待つ。
その間も、四方から流れてきた赤い光の粒子が、続々と身体へ吸い込まれている。
背後には召喚した
背には炎の大翼。
手には光の剣。
何千もの
見た目も、実際にやってのけた事も、振り返るとめちゃくちゃだよなと素直に思う。
それから暫くして、ヨヨアが沈黙を破った――
「ちぃ……」
残念ながら、聞こえてきたのは舌打ちだった。
俺の発言に納得していないのか、目の前で起きた現実を受け入れたくないのか、その顔は苦々しく歪んでいた。
これでも素直に認めないのかと、ヨヨアの芯の強さに感心とも呆れともとれる溜息を吐きそうになったその瞬間――
俺の身体が七色に輝いた。
《 マナ喰らいの紋章 Lv27 解放 》
《 マナ喰らいの紋章 Lv28 解放 》
《 マナ喰らいの紋章 Lv29 解放 》
『(虹×3)マナを獲得しました』
『過去に討伐したモンスターを1枚カード化できます』
久しぶりの連続Lvアップ。
<ステータス>
紋章Lv26→29
ライフ 10/46
攻撃力 99
防御力 5
マナ : (虹×3)(赤×3354)(緑×128)(黒×40)
加護:マナ喰らいの紋章「心臓」の加護
火の加護
火吹きの焼印
装備:
火走りの靴
火投げの手袋
補正:自身の初期ライフ2倍
+2/+2の修整
召喚マナ限界突破12
火魔法攻撃Lv2
飛行
毒耐性Lv5
ライフの上限が2上がった。
虹マナを獲得できたのは大きい。
(赤マナはどのくらい入った? 500くらいゴブリン召喚に使ったから…… えーっと…… 800くらいか? 相変わらず、倒した数からしたら大分少ないな…… もしかして、
疑問が浮かぶも、ヘルプ機能などないため調べることもできない。
(まぁいいか。
いや、エンペローブ族の死体からも緑色の粒子が出ていた気がするので、もっと少ないかもしれない。
そういえば、
どちらにせよ、
もしかしたら、
軽く溜息を吐いて、逸れた思考を戻す。
(おっと、エンベロープ族のこと忘れてた…… あ)
目の前には、ヨヨアを含めたエンベロープ族の戦士達が、皆一様に仮面を取り、武器を捨てて平伏していた。
◇◇◇
「無事に戻って来れたか! 心配したぞ!」
村へ戻ると、泣きそうな表情で駆け寄ってきたオーリアに抱きつかれ、開口一番、そう言われた。
「うお!? あ、ああ。大丈夫。それより、なんかあった? 先に戻ってるということは……」
そう聞き返すと、ガバッと勢い良く離れたオーリアが、今度は切れ長の目を吊り上げ、俺を指差しながら怒り始める。
「そ、そうだ! お前が
「あ…… そ、そうか。あのせいか。ごめん、あそこまで派手に吹っ飛ぶとは思わず…… その、ごめん」
「は、反省しているのであれば良い」
素直に謝ると、オーリアは視線を泳がせてあたふたし始めた。
すると、そこへノクトが合流する。
「陛下、ご帰還をお待ちしておりました。ご無事で何よりです」
「あー、ノクト。ただいま。色々迷惑かけたみたいでごめんね」
「いいえ。迷惑なんてことはありません。ドラゴンのお陰で、被害はそれほどありませんでしたし。それよりも、
「ああ、斬り倒した
「は…… い? 陛下の配下に?」
ノクトが目を丸くして聞き返すと、オーリアも驚いた顔でそれに続いた。
「どういう事だ? 詳しく話せ」
二人には事の詳細を話した。
話せば話すほど、二人の顔が呆れたような表情に変わっていくのが、なんとも切なかった。
因みに、斬り倒した
なので、その亡骸もまとめて素材として再利用してもらおうという計画な訳だ。
我ながら無駄のない計画だと思う。
若干――いや、かなり量が多いので、
トレンの「公国が交易路を封鎖さえしていなければ!」と悔しがる声が聞こえてきそうだ。
「まるで夢の話でも聞かされているような気分になるな……」
「はい。
オーリアがやれやれと頭を振り、ノクトがいつもの半目で俺を見つめる。
「あれ…… おかしいな…… なぜ呆れられてるんだ……」
「お前のすることは、それくらい非常識だということだ」
「まぁ、それは否定しないけど……」
「陛下、
「ん? ああ、そうだね。サーズでの用事はこれで終わったかな。そういえば、ニドは?」
「総族長は、他の部族にこの度の一件を伝えると既に動き始めているようで、ここには居ないようです」
「そっか。ノクトはお爺さんと話は済んだの?」
「はい。お陰様で。爺が陛下に挨拶したがっていました」
「挨拶……」
ふと、過ちを犯してしまった夜の記憶が頭を過ぎる。
もしや、責任を取れと追求される?
