第2-11話 邪神教徒との戦い
「なんだか知らねぇが、お前の思い通りにさせるかよ!」
冒険者の一人が邪神教徒めがけて斬りかかる。
邪神教徒はそれを冷めた目で
まるで冒険者の攻撃など脅威ではないとでもいうかのように。
刹那、冒険者の振るった剣が見えない何かに接触。
ガギンッ! と音を立てて、剣が弾きとんだ。
「なんだこれは!」
驚愕する冒険者をよそに、俺は邪神教徒を観察する。
よく目を凝らして見ると、半透明の球体が邪神教徒を包んでいることに気づいた。
「……もしかして、結界か?」
「よく分かったな。俺は結界を貼る魔道具によって守られている。テメェらの攻撃は一切合切すべて届かねーぜ」
邪神教徒は高笑いする。
それだけ結界の強度に自信があるのだろう。
「ルカの攻撃をくらえ!」
ルカは【炎装】を発動。
続けて【剛力無双】を発動した。
その状態で爪撃を繰り出す!
炎をまとうことで自身の攻撃力を引き上げる【炎装】。
その性能は進化したことによって大幅に引き上げられている。
【身体強化】の上位スキルである【剛力無双】の強さは言わずもがな。
そこに【炎斬拡張】が加われば、ルカの攻撃は必殺の一撃となる。
結界がいかに
──耐えた。
ガキィンッ! と甲高い音が響く。
弾き飛ばされたルカは、素早く着地して俺のもとに戻ってきた。
「あの結界とんでもなく硬い!」
「ああ、ルカの攻撃ですらヒビ一つ入らないとは思いもしなかった」
「……これ、結構ヤバいかも」
俺とルカは完全な物理アタッカータイプだ。
近接で攻撃するしかできない以上、あの結界とは相性が最悪と言ってもいい。
どうにかして抜け道を見つける必要がある。
「どうした? もう終わりか?」
「クソ……! 魔法ならどうだ!」
魔法使いたちがいっせいに魔法を放つ。
炎の矢。
雷の槍。
闇の弾丸。
数々の魔法が結界に直撃するが、全て防がれてしまった。
考えれば当然か。
邪神教徒が全幅の信頼を置くぐらいなんだ。
そんな誰でも思いつくような抜け道があるわけない。
「だったら、これでどうかしら! クリエイト・ストーン!」
最後尾で詠唱していた女性が杖を掲げる。
直後、邪神教徒の真上に巨大な岩塊が出現した。
クリエイト・ストーンは攻撃魔法ではない。
ただ岩を生み出すだけの魔法だ。
あの結界が攻撃魔法しか防がないのなら──。
「落ちた岩は結界を透過して俺に直撃する、とでも思ったか?」
岩が結界を透過することはなかった。
球体上の結界の上を転がって、地面に落ちる。
「この結界はすべての物理攻撃、スキル、魔法を防ぐ。テメェらがいくらあがいても無駄だぜ」
邪神教徒は高笑いしてから、静かに告げた。
「さあ、ここからは俺のターンだ」
邪神教徒の攻撃がくる!
俺とルカは身構えた。
結界の穴を探るのは、あいつの攻撃を見切った後だ。
「エクストラスキル【共感性羞恥】──発動!」
邪神教徒が杖を掲げると、一瞬だけ俺たちの体が紫色の光に包まれた。
……【共感性羞恥】。
聞いたこともないスキルだ。
デバフか何かの類なのだろうか?
と思ったのだが、体にはなんの異変もない。
「何したんだろう……?」
それは俺だけではなかったようで、ルカや冒険者たちもみんな不思議そうにしていた。
「他人が恥をかいたり恥ずかしい行動をした時に自分も恥ずかしく感じてしまう。それが【共感性羞恥】の効果だ!」
邪神教徒が宣言する。
──他人が恥をかいたり恥ずかしい行動をした時に自分も恥ずかしく感じてしまう。
まさに共感性羞恥という文字通りの効果を持つスキルだった。
だけど、スキルの効果がこれだけとは思えない。
【共感性羞恥】はエクストラスキルなのだから。
「死のカウントダウンの始まりだぜ」
邪神教徒が指をパチンと鳴らす。
直後、この場にいる全員の頭上にメーターのようなものが出現した。
もちろんその中には邪神教徒も含まれている。
「このメーターを攻撃しても意味ないか」
試しに剣で斬ってみたが、剣はメーターを透過してしまった。
どうやらこのメーターは、実体のない幻みたいだ。
「そのメーターがなんなのか気になるか? いいだろう、教えてやる。お前らの命を以ってな!」
そして、邪神教徒は語りだした。
「ある人気店を一人の男が訪れた。タダで料理が食べたかった彼は、注文した料理に自分の髪の毛を入れ、店員に対し『料理に髪の毛が入っていた! お詫びにタダで好きな料理を食わせろ!』と詰め寄った。お前たちはこの男をどう思う?」
「急に何言ってんの?」
そりゃぁ、人として恥ずかしい行動だと思うけど──あれ……?
