第7話 牛タン祭り
美容室から出た後、そのまま家に帰る予定だったのだが、臨時収入が入ったことを思い出し、近くのデパートによることにした。
目当ては洋服店だ。髪型を整えてイケメンに磨きをかけた俺は、せっかくならここでファッションも整え更なるイケメンを目指してみたくなった。
イケメンなら何を着ていても似合うというが、それなら逆説的により良いものを着用すればその魅力はさらに磨きがかかるともいえる。
というわけでやってきたメンズ洋服を多数取り揃えられた店にてマネキン買いと、これまた美人な店員さんによるお任せコーデの洋服一式を数パターン購入。
合計三万程度の出費だが、それでも今日手に入ったスクラッチの当選金五万円で十分賄えているので問題ない。
それにこれからそれほど経たずして億万長者になることは確定しているので、今持っている多少の金や貯金を全部使ったところで俺はノーダメなのだ。
洋服屋を出る頃には丁度一時を少しだけ過ぎた時間だったので、フードコーナーへと脚を運び、うどん専門のチェーン店のぶっかけうどん大を喰らい腹を満たす。
大盛りにして四百円という激安ながら、味も申し分なく美味いので、貧乏時代からよくお世話になっている店だが、億万長者になってもたまには来ようと思う。それほど満足のいく食事であった。
その後同じデパート内に存在するキッチン用品を幅広く取り揃えられた店に移動し、最新のお高いフライパンや鍋といった調理器具を店員さんのおすすめで揃え俺は久々の買い物を終え自宅へと帰還した。
ちなみに思ったよりもお金がかかったため、クレジットカードで来月払いにしてある。
これで宝くじが当たらなかったから悲惨なことになるが、ありもしない未来を心配する必要はないので問題ない。
キッチン用品の種類がかなり多く、色々と見ているうちに刻々と時間は過ぎていたようで、既に時刻は夕方を過ぎていた。
晩飯は家で自炊にする。せっかく高い調理器具を揃えたのだから使わないともったいない。
と、その前に昼前にためておいたポイントを使って今日初となるガチャを引こう。
タップガチャを起動して、ガチャ画面に移行し、ガチャを引くをタップ。
【アイテム:UC.特上国産厚切り牛タン1キロ×5】
結果はアイテムのアンコモンで食材。それも俺が大好きな牛タンだ。今日はとろろご飯とスーパーで買っていた安い牛タンを晩飯にしようと思っていたのだが、メニューを変更してとろろかけ特上国産厚切り牛タン丼を食すことを決めた。
ただ、これを先に食べるとスーパーの安い牛タンを食べたくなくなるかもしれないので、そちらをご飯が炊ける前につまみ感覚で食べておくことにした。
とりあえず米を炊飯器に一合セットして、同時に元から家にあったフライパンで安い牛タンを焼き、行儀が悪いがキッチンで立ち食いする。
「うん、普通に美味い」
安いものとはいえ一パック八切れ程度で千円近くするものだから、当然不味いわけではない。
ただ、相手が悪かっただけだ。特上と国産という付加価値がついた厚切り牛タンとスーパーの安い牛タンを比べること自体が間違いなのだ。と、比べている当人が言うのもおかしいけどな。
さて、まだまだ米は炊けないので、それまで時間を潰す為にタップガチャを起動してポイント集めに励む。
今日もう一度引くかはまだ決めていないが、せっかくの隙間時間を有効活用しないというのは大きな損失を生む。
そうして米が炊けるまでひたすらスマホをタップしまくり、なんとか炊けるまでに一回分のポイントを集めることができた。
とりあえず今すぐガチャを引く気は無いのでスマホを一旦しまい、気を取り直して、晩飯の準備を再開する。
先に長芋を擦った後、ストレージから特上国産厚切り牛タン1キロ分を取り出す。
大体厚さ1センチ程度で既に一切れ一切れに切り込みも入っている状態だ。
そしてそれを焼くのは先程デパートで買ったフライパン。
何を隠そうこれから使うフライパンは、お値段二万五千円を超える高級フライパンだ。熱伝導がとても優れていて、焦げつくこともなくとても長持ちするとのことだ。他にも色々と説明はされたが、今はそんなことより早く調理してしまおう。
牛タンの最適な焼き加減なんてわからないが、とりあえず焦がさないように焼き上げられれば味が極端に落ちることはないだろう。
焼き上がる前に丼にご飯を盛り付け、その上からとろろをぶっかける。上からふた回し程醤油を垂らしかけた所で、特上牛タンが焼き上がった。
流石に全ては上に乗らないので、半分をとろろご飯の上に並べて、最後に上に山わさびを盛り付け、残りは別皿に分けておく。
よし! これにて、とろろかけ特上国産厚切り牛タン丼&特上国産厚切り牛タン焼肉の完成だ!
いざ、実食……!
先ずは、特上牛タンオンリーからいってみる。
「あはははは……美味すぎて笑えちまうぜ」
あまりの美味しさに笑い声をあげてるほどの可笑しなテンションになってしまう。
ガチャで出た食材でしかもアンコモンだから名前自体にもインパクトがあってかなり期待していたのだが、そんな俺の期待をあっさりと超えてきた。
噛むたびに溢れ出る極上の肉汁と脂の甘味、牛タン特有のコリコリとした食感はいつまでも噛んでいたいと思うほど心地がいい。
そして何より肉自体の味が正に特上というランクに恥じぬ美味しさだ。
今度は醤油で味付けされたとろろが絡まった熱々の白米と同時に食す。
「幸せの波が押し寄せてきやがる……」
それからは一言も言葉を発することができず、また箸も止まらず、気づけばいつのまにかとろろご飯も特上牛タンも目の前からなくなっていた。
「うまかった……ごちそうさまでした……」
今の俺の状態を一言で表すなら賢者タイムと呼ぶのが的確だろう。
人は素晴らしく美味しいものを食べれば、エロいことなどせずとも賢者へと至るのだと、この時俺は初めて知ったのである。
まだまだ食べたいし、なんなら無限に食べれるのではないかと言うほど美味しかったが、もう既に4.5キロしか残っていないのだから、大事に食べていかなければならない。
ガチャは気まぐれ、欲しいものが当たるとは限らないのだから。
それに、この美味い肉を独占するのは勿体ない。実家の家族にも食べさせてあげたいので、明日あたり帰って持っていってあげよう。
さて、落ち着いたところで片付けをする。
皿洗いを済ませ、今日はしっかりとお風呂のお湯に浸かって身体の疲れと汚れを流して明日ある最後の仕事に備える。
時刻はこの時点で八時過ぎ。
特にやりたいこともないので、眠くなるまでテレビを見ながらスマホをタップしてポイントを貯める。
それから時間にして三時間、ながらタップでポイントを貯め続けた俺は、眠くなる前にはもともとあったポイントと足して、合計三十八マンポイントも貯めることができた。
もう少しでガチャ四回分であるが、そろそろ寝ないと明日の仕事がしんどいので、キリが悪いところだが、眠ることにする。
ガチャ自体も明日の仕事が終わった後に仕事を辞められた記念として一気に引くことにして、俺は睡魔に抗うことなく眠りについた。
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