それとも、孫娘を手篭めにしよって!と成敗される?
嫌な予感しかしない。
「い、今は色々と忙しいから、また落ち着いたときでいいかな?」
「はい。そう仰られるのではないかと思い、先に断っておきました」
ノクトがニコッと微笑みながら、そう答えた。
「そ、そう」
(な、なんだ、この図られた感は……)
俺がノクトの微笑みに色んな意味でドキドキさせられていると、それを横で見ていたオーリアが話に割って入ってきた。
「用が済んだのであれば、早くここを発とう。ローズヘイムに残してきたフロン様が心配だ」
「あー、オーリアとノクトは先に戻ってていいよ。俺は北のゴブリンを討伐してから戻るから」
「何?」「え?」
オーリアとノクトが目を丸くして驚く。
「あ、大丈夫。さっきシュビラから連絡きたんで、帰りの足として
シュビラからは、他にも進展情報があった。
中継地点となるロサに、人語が話せるゴブリン――ゴブ参謀と、その手足となる多数のゴブリンを配備させたらしい。
これからはサーズとの交易拠点として活用できるよう整備していくと話していたので、
サーズには、ゴブ狂を仲介役として常駐させる予定だ。
すると、オーリアが急にあたふたし始めた。
俺が一緒にローズヘイムへ戻ると思い込んでいたようだ。
「そ、そんな話は聞いてないぞ!?」
「あれ? 前に話してなかったっけ? ゴブリンも討伐に行くって」
「それは…… 聞いていたが、
「
「わ、私も付いて行くぞ!」
「「え?」」
オーリアの突然の付いて行く宣言に、俺だけでなく、ノクトも驚いた。
「いやいや、さっきフロンが心配だって言ってたじゃん」
「はい。私もそうお聞きしました」
「そ、それは言ったが……」
「また
「うっ……」
「サーズには、案内役として同伴する目的がありましたが、オーリア様が北へ行く理由は何でしょうか? 私達が陛下に付いていっても、足手纏いになるだけです」
「ぐっ……」
オーリアが顔を引きつらせていると、そのオーリアを無視してノクトが先に了承してくれた。
「私とオーリア様は、先にローズヘイムへ戻ります。なので陛下、あまり無茶はしないでください」
「分かった。また空の旅になるけど、オーリアをよろしくね。多分、
「はい。陛下、どうかご無事で」
そう言いながら、ノクトがそっと近寄ってくると、腰へと手を回し、軽く抱きついてきた。
突然のことに少しどぎまぎしてしまうも、あまり動揺していてもみっともないので、優しく抱き返す。
ノクトの青い髪が風に煽られて揺れると、爽やかな花の香りが鼻をくすぐった。
「お、おい! いつまでそうやってるつもりだ!」
オーリアがこちらを睨みながら何やら怒り始める。
相変わらず忙しい奴だ。
「まぁ、取り敢えず後は任せた! じゃ!」
「はい。いってらっしゃいませ」
「あ! お、おい! ま、待て!!」
俺が逃げるようにその場から走り出すと、ノクトが微笑みながら片手を振り、オーリアが片手を突き出しながら「待て!」と叫んだ。
叫びながら寂しそうな表情を見せたオーリアには、少しくるものがあったが、あそこでオーリアの駄々に付き合っていては日が暮れてしまう。
俺は
「ちゃっちゃとゴブリン狩ってローズヘイムに戻ろう」
森を抜けると、視界一面に荒野が広がる。
そこから少しばかり荒野を走り、
目指すは、フログガーデン大陸の最北端の禿山――ゴブリンの巣窟だ。
◇◇◇
無数の蛇が彫られた大きな椅子に、ニドが足を組みながら、顔に満面の笑みを浮かべている。
その対面には、ニドの側近でもある、口髭を生やしたギョロ目の男――トロウが、腕を後ろに組みながら立ち、淡々と事の報告を告げていた。
「シュホホホホ。エンベロープ族を殺す訳でもなく、逆に手懐けましたか。それは予想外な結果ですねぇ」
