第12話 神代のAI



 なんにしても、デウスマキナを動ける状態にしなければ話にならない。

 ……ということで、俺は再び【フローガ】の残骸の前まで戻ってきた。



(……やはり、使えそうなパーツはほぼ無いな)



 頭部も両手脚もないため、【パンドラ】に流用できそうなパーツはコックピット内の細々した機器くらいである。

 やはり、本命はアレ・・ということになりそうだ。





 ………………………………………………


 ……………………………………


 …………………………





(これが、【アトラス】か……)



 カメラ越しには見えていたが、改めて肉眼で見るとちょっとした感動を覚える。

 これよりもっと凄いモノを先程見たハズなのだが、現実味がある分こちらの方が感動が大きい。

 何せこのデウスマキナは、子どもの頃図鑑などの写真でしか見たことがないような代物なのだ。

 それを実際に見て、触れるとなると、どうしても興奮は隠せない。



(よく見ると、かなりボロボロだな)



 外装は汚れこそしてるが、ほとんど劣化している様子がない。

 しかし、いくつかのパーツは目に見えて駄目になっていた。


 金属は基本的に錆びるし、腐食するものだ。

 中には金や一部の合金のように錆びや腐食に強い金属も存在するが、強度や重量の問題もあるため、全てのパーツでそういった金属を利用することはできない。


 現代のデウスマキナであれば未踏領域探索を主目的としているため、パーツにも錆びなどの影響に強い金属が使われているのだが、この【アトラス】は戦闘目的に製造されたようなので、そういった対策も疎かになっていたようだ。



(これで、よくあれだけ動けたものだ)



 腕はよく見ると根元から折れかけており、まともに動くようには見えない。

 あの時はこの腕に捕まればお終いだと思ったが、この有様なら簡単に逃げられたかもしれない。

 今となっては考えても無駄なことだが。



(狂乱の影響下にあったということは制御機構は無事ということだと思うが……、コックピットは使い物にならんな)



 座席は朽ち果てており、操縦桿周りも金属製の部分以外はボロボロだ。

 可能であれば城まで操縦していきたいところだったが、どうやらそれは無理そうである。



「AI、音声認識は可能か」


『…………』



 反応がない。

 それは壊れているからなのか、それとも2000年前には音声認識が存在しなかったのか……

 理由はどちらかわからないが、ともかくマニュアル入力をする必要がある。

 問題は、入力できそうな端末が存在しないことだ。



(これは、厄介な仕事になりそうだ……)





 ◇





 先日は【フローガ】のコックピットで就寝し、朝になり再び【アトラス】の制御機構へ接続を試みる。

 入力端末については【フローガ】に備え付けられているパーツを持ってきたが、流石に規格が違うため簡単に接続することはできなかった。

 しかし、この手のマニュアル操作端末については時代が変わっても大きな変化はないハズなので、配線さえできれば動作はする……と思っている。


 2000年前の技術がどの程度だったかは不明だが、神々の造ったデウスマキナを流用しているという点では現代と大差はない。

 現代でもデウスマキナが発見されてからまだ数十年しか経っていないので、技術的に大きな進歩はなかったと思われる。

 その証拠に、配線や構造については俺の良く知るものであった。



(……よし、繋げたぞ)



 少し強引に配線したところ、端末との通電を確認する。

 これは、魔導融合炉リアクターから変換された電気を蓄積するバッテリーが生きていることを意味する。

 人造であれば壊れている可能性が高かったが、【アトラス】のバッテリーは神造なのかもしれない。



(さて、問題は入力を受け付けるかだが……)



 とりあえず基本となる開始コマンドを実行してみる……が、無反応。

 他にも思いつく限り実行してみるが、どれも反応は無かった。

 コマンドが現在とは違うのか、電子ロックに引っかかってるのか……

 いや、後者は恐らくない。

 配線は制御機構に直結させているため、少なくとも魔導融合炉リアクターの始動に関しては問題無いハズだ。



(……っ! そうか、最初期の頃のデウスマキナは、そもそも電子キーじゃないんだったな)



 自分の生まれる前の話だが、初期の頃のデウスマキナは車などと同じように物理キータイプで始動させていたようだ。

 盗難が相次いだことから電子キーに切り替わったようだが、現代でも盗難は完全に防げているワケではない。

 俺がやったように制御機構に直結することさえできれば(それにはかなり大掛かりな作業が必要だが)、認証のない旧式のデウスマキナであれば盗むことが可能である。


 ともかく、旧式と同じであれば、イグニッションスイッチのようなものが存在するハズだ。

 コックピットの下に潜り込み、ライトで奥を照らす。

 幸いカバーなどは全て朽ちているため、回路はむき出し状態である。

 イグニッションスイッチはすぐに見つかった。


 マイナスドライバーでスイッチを回すと、機体が震え、重低音が響く。



『【アトラス】の始動に成功したようですね』


「っ! この声……、【パンドラ】か」



 取り付けた端末には、通信用のスピーカーが内蔵されている。

 それを経由して、【パンドラ】がコンタクトをとってきたらしい。

 一体どんなカラクリかはわからないが、やはり神代のデウスマキナは出鱈目である。



『私は感知領域内のデウスマキナを全て把握できるのですよ? 魔導融合炉リアクターが起動すれば当然わかります』


「……お前は心も読めるのか」


『いいえ。簡単な予測に過ぎません』



 俺の思考はわかりやすいと言いたいらしい。

 別にどう思われようが構わないが、俺の中でコイツは「気に食わないヤツ」にカテゴライズされた。



『それで、そのデウスマキナは動かせそうですか?』


「いや、操縦桿周りが死んでるから直接制御機構を操作しようとしたが、入力を受け付けない」


『そうですか。であれば、私が干渉して動かしましょう』


「っ!? そんなことができるのか!?」


魔導融合炉リアクターさえ起動していれば、簡単な動作くらいなら可能です』



 ……出鱈目だ。

 そんなことができるなら、俺の出る幕などなかったのではないか?



『私には遠隔操作で魔導融合炉リアクターの起動まではできません。アナタの功績は大きいですよ』


「……そうか」



 会話を先読みし、気をまわしてフォローまで入れる存在を、果たしてAIと呼んでいいのか……、もう俺にはわからなかった。



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