22 -「大運搬」


 荷車は2台。


 一つは狼人のガルが、もう一つは猿人のゴリが引いている。


 先頭を狂信ゴブ、殿にゴブ1。


 俺とレイアは狂信ゴブの後に続き、犬人のポチはガルの荷車を後ろから押す形で移動している。


 道無き道を荷車を押して進むのはかなり大変で、よくガルの引く荷車が木の根に引っかかっては、ゴリが後ろから強引に押し出してを繰り返している。



「ったく、なんでっ、おれぁがっ、こんなっ、がぁっ! ポチ! ちゃんと押せっ!」


「押してますって! あ、ゴリさんどもです!」


「うおぁっ!? ゴ、ゴリま、待て待て! 速い速い!」



 後ろは楽しそうだ。



「ん? お、おい! 兄ちゃん! 止まれっ! 岩陸亀だ!」



 一瞬で全員に緊張が走る。



「10m先の木の麓にある岩が奴だ! 間違えねぇ!」



 異世界にやってきて、初日に遭遇した岩陸亀よりも一回りくらい小さい。


 あの時は無我夢中だったけど、今思えば不意打ちさえされなければ全く脅威じゃないんじゃないだろうか。


 噛まれてもダメージ1だし、ショックボルト2発だし。


 何より、今は心繋きずなの宝剣がある。


 いい機会だから、今のうちに試し斬りしておこう。



「俺がいきます。皆は待機を」


「お、おいっ! 兄ちゃん何する気だ!?」


「マサトさん! あ、危ないですよ! 迂回して行きましょうよ!」


「二人とも少し黙って見てろ。マサトなら問題ない」



(なんだかんだでガルさん心配してくれてるのか。ちょっと嬉しいな)



 ポチさんはあたふたしてる。


 レイアは口ではああ言っているが、表情は少し硬い。


 ゴリさんも少し焦っているように思う。



 俺はポケットに入れておいた宝剣を取り出し、片手で握りながら念じる。


 光の刀身が、淡い光の粒子を放ちながら出現すると、皆が一様に息を飲んだのが分かった。



「な、なんだぁあれ…… おれぁ夢でも見てんのか……」


「ひ、光の剣? マ、マサトさんはゆ、勇者様だったんですか!?」



 俺はゆっくりと岩陸亀に近付きながら、自分のステータスを確認する。



<ステータス>

 紋章Lv4

 ライフ 40/40

 攻撃力 19

 防御力 3

 マナ : (赤×2)(緑×6)

 加護:マナ喰らいの紋章「心臓」の加護

 装備:心繋きずなの宝剣 +16/+0

 補正:自身の初期ライフ2倍

    +1/+1の修整

    召喚マナ限界突破6



 攻撃力が19に上がってる。


 恐らく、滝壺の洞穴に設置した魔法陣から、ゴブリンが召喚されたんだろう。



(俺の予想が正しければ、この宝剣で岩陸亀は瞬殺できるはず……)



 俺は後数歩くらいに迫った場所から、一気に走って距離を詰める。


 そしてその勢いのままジャンプし、着地地点にいる岩陸亀目掛けて宝剣を全力で振り下ろした。



 スパッ――



(……あれ?)



 全く手応えがない。



 ……が、


 目の前には真っ二つになった岩陸亀が、斬られてできた隙間に、臓器をぶちまけているところだった。



(グロッ!!)



 試しに甲羅の先端を再度斬ってみる。



 スッ――



 全く手応えがない。


 何かを斬っている感覚さえない。



(これ手元狂っていつの間にか自分の足切り落としてたとかやっちゃう奴だ…… おぉ怖っ! 斬れ味良過ぎて逆に引くレベル!)



 無事に岩陸亀を討伐できたことに安堵した俺は、後方で待機しているレイア達に声をかけようと振り返った。


 そこには信じられないものを見たような顔で固まる4人がいた。



「ゴリさんも一応驚けるんだな……」




 ◇◇◇




「マサトさんって絶対勇者様ですよね!? だって光の剣ですよ!? 凄いなぁっ! 憧れちゃうなぁっ! あの岩陸亀をスパッと一刀両断ですよっ!! 凄いなぁっ!」



 あの一件以降、ポチはずっとこの調子だ。



「ポチぃ〜、分ぁったから少しは静かにしてろっ! ここが森の中だって忘れたのかぁ!?」


「あ! そ、そうでした! すみません、つい興奮しちゃって…… でも凄かったなぁ……」


「はぁ〜、ダメだこりゃ」



 ポチはつぶらな瞳をキラキラさせながら、岩陸亀との一戦を繰り返し称賛している。


 因みに先ほど討伐した岩陸亀は、帰りに余裕があれば回収しようとなった。



 暫く道無き道を進み、ワイバーンと戦闘した周辺へと辿り着く。



「うぅっ…… 確かにこの周辺にはワイバーンの臭いが漂ってます…… うぅっ、気分が……」



 ポチは一気にテンションが下がったみたいだ。


 どうやら本能的な部分で、ワイバーンの臭いは辛いらしい。


 悪寒が止まらなくなるとか。



「こういうときばかりは、鼻が半分死んでて良かったって〜思えるわなぁっ! ガハハ」


「ガルさん、他人事だと思って…… うぅっ……」



 ワイバーンの亡骸が放置されている場所に到着すると、既にゴブリン達が全員集合していた。


 そこには洞穴に置いてきた水晶や、剣牙獣の肉も大量に置いてあった。



「ゴブ」



 ゴブ郎が敬礼すると、それに続いて他のゴブリン達も一斉に敬礼する。


 一糸乱れぬその動きは、訓練された軍隊の動きと変わらないものだった。



「お、おいおい…… こんなゴブリン、いてたまるかよ……」



 ガルさんの目にも、俺のゴブリン達は異様に映ったらしい。



「ガルさん、ワイバーンを捌きたいのでどうすればいいかご教授お願いできますか?」


「はぁっ!? んなもん分からねぇ〜に決まってんだろぉ!! そもそもワイバーンを討伐できる人間なんざ一握りだってぇ〜のに」


「あ、なるほど…… じゃあ、適当に切り落としますね」


「切り落とすって、ワイバーンの鱗はそんな簡単に…… あ」



 宝剣でスパスパとワイバーンを持ち運びしやすそうな大きさに切り落としていくと、後ろで声にならない悲鳴が上がった。



「バ、バカヤロォッ!! そんな風に斬れるならもっと素材が傷付かねぇ〜ようにやりやがれぇっ!!」


「えぇっ!? ど、どうやって!?」


「バッ! いいかっ!? これからはおれの言う通りやれよ?」


「は、はい」



 ガルさんの言う素材を傷付けないようにというのは、ワイバーンは鱗や牙、骨すらも貴重な素材として高値が付くため、素材が傷付かないように解体した方がいいとのことだった。


 ワイバーンのような上位モンスターは、解体難易度の高さに比例して貴重な素材も多いため、現地で解体せず、街まで運んで街で解体するのが一般的らしい。


 ガルさんはワイバーンの解体方法なんて知らないと言っていたが、簡単に斬れるナイフがあるなら鳥の解体と大して変わらね〜だろとテキパキと俺に指示を出した。


 骨は出来る限り両断せず、骨を傷付けないように関節部分を斬り落としたり、鱗が傷付かないように皮を引き剥がしたり……


 俺とガルさんがワイバーンを解体している間、ゴブリン達には剣牙獣の肉や水晶を一度集落へと運んで貰った。


 ワイバーンの解体が終わり、それを集落へと運び終わる頃には、高かった日が傾き始めていた。

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