「厄介なヨヨアがまだ健在とはいえ、これでサーズに存在する部族の統一を阻む部族はいなくなりましたな」
「ええ。理想はエンベロープ族の排除でしたが、彼の配下に加わるのであれば、まだ使い道はありますかねぇ。しかし、あの頑固なヨヨアが屈服するとは思いませんでした。一体どんな魔法を使ったのですか?」
「報告によると、ヨヨアの目の前で、一際大きな
「
ニドがニヤリと笑う。
「ふむ。創造するのに、自らの手で伐採する必要があった……? 彼の能力にも穴がありそうですな」
「殺すことで創造できる力であれば、躊躇いなく皆殺しにすればいいだけです。それをしないということは、別の条件があるか、あるいは、その力は頻繁に使えるものではない可能性が高いですねぇ」
「なるほど」
「シュホホホホ。創造というからには、相応の代償も必要なのでしょう。実に興味深い。まだまだ彼の能力には謎が多いですねぇ」
「ですな。私としては、
「ええ、ええ。その事実のせいで、エンベロープ族が使役する
「これで、彼がマジックイーターだという噂に、また信ぴょう性が出てきましたな」
「噂が確信に変わったと言っても良いかもしれませんねぇ」
「それは…… やはり、死者から
「それもありますねぇ。シュホホホホ」
ニドの高笑いが響く。
一通り笑い終わると、ニドが表情を戻し、話の続きを促した。
「それで、その彼は今どうしているのですかねぇ?」
「北へ向かったそうです。ゴブリンの巣窟を探すとか」
「
頬杖をつきながら、溜息を吐くニド。
すると、トロウが左上に視線を移しながら、左手でちょび髭の先を摘みつつ、何かを思い出したかのように呟いた。
「そういえば、禿山には魔女が住み着いているという噂がありましたな」
「
「はい。当時は公国領の都市をいくつか壊滅まで追い込んだとかで、賞金首にもなっていましたな」
「黒魔術の使い手なら、彼にとっても良き練習相手になってくれそうですねぇ。魔女の名に相応しい力を保有していればですが」
「その点は心配ないかと。あの一帯は、沼地でもないのに今でも厄介な疫病が蔓延していて、人族が住めない土地になっているようです。ゴブリンの目撃は相変わらずあるようなので、もっぱら魔女が施した人避けか何かでしょう。それよりも、魔女が駆使する疫病に、彼は抵抗できますかな? 毒に対してであれば、相当に強い耐性をもっていると聞きましたが、はたして疫病にも耐性があるのか否か」
「シュホホホホ。それは確かに気になりますねぇ」
「何人か見張りを付けますかな?」
「そうですねぇ。気付かれないよう、細心の注意を払ってくださいねぇ」
「はっ。承知しました」
◇◇◇
マサトが北へ発ってから少しした後、サーズの東から一人の女が荒野へと顔を出した。
女が三羽の鴉が入った籠を持ち上げると、その籠の扉を開け、三羽の鴉を空に放つ。
始めは一緒に飛び立った鴉達も、風に乗るとそれぞれが違う方向へと向きを変えた。
一匹は北に、一匹は東に、一匹は南に。
その様子を見届けた女は、手に持っていた籠を壊すと、そのまま地面へと埋め、再びサーズの森の中へと消えていった。
◇◇◇
一羽の鴉が、魔導兵が配備された城壁の上空を通過すると、一軒の古びた娼館へと降り立った。
冊子の壊れた窓から部屋へと入ると、暫くして、娼館から一人の男が姿を現した。
その男は酒場へと向かい、店主へと白い紙を手渡すと、酒と金貨の入った袋を受け取り、街の何処かへと消えた。
紙を受け取った店主がいつもの仏頂面で店の奥へと引っ込むと、そのまま酒が貯蔵してある地下へと降りていく。
そして、地下室に誰もいないことを確認すると、徐に壁のブロックを一枚外し、その奥に見えた紐を引っ張ると、男から買い取った紙を壁の中へと捨てた。
特に何を話す訳でもなく、店主はブロックを元に戻し、適当な酒を手に取ると、そのまま何事もなかったかのように店へと戻った。
また暫くして、酒場の地下の壁の先、光の届かない狭い通路を、一人の
そして、錆びた鋼鉄製の大扉の前で立ち止まると、懐から鍵を取り出して扉を開けた。
錆びた鉄がギギギと擦れ合う不快な音が響く。
蝋燭の明かりが揺ら揺らと揺らめき、
緑色の鱗に、黄色の瞳。
全身黒ずくめのフードを身に纏った
「…オーチェ、サーズにいる
冥府の神、エレボスを崇める暗殺組織――
見た目は一見して少女に見えるが、瞳と爪は黒く染まり、白く見える肌は石灰を塗りだくったかのように白く、口は血のように紅い。
それは、生を失った呪われた種族――
「ほほぅ。どんな内容だ? テナーズ」
「…ローズヘイムの王になった男についてだ」
「あの男か。今度は何をしてみせたのだか」
テナーズと呼ばれた
「…サーズの部族を束ねたと。つい最近まで総族長の位にいたタン族の族長は死に、今はコロナ族の族長が総族長となったらしい。反目し合っていた部族の大半は皆殺し。唯一、昆虫使いのエンペローブ族だけが、ソイツの支配下となることでコロナ族の制裁を免れたとあった」
「ほほぅ。あの無法者どもを纏めるとは。王としての素質はあったようだな。だが、サーズを味方に付けた程度では、今や大陸の9割を統治する公国には勝てぬのではないか?」
オーチェがクククと笑うと、テナーズが頭を振りながらゆっくりと答えた。
「…問題は次だ」
「聞こう」
「…ソイツは一人で何千と湧いた
「何!?」
机に両手をつき、勢いよく立ち上がるオーチェ。
その反動でフードがめくれ上がり、隠れていた顔が露わになる。
その口は耳まで裂けているかのように真っ赤に吊り上がり、全てを飲み込んでしまいそうな闇を連想させる漆黒の瞳は、こぼれ落ちそうになる程に大きく見開かれていた。
その狂気的な笑みに当てられ、テナーズが僅かに引き気味になる。
「…そこまで驚くとは予想外だった」
「ククククク…… アーッハッハッハ! それは驚くさ! これで驚かない者はいないだろう!?」
尚も身を乗り出して興奮気味に話すオーチェに、テナーズは
「…それで、オレ達はどうする? 王都ガザの支部連中――
「ガザ支部の連中など放っておけ。ダイダラは欲が深過ぎて自滅するタイプだ。関わらない方が吉だ」
「…それなら、オレ達は今回の件は見送りか?」
「待ちたまえテナーズ君。早とちりはいけない。
そう嬉しそうに告げるオーチェに、テナーズは溜息で返す。
自分を君付けで話すときは、必ずと言っていいほど、自分にとって嬉しくない謀を考えているときのオーチェの癖だったからだ。
「…前にも言ったが、ソイツをターゲットにするなら、オレは遠慮したい」
「ククク…… 安心したまえ。
「…? オレにはよく分からない。分かるように話してくれ」
「そのままの意味だ。彼らが、公国が提示してきた額の更に倍払えばいいだけだ」
「…それは、支払える額なのか?」
「ククク。以前のように多少希少価値のある素材数個程度では難しいだろうね。だが、私はそのくらいの価値がある人物を知っている。誰だか分かるかね?」
問われたテナーズが腕を組みながら考え込む。
考えているときの癖なのか、尻尾の先をペタペタと地面に叩きつけた。
そして、ふと答えが浮かんだのか、首を少し横に捻りながら呟く。
「…まさか、レイアか?」
その答えに、オーチェが真っ黒に染まった歯を見せながら、ニカッと笑った。
「大正解だよ! テナーズ君!」
――――――――――――――――――――
▼おまけ
[UC]
[対空狙撃Lv5]
[行動不可]
[死亡時、
「最も偉大な
新規登録で充実の読書を
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