第3話 ダンジョン*

 一方。魔王城のジメジメとした暗い部屋。


「あんの…! クソ魔王!! ウチの息子追放しやがって!! 八つ裂きにしてやる!!」

「俺がアイツの頭蓋を握りつぶすんだよ! 邪魔すんじゃねぇ!!」

「男って野蛮〜…そんな事しても一瞬の苦しみで終わっちゃうじゃん〜」

「そうですよ。やるなら相手が最上級に長く苦しみ、娘達を追放した事を後悔する様に計画しないといけません……確実に行きましょう」




 *


「よし、これだけ有れば大丈夫だろ。そろそろ帰るぞー」

「おーけー」

「…おぅ」

「…ん」


 少し大きな声で皆んなに呼び掛けるが、起きたばかりの2人はまだ寝ぼけている様で、返事が小さい。


 ルイエについてはいつも通りだが、ガギルにしては珍しい。


 俺は先頭に立ちながら、手に数個の木の実を持っているガギルへと話しかける。


「ガギル、何でそんな眠そうなんだ?」

「…あぁ、あの洞窟だが結局何だが分からなくてな…朝方まで調べてたんだ」


 アレを朝方までやっていたのか…興味を示したらコレだ。困ったものだ…だけど…。


「それなんだが、あの洞窟はどうやらダンジョンらしい」

「「はぁ!?」」

「それで俺があのダンジョン主らしい」

「「「はぁっ!!?」」」


 皆んなの不安に満ちた様な視線が、此方を見つめた。




 数分後。


 俺は朝起きたら空中に半透明なボードがあった事、俺がダンジョンの主になった事、俺以外にはボードは見えない事を話した。


「…ダンジョン…だから温かったのか?」

「ダンジョンってあの…怖い奴等が出て来るとこだよねー…その主って…ご愁傷様ー」

「私達はあそこで寝泊まりして無事だったのは、アノムが主になったからなのかしら?」

「ハッキリ言えばよく分からない。だけど危険ではない筈だ」


 さっきダンジョンの情報を開示した時、モンスター数、罠数等、危険そうな物は0だった。モンスターも位階というものが0なら出没しない様だしな。


 しかも俺達はあのダンジョンで一晩、何もなく安全に過ごす事が出来た。それが何よりの証拠だろう。


「本当にその半透明のボードがあるなら、俺にも見せてくれないか?」


 ガギルが興味があるのか聞く。


「エンペルは見えなかったから無理だと思うが…」

「エンペルが寝ぼけてた可能性もある。今の俺なら確実に目が覚めた。見逃しはしない」


 ガギルの顔が迫る。


 隣ではエンペルが「寝ぼけてなかったよー!」と抗議の声を上げているがお構いなしだ。


「…分かった」


 俺はガギルの顔の迫力に、少し押されながらも足早に洞窟へと向かった。




 ダンジョン、もとい洞窟に着くと、取って来た木の実を食べながら指を差す。


「此処だ。此処に浮いてるんだが見えるか?」


 ガギルは目を細めて空中を見つめる。


「………見え…る」

「え!」

「気が…する…」


 …どうやら見栄を張っている様だ。後ろにいる2人も呆れている様だ。


「取り敢えずボードに書いてある事を地面に書くぞ?」

「! その手があった! 早く書いてくれ!」


 俺は説明を交えながら地面に、ダンジョンの情報を書いていった。




「ーーーって、言う訳だ」

「…なるほど」

「へぇー、よく分からなーい」

「…これは結局何なの?」


 ルイエがDスキルの場所を指差す。


「これか…」


 ダンジョン特有の能力、Dスキル【移動】。


 ハッキリ言えば予想がつかない。ダンジョンの能力が移動なんて何が起きるんだ?


「気になるな…」


【Dスキル 移動を使用しますか?】


 俺の言動を正確に読み取ったのか、ボードが目の前に表示される。


「…皆んなDスキル使ってみてもいいか?」


 そう聞くとガギルは肩をすくめた。


「アノムがダンジョン主なんだ。勝手にしろ。それよりもやるなら早くやってくれ」

「…それはガギルの願望が入ってないか? まぁいいが…2人はどうなんだ?」


 俺はガギル以外の2人の方向を見る。


「気になるー! どんな事になるんだろー?」

「分からないわ。ただ何か変化がある事は確実ね」


 2人はもうとっくの昔に、俺達の話は聞いてなかったらしい…。


「よし。やるか」


 俺は大きく息を吐いた後、空中のボードに向かって言う。


「Dスキルを発動させてくれ」


【ダンジョン主からの命令を受託。Dスキル移動を発動させます】


 そう表示された後、洞窟の中は強く光り輝き始めた。

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