第30話 ルイエ役に立っています
「ん? 何だアレ?」
「ん? どうした? 何かあったか?」
見張りに立っている1人が入り口の正面を見て呟く。それにもう1人の男が反応し、同じ方向を見つめる。
「「あ?」」
そこには1つの小さな影があった。
それに2人は油断なく槍を構える。
しかしーー
「…キュ」
そこに居たのは普通の魔物、ラビットだった。しかもこの寒さで身体が悴んでいるのだろう、身体が震えていた。
「何だよ、ラビットかよ…」
「はぁ、ビビらせやがって…そうだ! コイツを丸焼きにして食っちまうか! 寒さで動きも鈍いし、小腹も空いて来たし、ちょうど良いだろ」
「ま、そうだな。じゃあいただくか」
「おう。じゃあトドメは頼んだ。俺は辺りを警戒しとくからよ」
「りょーかい」
そう言われた1人の男が槍を片手に、ラビットに槍を突き立てようとする。
「…あ、そう言えば思ったけどよ? 此処に普通のラビットが居るなんて珍しいよな。此処は麓だぜ? 此処まで来るのに引き返すのが普通なのに………って、おい! 聞いてんのか、よ?」
男が返事のない男に苛立ちを覚え、振り向く瞬間。何故かとても瞼が重くなり意識を保つ事が難しくなり、地面に膝をつける。
「ど、どうなって…」
段々と閉ざされて行く視界の中、男がかろうじて開く目に映ったのは、うつ伏せで倒れている仲間の姿。そしてその上で震えながらもドヤ顔を決めているラビットの姿だった。
「な…?」
男は抵抗虚しく瞼を下ろすのだった。
◇
「ふ、ふふ、わ、私にかかればこんなもん…」
「よしよし、寒かったなー」
倒れている2人の人間を洞窟の両端に寄せた俺は、頑張ったルイエの体が暖まる様に体をさすっていた。
ルイエが1人で出て行った理由、それはルイエが使った魔法にあった。
「ふふ…私の睡眠魔法の前では皆んな無力」
歯をカチカチと鳴らしているルイエは、偉そうに胸を張りながらそう言う。
睡眠魔法。それはルイエが使えると言う魔法の名前らしい、因みに名前は自分が決めたと言っていた。
その魔法が使えると言うルイエに、俺は聞いた。
魔法が使えないから、ジャルデから教えて貰っていたのではないか…と。
しかし、そんな俺にルイエは衝撃な一言を叩き出した。
「全部寝てたから分からない」
……雪が綺麗である。
効果は分からないけど、いざとなったらアノムが助けてくれるでしょ? とルイエに言われたら、もう認めるしかなかった。
そこまで俺を信用してくれるなら、俺もルイエを信用しなくちゃならないから。
まぁ、結果少し危険ではあったが、何の被害もなく中に入れるのは十分過ぎる戦果と言っていいだろう。
「それで…これからどうするかだが…」
「任せて…私が全員眠らす」
「ルイエにはあまり無茶をしないで欲しい」
「え…」
魔法は魔力を動力にして発動される現象の事だ。
魔力は人それぞれ保有する量が決まっている。無限にある訳ではないのだから、無闇に使わない様にしなければルイエが使えなくなった途端危険に侵される。
「わ、私は出来るよ!?」
「これからは洞窟の中だ。見張りが俺達を見逃さなければ入らない。つまり、見張りが本当に見逃したか、何かあったのか…頭の良い奴なら分かるだろう」
「…でも」
「ルイエの睡眠魔法は強力だ。その代わり大きなデメリットも存在する…俺から離れなければならない事。俺と一緒に居れば一気に警戒心を抱かせる事になる」
ウルフはラビットとは違って、人間を襲う事に特化している。まぁ、ラビットに比べればだが牙や爪が鋭く、体も大きい。それにすぐに発見され、攻撃される可能性もある。
「でもそれならさっき上手く…
「もう1つ。俺と離れると寒い」
俺の半径2メートル以内。それが俺のダンジョン領域内だ。この中にいる限りは適温が保たれ、動きを阻害する事はない。だが、この領域内から出るとーー
「さっきは寒かっただろう?」
「う…」
そう、あの震えている姿は演技でも何でもない。本当に寒くて体を震わせていたんだ。ルイエには無理をさせてしまった…。
「俺はルイエが怪我をしたらと思うと気が気じゃないんだよ…だから頼む」
「あ、う、うん…わ、分かった」
よし。ルイエの説得には成功した。
これからは俺のターンだ。
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