なんだか、無性に恥ずかしくなってきた。
まるで自分が恥知らずな行動をしたかのように──。
……もしかして、
「そう、これが【共感性羞恥】だ。どうだ、恥ずかしいだろう?」
恥ずかしい。
確かに恥ずかしいけど、
「それになんの意味がある?」
俺たちはただ恥ずかしい思いをしただけだ。
ダメージを負ったわけでも、状態異常になったわけでも、デバフを喰らったわけでもない。
「あ、メーターが少しだけ貯まってる……」
ルカに釣られて、みんながいっせいにメーターを確認する。
人によって程度の差はあれど、みんな緑色のゲージが貯まっていた。
もちろん、俺のメーターも少しだけ貯まっている。
「羞恥メーターが貯まりきったらどうなるのかは、貯まってからのお楽しみだ」
邪神教徒は意地悪く笑う。
【共感性羞恥】がエクストラスキルな以上、メーターが貯まると厄介なことが起きるのだろう。
それだけは防がないといけない。
「ルカ、同時に攻撃するぞ!」
「ん、りょーかい!」
「ハハハッ! 無駄無駄ァ! この結界はSランク冒険者レベルの攻撃力がないと壊すことができねーぜ! さあ、もっと恥ずかしい思いをしてもらおうじゃないか。幻影魔法、発動!」
邪神教徒が杖を掲げる。
それと同時に幻が現れた。
ミラは幻を現実へ変えるスキルがあるから幻影魔法を攻撃手段として使えるが、本来の幻影魔法はサポートに特化した魔法だ。
邪神教徒の幻影魔法で俺たちが倒されることはないのだが……。
幻影魔法と【共感性羞恥】は、最悪のシナジーを発揮した。
「言葉だけで恥ずかしく感じてしまうんだ。幻影魔法で鮮明な映像を見せられた日には、どうなっちまうんだろうなぁ?」
「ぐっ……! 恥ずかしい……!」
街の大通りで盛大にすっ転んだ人が友達にからかわれただけの映像が映し出される。
恥ずかしさレベルはクレーマー男より低いのに、メーターの増え具合はクレーマー男の倍以上だった。
「次の映像は、『結婚式で新郎新婦が誓いのキスをする瞬間に盛大に屁をこいてしまった男』の映像だ!」
「うわぁああああああああっ!? 周りからの視線が痛い! 大事な結婚式を台無しにしてしまったぁあああああ!!!」
「うぅ……新郎新婦さんに合わせる顔がない……」
俺たちはたまらず地面の上を転がりまわる。
泥が体につくのも気にならないくらい恥ずかしかった。
なんか、最初の映像より生々しいんだよ。
やけにリアルっていうかなんというか……。
「おー、さすがの威力だな。ちなみにさっきの屁をこいた男は俺の幼馴染だ。いやー、あれはヤバかった」
「当事者だったのかよ!」
道理でやけにリアルだったわけだ。
実体験だから、その分、羞恥的破壊力が高かったのだろう。
「ぐぅおおおおおおお! 恥ずかしい! 恥ずかしすぎて体がどうにかなってしまいそうだ! 助けてくれえええええ!!!」
「おっ、羞恥メーターがマックスになったやつが出たな」
見れば、三人ほどメーターがマックスになっていた。
彼らは悶え苦しんでから──。
爆発した。
羞恥心が爆発したのではない。
文字通り爆発したのだ。
体の内側からドカンッと。
口や鼻から煙を出しながら、彼らは倒れた。
「羞恥メーターがマックスになると、体が爆発する」
「なんで!?」
「恥ずかしすぎて爆発したくなることもあるだろう?」
ないよ。
いや、恥ずかしすぎていっそ爆発したいという気持ちは分からないでもないけど、だからって本当に爆発するのはおかしいだろ!
……ともかく、羞恥メーターがマックスになるのだけは
体が内側から爆発するから、回避のしようがない。
爆発した三人は死んではいないが、瀕死の状態だ。
すぐにでも回復魔法を使いたいところだけど、今回ばかりは後回しにする。
瀕死の三人の羞恥メーターがマックスのままなのを見る限り、回復してもすぐに爆発しそうだ。
「……回復魔法は使わないか。いい判断だ。回復魔法を使っていたら、そいつらは間違いなく爆死してたぜ」
「やっぱりか……」
「火力が足りてねぇのもどかしいなぁ。もっと派手に爆散させてやりてぇところだが、まあいい。羞恥タイムの続きといこうじゃねーか」
容赦なく、次の映像が始まった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます