果汁ロード

 熟れた果実から滴り落ちる汁が濡らす地面。

「果汁ロード」と呼ばれるその道にアリの群れが行列している。それは彼らの巣まで続く黒い軌跡となっていた。

 一匹のキリギリスがその光景を草の上から見下ろしている。

「ご苦労なこったね。果実の汁を体に貯め込んでは運び、貯め込んでは運びさ。あんな大きな死骸も運んじゃって荷重オーバーじゃないのかね」

 キリギリスはバンジョーを弾きながら「なあ、おいらと一緒に気軽に歌でもどうだい?」

 と、重い荷物を運ぶアリ達に向かって言った。

「そんな暇ないっす。今のうちに食料溜め込んどかないと……」

 アリは息を切らしながらキリギリスに返す。その様子を見てキリギリスは「いやぁ、わりとギリギリっすねえ。ははは!」と笑った。


 ──やがて厳しい冬が来た。

 果汁ロードには働き過ぎて力尽きた幾匹ものアリ。そのアリ達が帰るはずだった巣穴の中には、美味しい汁を吸って大きく育ったアリ子ら。そしてこの冬一番のご馳走になるであろう貯蔵されたキリギリスの死骸──。


 次々と力尽きていくアリ達を草の上から眺めながら、キリギリスは秋の終わり頃に息絶えた。

 冬がどれほど厳しいかなど、キリギリスにはどうでも良いことだった。自らの寿命を知っていたキリギリスは、死ぬその時まで歌い続けた――。


「テキリージー、テキリージー―─好きなことやって死ねるだなんて幸せさ、この世は気まぐれ果汁ロード──カモン! アリンコども! ドンセイメイビー―─」

      :

      :

      : 

 おいらはあの道あくせく行くやつ

 黙って見てられなかったんだ

 草の上からサクセス説くことはねえ

 歌っておくれよアリンコよ

 

 テキリージー テキリージー

 自分で背負ってイラっとすんなよ

 疲れてるんだろ少しは休めよ


 おいらは草の上で歌い続けるぜ

 からかっちまって悪かったって

 頑張ってんだろ分かってるって

 少しは歌えよアリンコよ

 

 敵は無慈悲なスクルージ

 クリスマスキャロルが流れるころには

 憑かれてたのに気づくだろうよ


 おいらは冬など怖きゃねえのさ

 ブルってんのか? 奮ってやれよ

 歌わねんだろ? 救われてえなら

 黙って働けアリンコよ


 テキリージー テキリージー

 好きなことやって死ねるだなんて幸せさ

 この世は気まぐれ果汁ロード


 カモン! アリンコども!

 ドンセイメイビー もう辟易

 スクルージ 敵のジジイ

 テキリージー 生きていいぜ─────

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