72 - 「地下洞窟侵攻作戦」

 皆で朝食を取った後、マサトはシュビラ、レイア、ネスの3人で、土蛙人ゲノーモス・トードの住処である地下洞窟への侵攻作戦を打ち合わせていた。



「地下の構造は私の方で逐次調べることができます。と言っても、この里から2km程度が限界ですが、その範囲であればどの通路に何がいるかまで正確に把握できるでしょう」


「ネス、いつからそんな便利な物ができたんだ? 以前は地下の状況は分からないと言っていた気がするんだが……」


「ああ、レイアには言ってなかったですね。これは前から里にはあった物と同じです。ですが、マサト君が提供してくれた水晶石のお陰でより広範囲を検知できるようになりました」


「そうか。その範囲には土蛙人ゲノーモス・トードの王はいたのか?」


「残念ながら。ただ、葉脈のように広がる通路の中に一本だけ、他の通路と比べて4〜5倍の大きさのある通路を確認しています。恐らくその通路が敵の王へと導いてくれるはずです」


「そこまでの地図は?」



 レイアの質問に、ネスがマサトへと顔を向けた。


 マサトがネスの代わりに答える。



「地図はなくても大丈夫」


「どういうことだ?」


「え〜っとね。俺と俺が召喚した者達は思念による会話のようなものができるんだけど、今回はそれをフル活用する感じかな。シュビラがネスの知り得た情報を把握して、それを俺含めた全ての配下に思念による伝達を行う。更にはゴブリン達をグループ毎に地下へ潜らせて、逐次情報をシュビラへ返すことで、ネスさんの検知で届かない範囲もマッピングできるっていう作戦だよ」


「思念による伝達…… そんなことまでできるのか……」


「恐ろしく便利だよね。まぁ思念が届かない範囲や距離があるかも知れないっていう懸念がない訳じゃないけど、少なくとも効率よく地下洞窟が攻略できると思う」


「これがどれだけ恐ろしいことか、マサトが本当に理解しているのかは疑問だが…… 分かった。で、地下へは誰が降りるんだ?」



 レイアは少し不安気な様子でマサトを見つめる。



「地下へは、主にゴブリン達だけで攻めるよ。里を警備する最低限の数だけは残すけど。地上の守りはガルドラゴンが入ればなんとかなりそうだし、スネークもいるから大丈夫でしょ。ただ、地下については、ゴブリン達だけじゃ敵将クラスまでは対処できないだろうから、俺も一緒に潜る予定」


「わ、私は……」


「地下は何が起きるか分からないから、地上で留守番……」



 そこまで言うと、レイアの顔が歪むのが見えた。


 戦力不足として置いていかれるのが辛いのだろうか。


 そのまま話を続ける。



「……してもらいたいところだけど、この世界の知識が俺とゴブリン達だけだと乏しいから、レイアも付いてきてくれるかい?」


「!!」



 マサトの言葉に、目を丸くするレイア。


 そしてふいにマサトから視線を外し、少し頬を赤く染めながら、腕を組んだり身体を揺らしたりともじもじし始めた。



「し、仕方ないな。マサトが言うなら付いていってやらないこともらない、ぞ?」


「突然のツンデレ発言に驚きを隠せない」


「くっくく…… こんなレイアが見れるとは。マサト君の影響は本当に想像を超えてきますね」



 ネスがレイアの態度を見て笑っている。



「小娘よ、ちゃんと旦那さまをおまもりするのだぞ?」


「分かっている。マサトのおりは任せろ」


「あれ…… なんか俺が手間のかかる子みたいな扱いになってない? おかしいな……」



 レイアが腕を組んだ状態で胸を反らした。自信満々な表情。まさにドヤ顔だ。



「レイアの他に、ミアも連れて行こうと思う。本人が承諾すればだけど」



 マサトの意見に、シュビラとネスが賛同し、レイアが反対した。



「それは良い考えだの。ラミアなら魔眼で敵を操れる。現場で即席の兵士を作りながら探索できるの」


「なるほど。確かに戦力になりそうですね。魔眼は強力ですから」


「私は反対だ! まだ奴は何を考えているのか分からない! 寝返るかも知れない奴に背中を預けるなど……」


「まぁ本人が承諾すればの話だから。でもミアはきっと助けになってくれると思うよ。レイアみたいにね。何となくだけど、そんな気がする」


「なっ!? わ、私は…… その、マサトに助けられた恩が、あるから……」


「それならミアもきっと同じじゃないかな」


「それは……」


「旦那さまの勝ちだの。われから見ても蛇娘は旦那さまに好意を寄せているように見える。それに旦那さまなら心配いらぬ」


「お前はマサトのっ! その、子種が…… 他の者に取られても…… その、いいの、か?」


「そんなことを気にしておったのかの? くふふふ。小娘は本当にお可愛いことだの。われは旦那さまを愛しておるが、独占欲などというちっぽけなものに支配されてはおらぬ。旦那さまの遺伝子が世界に散らばるなら、旦那さまの覇道がより確実になるだけだと考えておるからの」


