血族狩り、準備 中
車を適当な有料駐車場に停め、これから始める血族狩りの計画を再確認する。
「おさらいするぞ。
奴が目を覚ました零時を目安に、ひとまずのタイムリミットにする。
それまでにティアが戦うのに充分な広さがある場所の確保と準備をしなきゃいけない訳なんだが……。
カーティ、血界偽装みたいな事は出来るか?」
「そこはご心配無く。
真祖のそれには及ばないとはいえ、魔力を用いた偽装や工作は教会の得意とするところですので」
カーティは胸を叩いて自信ありげに返答する。
ここで出来ません、などと言われれば計画が早速転けてしまう。良い返事が聞けた事に安堵して、オミッドはアタッシュケースを開けた。
貸り受けた銃に弾倉を組み合わせ、いつでも撃てるようにセットしたら、後は安全装置をかけて上着の下に付けてきたホルスターに納める。
予備の弾倉は内ポケットに突っ込んだ。
「先輩、銃の扱いは大丈夫ですか?」
「これでも警官だぞ? 射撃訓練とかで撃った事もある」
「して、その腕前の程は?」
「……そりゃ、人前にはある、ハズ」
そうは言うが、その言葉に自信は篭っていない。
それもそのはず、オミッドは今まで人に対して銃を撃った経験が無かった。
「ハズ? もしかして、人に向けて撃った事無いんですか!?」
「いや、違うぞ? 発砲すると後々面倒だし、大体は警棒で事足りるし……」
「あーはいはい。だから襲われた時、警棒で対処しようとしてたんですね。
効かないけど、一応拳銃持ってるのに何で使わないのか疑問でしたが、今腑に落ちました。
そんな先輩には、アレのが合ってるかもですね。ちょっと待ってて下さい」
言い繕おうとするのを聞き流して、カーティはトランクに回り込んで、中から一本の杖を取り出してきた。
「何だそれ? ていうかもしかしてお前、俺の車に無断で私物積んでんの?」
「え、あー……この杖はですね!!!」
「無視かよ!!! ……まあいいけど」
「ハハハ、……すいませんでした。
コホン。ええっとですね、これ、一見ただの杖なんですけど実は仕掛けがありまして」
と、カーティは謝りながら杖をオミッドによく見えるように掲げてポケットから紙片を取り出して杖に沿わせる。
すると沿わせた部分が、装飾や文字が刻まれた剣身へと変わっていった。
「このように予め設定しておいた、対応する聖典の紙片を滑らせると、魔力による偽装と鞘が解けて対血族用の剣になります」
「へぇ、凄いな!」
仕組みは一切分からないが、偽装と工作が得意と自賛するだけはある。
オミッドが感心していると、カーティは剣身に再度紙片を滑らせ杖に戻し、それを彼に差し出した。
「ではこの杖剣をお貸しします。持っていて下さい」
「良いのか? なんか俺だけえらく重武装なんだけど。お前が持ってた方が良いんじゃないか?」
「むしろ、そちらが足りないくらいですよ。
私には聖輪がありますので、お気になさらず。
先輩も使えれば良いんですが、何分修練が要り執行官もあまり使いたがらない代物なんですよね、これって」
コレの良さが分からないなんて、と哀れむようにカーティは言った。どうやら彼女は少数派の人間らしい。
ともかく、銃よりはまだ得意な警棒の要領で使えそうな武器をオミッドは有り難く貸してもらう事にした。
「ひとまず、これで血族と出会しても大丈夫だな」
「では私からも一つ言っておきます。ここはもう敵地。恐らくデーヴの配下も相当数が徘徊しているはずです。
武器はありますが最低限。避けられるなら避けますが、いくらかは戦闘になるでしょう。
そうなったら私が前に出ますので、先輩は本番まで出来る限り体力の温存に努めて下さい」
それに頷き、準備を終えた二人は場所選びを始めた。
「では、行動開始です。今回は襲われやすい路地裏は避けて、出来る限り人通りの多い所を進んでいきましょう」
「今回は、って事はいつもは違うのか?」
「ええ。普段なら昼夜問わず、人通りの無い所にいる血族をひたすら狩り続け、親玉の弱体化を図ります。
これが教会のやり方なので、本来なら襲われた方が効率良いんです」
「相手が自ら出て来なければならない状況を作り出す、って事か……」
「ええ。そんな感じです。手足となる部下が少なくなると、親玉自身が出て来ざるを得なくなりますから」
しかし、と忌々しげにしかめ面をして続ける。
「今回みたいに大分勢力進行が進むとこの虱潰しは得策ではありません。何せ私達って基本的にワンマンかツーマンですから、圧倒的に多勢に無勢なわけでして。
今回はたまたま先輩を助けた時に、警察内部に潜り込んで情報収集する策を思いつきました」
「助けた? 俺を?」
カーティはそう言うが、オミッド自身には全く身に覚えが無かった。
「憶えてないですか? 丁度半月程前に血族に襲われた先輩を助けたじゃないですか。まあ人命救助を優先したせいで、その血族は手負いのまま逃してしまいましたけど」
「いいや? 記憶にない」
「そうですか。おかしいですね、先輩への暗示はもう解けてるはずだから記憶も蘇っているはずですが……」
などと言われても、当の本人は思い出そうとしてもそれらしい記憶は無かった。
「まあ、問題ありません。
恐らく、先輩の脳がその記憶を抑え込んでいるのでしょう。何にせよ、気にする必要は無いし、無理に思い出して傷付く必要はありませんよ。
あの光景は、一般人からすれば血の気が引くほど凄惨でしたから」
「そ、そうか。なら、気にしないでおくよ」
と言いつつも、オミッドは何故か心の何処かに引っ掛かりを感じ、否応にも気にしてしまう。
仕方が無いので、その引っ掛かりには気を配りつつ、今は頭の片隅に置いておく事にした。
「話を戻すぞ。さっき、私達って言ったよな? 連盟は違うのか?」
「ええ。彼らはそんなまどろっこしい事はしません。
キングスヤードの応援、って名目で血族絡みの事件の主導権を引き継いで、そうやって得た情報を頼りに、連盟の息のかかった人間を使って潜伏先……
これが、彼らのセオリーです」
「なるほど。根本から一気に、って感じか。
脅威を取り除くにもそれぞれ得意なやり方があるんだな」
「その通りです。今回のような事例は連盟の方が適していますが……。幸い、今回は真祖の女王が味方するという特異中の特異事例でもありますので、その辺は何とかなるでしょう。
とりあえず今は大通りを通ってある程度移動して、そこから舞台を整えにいきましょう」
と、ここでオミッドは気付く。
彼女は喫茶店の案内看板に沿って歩みを進めていたのだ。
「それは良いんだが、何処行こうとしてるんだ!? 場所探しをするんじゃないのか!?」
「えっ? そりゃ場所決めですよ。今時別に歩き回らなくたって、これさえあれば周辺の地形なんて把握出来ますし」
自身の携帯端末を指差して、カーティはそう言った。
捜査は足でするもの、という古い考えを持つオミッドには思い付かない発想ではあったが、確かにその方が効率的なのは疑いない。
「それは良いんだが、何で喫茶店に?」
「路上で突っ立ってて不審がられても仕方ないじゃないですか」
正論である。
特に反論する必要も、その気も無かったオミッドは、黙ってついて行く事にした。
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