第2-3話 妹っていいよね
「イェ~イ! 私、爆誕っ!!!」
光が晴れる。
中から出てきたのは──。
──ドラゴンではなく、ピンク髪の美少女だった。
「どう? パワーアップしたっしょ?」
ミラがこてんと首をかしげながら聞いてくる。
種族はB-ランクの幻影竜から、A+ランクの
ルカと同じく気配が強くなっているけど、それ以上に見た目の変化がすごい。
腰まで伸びる艶やかなピンク髪。
背中から生える美しい竜の翼。
そして何よりも、顔の上半分を仮面で隠しているのが特徴的だった。
「強くなってるのは確かなんだけど、なんていうかこう……姿が変わったほうのインパクトが大きすぎる」
「ん、ドラゴンから可愛い女の子になったのは予想外」
ミラは俺たちの反応を見てうんうんと頷く。
俺たちを驚かすことができて満足したようだ。
「いやー、大変だったよ。竜から人間形態になるの。ちゃんと進化できてよかったー!」
「ミラも理想の進化ができたみたいだな」
「うん。でも、ごめんね。ルカの進化で溜まった【キメラ作成】のコストを全部使っちゃった」
そう言われて意識してみれば、確かに【キメラ作成】の使用可能コストがゼロになっていた。
つまり、今回は【キメラ作成】はお預けということになる。
だけど、問題ない。
だって──。
「ルカ~、私のことお姉ちゃんって呼んでもいいんだよ?」
「ミラお姉ちゃん」
「ちょっともう一回お願い」
「ミラお姉ちゃん!」
「おうふ……」
こんなにも活き活きとしたミラを見ることができて嬉しいから。
ミラはひとしきりルカを可愛がった後、小声で俺に話しかけてきた。
「ねぇねぇ、クロム。妹っていいね」
「急にどしたん? 内容には同意するけど」
「お姉ちゃんって呼ばれるのたまらないんだけど……! こう、喜びがグッ……! とあふれてくる!」
「超分かる」
「だよね~。ところで、クロム君よ」
突然ミラが俺の肩に腕を回してきた。
腕の柔らかさといい、鼻孔をくすぐる甘い匂いといい、変に意識してしまって恥ずかしい。
人間形態だとこうも違うのか……。
「私のこの姿を見て何か言うことがないかね? ルカには言ったんだから、私にも言ってくれるよね?」
……ミラって意外と意地悪なところがあるんだな。
俺が恥ずかしがっていることに気づいているのは、そのニヤニヤした表情のおかげでよく分かった。
「私にも言ってほしいな~」
ミラの桜色の唇が楽しげに持ち上げられる。
「……可愛い」
「え、何? よく聞こえなかったー。もう一回言ってくれる?」
「ミラは可愛いよ」
そう絞り出せば、ミラは「今日のところは勘弁してあげるね」的な感じで満足気な表情をする。
そのタイミングで、ルカが話しかけてきた。
「クロムお兄ちゃん、強くなれた?」
俺はこれ幸いとばかりに乗っかった。
「ああ。二人が進化したことで、俺も一気に強くなれたよ。ありがとな」
「えへへ、どういたしまして」
「お礼は今度スイーツを奢ってもらうということで」
「ルカもスイーツ食べたい!」
「なら、王都に行った時におススメの店に連れていくってことでいいか?」
そう聞いてみたら、満場一致でOKが出た。
そこで進化会はお開きになり、自由行動の時間へ。
俺とルカは昨日の疲れが抜けきっていないので、このまま宿で休養。
元気が余っているミラは一人で街をブラブラすることになった。
◇◇◇◇
翌日。
俺たちは朝のピークタイムが過ぎた頃合いを見計らって冒険者ギルドにやって来た。
ギルドに入ってすぐに、馴染みの受付嬢さんのいるカウンターに向かう。
「先日はお疲れ様でした。今日はどういった御用でしょうか……って、一人増えてません?」
「まあ、いろいろありまして……。ミラの冒険者登録をお願いします」
「よろしく~」
元気に挨拶したミラを見て考え込む受付嬢さん。
しばらくして、訝しげに訪ねてきた。
「もしかしてですけど……ミラさんって先日まで小さな竜だったりします?」
「お、よく分かったね! 昨日人化したんだよ」
「いろいろありすぎじゃないですかね」
受付嬢さんはそうツッコんでから、話を元に戻した。
「それで、ミラさんの冒険者登録でしたね。今なら登録試験を受けられますけど、どうしますか? ちなみに試験官は今回もライナーさんです」
「もちろんすぐ受けるよ」
「かしこまりました。では、少々お待ちください」
ぺこりとお辞儀して奥に引っ込んだ受付嬢さんを見送る。
「冒険者って魔物でもなれるんだね。てっきり拒否されるものだと思ったんだけど」
「魔物でも知能が人間と同等レベルで意思疎通できるなら登録可能だぞ。なんなら、Sランク冒険者の一人が人化したドラゴンだったりするからな」
「ほえ~、わざわざ人化して冒険者になるような変わったドラゴンもいるんだね」
「ミラも充分変わったドラゴンだろ」
「お待たせしました~」
雑談をしていたら受付嬢さんが戻ってきた。
俺たちは訓練場へと案内される。
人化したミラを見たライナーさんが驚くといった一幕があってから、試験が始まった。
「よーし、本気でこい!」
剣を構えたライナーさんに、ミラが手をかざす。
たった一言、
「眠れ」
ミラがそう呟いた瞬間、ライナーさんがどさりと倒れた。
「え? え? え? 今、何をしたんですか!?」
審判役の受付嬢さんが驚く。
俺は状態異常を治す魔法を使う。
ライナーさんは起き上がるなり、困惑の声を上げた。
「気づいたら意識を失っていたんだが……。何をしたんだ?」
そんな二人に向かって、ミラが説明する。
「いたって簡単。【催眠術】でライナーさんを眠らせただけだよ」
【催眠術】。
進化でミラが獲得したスキルの一つで、文字通り対象を眠らすという効果を持つスキル。
この前戦った魔法陣の蛇が持っていたスキルだ。
「……【催眠術】か。この手の状態異常は同格以上にはほとんど効かない。俺が眠らされたってことは……それだけ強いってことか」
こうして、登録試験は一瞬で決着がついた。
俺たちは訓練場を後にする。
「こちらがミラさんのギルドカードになります」
ミラのランクは──。
「おめでとうございます! ミラさんはBランク冒険者に認定されました!」
俺たちと同じBランクだった。
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