「うっ……」


「くっくっく。レイア、その辺が引き際ですよ。では、私はシュビラ様とさっそく準備に取り掛かります。レイア、倉庫の鍵を受け取りなさい。里の備品は自由に使って構いません。消耗した魔力マナはマナポーションで回復させてから向かうように」


「はぁ…… 分かった。でも良く分かったな? 私の魔力マナの消耗」


「それくらい分かりますよ。そして、昨日とは比較にならないくらいの力強さを感じています。これも恐らくマサト君が得た新しい力の効果なのでしょうが、過信は禁物ですよ」


「そこまで分かるのか…… ああ、肝に命じておく。同じ失敗は繰り返さない」


「その意気なら心配はいりませんね。マサト君、またレイアを宜しくお願いします」


「いえいえ、俺の方こそレイアには迷惑掛けっぱなしなんで……」



 こうしてマサト達は土蛙人ゲノーモス・トードの住処へと侵攻作戦を決行することになった。


 結局、ミアは二つ返事でOK。代わりに子種をくれとかいう要求も全くなかった。


 ベルが付いて行きたそうな顔をしていたけど、プーア、ウィークと共に留守番してると自分から言い出してくれた。


 地下へ潜るのは、マサト、レイア、ミアの3人と、以下のゴブリン達だ。



 ・ゴブ郎 4/4(固有名強化+1/+1、ゴブリン持続強化+1/+1)※ゴブリンの道案内役

 ・ゴブ狂 3/3(固有名強化+1/+1、ゴブリン持続強化+1/+1)※ゴブリンの狂信者

 ・ゴブリン 3/3(ゴブリン持続強化+1/+1)×5体

 ・ゴブリン 2/2(ゴブリン持続強化+1/+1)×100体



 マサト達とゴブ郎、ゴブ狂。他はゴブリン3/3を各リーダーに、ゴブリン2/2を20体付けた計6グループで潜る。因みにゴブ狂は狂信ゴブだ。マナが潤沢にあったので固有名強化しておいた。


 出発前に片っ端から固有名強化してみたのだが、そのお陰で固有名強化について、いくつか分かったことがある。


 カードから召喚したモンスターは強化できるが、エンチャント呪文や能力によって作られたモンスターは固有名強化できないという制限と……


 もう一つ。


 固有名強化できるのは、紋章Lvと同じ数だけだという制限。



(これは失敗したなぁ…… もっと大型モンスターを強化するためにとっておくべきだった……)



 後悔先に立たず。


 ゴブ郎やゴブ狂以外に、片っ端から固有名強化を行った結果は以下である。



 ・ゴブ美 3/3(固有名強化+1/+1、鉄の槍 +1/+0、ゴブリン持続強化+1/+1)※ゴブリンの見張り役

 ・ゴブ木偶 6/5(固有名強化+1/+1、鉄の棍棒 +1/+0、ゴブリン持続強化+1/+1)※ゴブリンの木偶の坊

 ・ゴブ参謀 5/5(固有名強化+1/+1、ゴブリン持続強化+1/+1)※ゴブリンの参謀長官

 ・ゴブ戦長 4/4(固有名強化+1/+1、ゴブリン持続強化+1/+1)※ゴブリンの戦士長

 ・ゴブ紅嬢 4/4(固有名強化+1/+1、ゴブリン持続強化+1/+1)※ゴブリンの紅蓮魔術士



 ガルドラゴンとゴブ木偶が同じ攻撃力数値になってはいるが、どうやら種族によってこの数値の意味合いは変わるらしく、ワイバーンでの攻撃力6と、ゴブリンでの攻撃力6は同等でないことが分かった。もちろん、ワイバーンの方が圧倒的に高いという結果だ。


 何となくそんな予感はしていたのだが、種族補正というか、上位種族とのヒエラルキーというか、まぁそんな感じの覆しようのない差があるらしい。


 固有名強化で他に新しい発見があったとすれば、雌ゴブリンをイメージして見ゴブをゴブ美と名付けたところ、見た目も性別も雌に変化したことだろうか。


 飛びっきり可愛いゴブリンをイメージしたのだが、人間の俺から見たら可愛いとかの差が分からないくらいにゴブリンそのものである。シュビラがなぜゴブリンなのにあんなに可愛いのか疑問だ。ただ、ゴブ郎曰くベッピンさんだと言う。ここでも種族差というものを実感した。因みにゴブ紅嬢は高飛車系の美人で、ゴブ美は可愛い系らしい。ゴブ郎の感想だけは、俺がイメージしたものと合致していた。



 全ての準備が整った頃には、先ほどまで晴天だった空が曇り始めていた。


 大雨で地下水没しないことを祈りながら、マサト達はモストンが出てきた大穴へと潜っていった。


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